猛獣戦団ビーストファイブ 第38話「美しさは罪!ピンク絶体絶命」

猛獣戦団ビーストファイブ

第38話

「美しさは罪!ピンク絶体絶命」


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 ランドセルを背負った少女、リコが学校帰りのゴミ置き場で見つけた不思議なランプをこすると、中からは紫色の煙とともに魔人が現れた。突然目の前に現れた異形の存在にリコが驚いていると、魔人は彼女に願いごとを言えという。

「願いごと?」

「そう、どんな願いも一つだけ叶えてさしあげましょう。このランプランパー様がね」

 リコの将来の夢はアイドルになることだった。そのためには、クラスで一番可愛いくらいでは足りないこともわかっていた。

「あたし、この国で一番可愛くなりたい」

「この国で一番可愛くなる……。それが君の願いですね?」

 少女には、魔人の口元がにやりと笑ったように見えた――。


「若い女性ばかりが次々に消えているだって!?」

 動物園の地下に設けられた秘密の基地で、赤いシャツを着た飼育員の若者、獅堂しどうタケルはテレビ通信の大画面に向かって叫んだ。

「そうだ。被害の現場では決まって、紫の煙を纏った怪物の姿が目撃されている」

 画面の中から答えるのは、ライオンの顔をしたビーストワールドの指揮官、レオン・ナルドⅢ世だ。ビーストワールドの住人である彼は人間界に来ることはできないので、こうして通信越しにタケル達の指揮を執ってくれるのである。

「人間の犯罪者が起こした事件とも思えないな。シュリョーズの仕業か」

 青いジャケットを羽織った獣医師の青年、馬渕まぶちハヤトが腕組みをしたまま述べる。

「奴ら、性懲りもなくまた『絶望』を集めるつもりだな」

 筋肉質の身体に黒中心のファッションを着崩した調教師の男、牛田うしだゴロウも鼻を鳴らした。

「まだ、そうと決まったわけじゃない。だが警戒の必要はある。ルイとサクラはどうした?」

 レオンが画面越しに尋ねてくるのに対し、獅堂タケルと牛田ゴロウは首をかしげた。馬渕ハヤトが、さらりと、「二人ならショッピングに行くって言ってたぞ」と答える。

「ショッピングぅ? 買い物なんかしてる場合かよ、呼び戻そうぜ」

 ゴロウが変身携帯ビーストフォンを取り出した、その時。

 三人のビーストフォンが一斉に鳴り始め、画面には黄色いカチューシャが目立つトリマーの女性、狐塚こづかルイの逼迫した顔が映し出された。

「みんな、大変! サクラが……!」

「どうした、ルイ!」

「サクラが、ランプの魔人に連れて行かれちゃったの!」

「なんだって!?」

 三人が、そしてレオンが、ルイの報告に驚いた声を上げる。

「……まさか、シュリョーズの怪人に」

「ルイ、そこを動くな! 俺達もすぐに向かう!」

 最後はタケルの号令のもと、男達は基地を飛び出した。


 ピンクのリボンで髪をくくった美女、虎澤とらさわサクラは、何十人もの若い女性達と一緒に、後ろ手に縛られた状態で異空間の牢獄に転がされていた。

 周囲を取り巻く紫色の煙の中から、一つの影が現れる。ランプの魔人を思わせるアラビアンな装束を纏った、異形の怪人。

「あなた、シュリョーズの怪人プレイヤーね!?」

 牢獄の床に倒れたままサクラが怪人を見上げて言うと、怪人は醜悪な顔にニヤニヤと笑みを浮かべながら、サクラから奪ったらしき変身携帯ビーストフォンを片手に取り上げて弄んだ。

「いかにも。シュリョーズのランプランパーと申します。お見知りおきを」

 サクラは後ろ手に拘束されたまま、なんとか立ち上がり、「わたし達を出してよ!」と牢の外の怪人に向かって叫んだ。だが、当然、怪人は聞く耳など持ってはいない。

「ふっふっふっ、憎きビーストファイブの一人を抹殺するチャンスをみすみす逃すはずがないでしょう。幸運でしたよ、美しい女を手当たり次第さらっていった中に、ビーストピンク、キミがいたことはね!」

「……美しい女の人達ばかりをさらって、どうするつもり!?」

「決まっているでしょう。ランプの魔人がすることと言えば一つ……ご主人様の願いを叶えるのですよ」

「ご主人様……?」

「ランプをこすったご主人様は、このランプランパー様に命じたのです。自分をこの国で一番可愛くしろと。願いを叶えるのは簡単、彼女よりも美しい女が全員いなくなればいい。さあ、栄えある処刑第一号はキミだ、ビーストピンク!」

 いつしか怪人の周りに現れていた戦闘員達が、湾曲した剣を構え、牢獄に近づいてくる。

 せめて変身ができれば――!

 サクラが悔しさにキッと敵を睨みつけた、その時。

「そこまでだ!」

 空を裂いて飛ぶ獅子の剣レオンソードの軌跡が、戦闘員達の行く手を遮り、牢獄の前へガキンと音を立てて突き立っていた。

「貴様ら!」

 怪人が振り仰いだ先にはサクラの仲間達の姿があった。タケルが、ハヤトが、ゴロウが、ルイが、戦意に満ちた顔つきで並び立っている。

「みんな!」

「おのれ、どうやってこのランプ空間の中に!」

「お前のご主人様とやらが教えてくれたのさ。……リコちゃん! 今だ、願いを取り消すんだ!」

 タケルが異空間の天を仰いで声を発すると、空間全体に、少女の泣きそうな声が響き渡り始めた。

『あたし、もう魔法のランプになんて頼らない……。可愛さは自分の力で磨きたい……!』

「しまった、ランプの効力が!」

 狼狽する怪人。次の瞬間、周囲を包んでいた紫の煙が消え失せ、サクラ達は現実の世界へと帰還していた。

 目の前には見慣れた都心の景色が広がっている。彼女達の手を縛っていた戒めも、牢獄も、今や影も形もない。サクラは被害者の女性達に寄り添い、安全な場所に逃がしてから、仲間の隣に並び立った。

 ランプを手にした少女が遠くで無事にしているのを確認しつつ、五人は足並み揃えて怪人の前に歩み出る。

「おのれ、ビーストファイブ! よくもこのランプランパー様の計画を!」

「子供の無邪気な願いを『絶望』の材料にするなんて、絶対に許さねえ! みんな、行くぞ!」

「オウ!」

 サクラは仲間達と寸分違わぬ動きでビーストフォンを構えた。ビーストワールドからの力が時空アンテナを通じて人間界に溢れ出し、野性味溢れるメロディが青空に解き放たれる。

「ビーストチェンジ! ハッ!」

 響き渡る五つの咆哮、満ち溢れる五つの力。色鮮やかなスーツに猛獣の野生を宿し、五人の勇者がここに目覚める。

「獅子のプライド、ビーストレッド!」

駿馬しゅんめのスピード、ビーストブルー!」

牡牛おうしのタフネス、ビーストブラック!」

妖狐ようこのイリュージョン、ビーストイエロー!」

白虎びゃっこのビューティ、ビーストピンク!」

「猛獣戦団! ビーストファイブ!」

 高らかに名乗りを上げる五人の後ろで、その戦意を具現化した大爆発が噴き上がった。

「かかれぇ!」

 怪人の号令で戦闘員が一斉に向かってくる。戦士達はそれぞれの武器を手に、幾十人とうごめく悪の尖兵達を斬り倒していく。

「タイガーソード! ハウリング・カッター!」

 サクラ――ビーストピンクもまた、戦闘員三人に向かって剣を振り抜いた。続けざまに虎の脚力を活かして宙へと跳び上がり、群がる戦闘員に、そして怪人ランプランパーに、続けざまの剣閃を喰らわせていく。

 だが、怪人の力は侮れなかった。ランプランパーはピンクの剣を片手で受け止めたかと思うと、両眼から紫色の閃光を発し、彼女に金縛りをかけてきたのだ。

「あ……うっ!」

 身体の動きを封じられ、たじろぐピンクの眼前に、怪人の醜悪な顔が迫る。

「ビーストピンク、貴様の美しさはまさに罪! 己の美しさを悔いて死ぬがいい!」

 怪人の口調には当初のような丁寧さは微塵もなかった。戦闘員が一斉に彼女を取り囲み、剣を振り上げる――だが。

「させるかっ!」

 それぞれの相手を片付けて駆けつけた四人の仲間達が、ピンクに襲いかかろうとしていた戦闘員達を巧みな剣技で斬り捨てる。

「卑怯な真似ばかりしやがって。俺達のサクラには指一本触れさせねえ!」

「あたし達全員が相手よ!」

「ぐうっ、男とブサイクは要らん!」

 怪人が苦し紛れに発した一言は、ビーストイエローの怒りに火を注いだようだった。

「アッタマ来た! さらうなら、あたしも一緒にさらいなさいよ!」

 少し方向性のズレたイエローの怒りの剣閃が、怪人の脳天から叩き込まれる。

「グガァッ!」

「皆、今だ! ビーストアタック!」

 レッドの合図で一同が剣の柄を押し込むと、野生の咆哮を交えたメロディが剣から溢れた。

「ビースト・アタック!」

 五人は声を揃え、大跳躍からの連続斬撃を敵に食らわせる。敵は火花を上げながらよろめき、「微笑みさえ……罪ィィ!」と意味不明な断末魔を発しながら大爆発して果てた。

 だが、戦いはこれで終わりではない。

「ウウゥゥオオォォォ!!」

 海底の城から照射された巨大化ビームを受けて、怪人ランプランパーは高層ビルと並ぶ大きさに巨大化する。

「皆、グランビーストを呼ぶんだ!」

 レッドの号令のもと、一同はそれぞれのビーストフォンを開いた。

「グランレオン!」

「グランホース!」

「グランブル!」

「グランフォックス!」

「グランタイガー!」

「行くぞ! 猛獣合体!」

 五つの巨大な猛獣は激しく疾走しながら一つに繋がり、大地を制する巨獣の王へと姿を変える。

「誕生、ビーストキング!」

 四肢を唸らせ、地響きを立てて雄々しく敵とぶつかり合う巨獣の王。しかし、敵の発する紫の煙に視界を遮られ、思うように攻撃を当てることができない。

「くっ……! サクラ、ファルコンを呼ぶんだ!」

 搭乗空間コクピットでレッドがピンクに呼びかけてきた。ピンクはビーストフォンを操作し、先日新たに加わったばかりの仲間ビーストの名を呼ぶ。

「召喚、スカイファルコン!」

 天の彼方から飛来した巨鳥が、翼で巻き起こす猛風で紫の煙を吹き飛ばした。

「オノレェェ!」

 怒りに狂った怪人が向かってくる。巨獣の王は巨鳥を背中に合体させ、敵の攻撃を避けて天空へと羽ばたく。

「ファルコンビーストキング! フライング・キング・クラッシュ!」

 巨大な剣を両手で構え、空中から舞い降りるファルコンビーストキングの必殺の一撃が怪人の正鵠をとらえた。

「グアアアッ!」

 ビル街を染める爆炎。ここに正義と悪の戦いがまた一つ終わったのだ。

 ファルコンビーストキングは再び地面に降り立ち、両腕を構えなおして雄々しく見得を切った。


「……リコちゃん、アイドルのオーディションの一次審査受かったってさ」

 後日、秘密基地でのティータイムの席で、タケルが少女からの手紙をひらひらと皆に見せびらかしてきた。

 サクラも手紙に同封された少女の嬉しそうな表情の写真を見て、破顔一笑する。ハヤトが「まだ一次選考じゃないか」と水を差し、ゴロウは「サクラもオーディション受けてみたらどうだ?」と言ってきた。

「なによ、なんであたしを含めないのよ」

 ルイが口を尖らせている。サクラは仲間達と一緒になって笑いながら、心の中でぺろりと舌を出していた。

 ――このわたしが、実はもと人気アイドルだったなんて、言えない、言えない。

「アイドルと言えば、この前、人間界の動画サイトを見てたらサクラに似た子がいたぞ」

 画面越しにレオン・ナルドⅢ世が会話に入ってくる。サクラはびくりと慌てて顔を上げた。

「えっ!?」

「このアイドルなんだが……」

「あーっ、ダメ、見ちゃダメ!」

「なんだよサクラ、なんでそんなに慌てるんだよ」

「ま、さ、か……?」

 仲間達の興味津々の視線を受け、サクラの絶叫が動物園の地下に響き渡った――。


◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆


次回ーッ! 猛獣戦団ビーストファイブッ!!


「貴様はあの時、崖の下に飲み込まれたはずでは!」

「何度だって蘇るさ。地球が俺を呼んでるならな」

「行くぜ! 今日からまたビーストシックスだ!」

「大咆哮合体! エレファントビーストカイザー!」


第39話

「帰ってきたシルバー!えろ六人戦団」

轟けーッ!正義の咆哮!!

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