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アルファイター列伝・エイト戦記 episode.11「星雲の師弟」

アルファイター列伝・エイト戦記

episode.11

「星雲の師弟」


 暗黒郷宇宙人 デストピア星人 登場

 宇宙暴悪怪獣 オルダス 登場


◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆


「苦しいか、アルファイター・エイト! この惑星ほしが貴様の墓場だ!」

 暗雲立ち込める空の下、暗黒郷あんこくきょう宇宙人、デストピア星人の高笑いが激しく響く。闇の瘴気しょうきを孕んだ雲に覆われた空には、この惑星を照らす恒星の輝きはいまや届かない。

「そして、今日がこの惑星ほし自体の命日だ」

 光エネルギーの供給を絶たれて苦しむアルファイター・エイトの前で、デストピア星人は大きく両腕を広げ、醜悪な顔で天を仰いだ。

「ぐうっ……! デストピア星人、てめぇ……!」

 エイトは拳を握り、力を振り絞ろうとするが、恒星からの光を遮られたこの惑星では、光の巨神である彼が活動エネルギーを得ることは最早ままならない。活動限界の到来を示すリミッター・ライトが彼の胸部で明滅を始め、甲高い警告音が大地に響きわたる――。

 ずしん、と地面を揺らし、エイトの巨大な身体が光の差さない大地に膝をつく。

 ここで終わるのか。守らなければならないものがまだ沢山あるのに。

 エイトは遥か視界の果てに聳える城塞都市を眺めた。その見張り塔の上では、ひとりの少女が――この惑星の住人の少女が両手を組み、祈るようにエイトとデストピア星人の戦いを見守っている。エイト達、MAXマックス星雲の住人よりも遥かに小さく、か弱く、愛しい生命いのち。アルファイター十二神の一柱ひとはしらに名を連ねる者として、エイトが己の魂にかえても守りたいもの――。

「クソォッ! てめぇなんかに負けるかぁ!」

 鳴り響く警告音をそっちのけで、エイトは身体に残る最後のエネルギーを迸らせ、デストピア星人に向かって駆け出していた。地面を蹴る足が、振り抜く拳が疾風かぜを纏う。師匠から受け継いだ必殺の正拳が邪悪の宇宙人に叩き込まれる――しかし。

「馬鹿め!」

 デストピア星人の腕先に突如出現した光の刃が、エイトの身体を薙ぎ払っていた。

「ぐあっ!」

 斬られた箇所から光の粒子を迸らせ、エイトはもんどり打って地面へと倒れる。激しい土埃が吹き上がり、砕かれた山の岩盤が彼の身体に降りかかる。

「光の供給ができない貴様に勝機はない! この辺境の惑星ほしとともに朽ち果てるがいい!」

 宇宙人の腕から伸びる光の刃が輝きを増し、エイトの頭上から振り下ろされる――。

 危機一髪と思われた、その時。

「テヤアァァァ!」

 炎の渦を纏って遥か高空から飛び込んできた何者かの蹴りが、デストピア星人の身体を後方へと吹き飛ばしていた。

 何者かが爆風の勢いで地面に着地する凄まじい衝撃音。吹っ飛ばされたデストピア星人が、そして倒れていたエイトが身体を起こし、仰いだ先には――

「師匠ッ!」

 若きアルファイター・エイトを導く老兵の勇姿。銀河の猛虎と謳われた炎の巨神、アルファイター・タイガー……!

「貴様ァ! 新たなアルファイターか!」

「新たな? ふん。俺は時代に忘れ去られた、ただの老兵さ」

「小癪なァァ!」

 再び光の剣を振りかざし、アルファイター・タイガーを斬り殺そうと烈火の勢いで迫ってくるデストピア星人。だが、タイガーはその剣閃をいとも容易くかわしたかと思うと、炎を纏った掌底を素早く敵の胸部に打ち込んでいた。ただそれだけの動きでデストピア星人は遥か後方へと押し戻され、苦しそうによろめく。

若造エイト。俺に残された最後のエネルギーをお前に授ける」

 そう言ってタイガーが片手をエイトに向けてかざすと、光の粒子がエイトの胸部のリミッター・ライトへと吸い込まれ、エイトの全身に徐々に輝きが満ちていった。

「師匠……!」

「お前が自らの足で立ち上がらなければ、俺も助ける気はなかった。だが、お前は力を奪われながらも立った。大切なものを守るために」

 全ての光をエイトに向けて放出しきったタイガーは、その巨大な身体を失い、壮年の姿に髭を蓄えた人間体にんげんたい――この惑星の人々と変わらぬ姿になって、地面からエイトを見上げてくる。

「必ず勝て。お前の勇気を信じる!」

 エイトはしっかりと頷いた。顔を上げた先には、怒りに狂ってこちらへ向かってくるデストピア星人の姿、そしてその遥か向こうの城塞都市で祈りを捧げる少女の姿。

「ハアァァァッ!」

 激しく気勢を上げ、エイトは大地を蹴った。その身体は地上の重力を振り切って空へ舞う。咄嗟にこちらを振り仰いだデストピア星人のその醜悪な顔面に、炎の衝撃を纏ったエイトのパンチが叩き込まれる。

「グアァッ!」

 打撃を受けて後ずさる敵に、エイトは続けてパンチ、キックの連打ラッシュを見舞っていく。この身体を動かすのは、師匠から託された光、そしてこの星の人々の切なる想い。負けるわけにはいかない。今の自分には、決して負けられない理由がある!

「おのれぇぇ!」

 デストピア星人が叫び、額に埋め込まれた黒い宝玉がぴかりと輝きを発した。その瞬間、エイトの背後の地面が揺れる。はっ、とエイトがそちらへ視線を廻した瞬間、大地を割って飛び出してきたのは、鋭利な爪と牙を備えた巨大な怪獣の姿!

「オルダス! アルファイター・エイトを殺せ!」

 宇宙人の怒声のもと、凶暴怪獣がエイトに襲い掛かってくる。エイトはすかさず応戦に入るが、その背後からはデストピア星人の光の刃が彼を狙っている。

「クッ!」

 エイトは片腕で怪獣の動きを抑え込みつつ、逆側から迫るデストピア星人に苦し紛れのキックを繰り出す。だが、光を遮られて光線技が使えない今、二体の敵を同時に相手にするのは厳しい――。

 ――いや、そんなことはないか。

「エイト! 今はお前が!」

「『銀河の猛虎』だからな!」

 地上から叫んだ師匠の言葉に応え、エイトは雄々しく名乗りを上げた。勇者は微塵も怯まない。宇宙人と怪獣の二体を相手に、エイトは目にも留まらぬパンチとキックの連撃を撃ち込んでいく。

「おのれ、アルファイター・エイト!」

 怪獣を飛び蹴りで昏倒させたエイトに向かって、デストピア星人が三たび光の剣を振りかざして迫ってくる。エイトはすかさずその場で身体を回転させ、疾風の勢いを纏った回し蹴りを敵の腕先に炸裂させた。光の剣がへし折られ、地面に落ちる前に消滅する。

「なっ!?」

 得物えものを失って狼狽うろたえる敵に、エイトは激しいパンチの連打ラッシュを見舞っていく。

「タイガー・スマッシュ!」

 彼の渾身のアッパーがデストピア星人の喉元をとらえ、邪悪の化身は後方に吹っ飛んで倒れた。エイトがトドメのキックを食らわせるためにジャンプの溜めを作ろうとした、その瞬間――

 密かに後方で起き上がっていた怪獣が、彼の背中に火炎弾の直撃をぶち込んでくる。

 身体を焦がす激しい衝撃。エイトが苦しみながら地面に倒れたところへ、どしどしと怪獣が迫り、その背中を踏みつけて激しい咆哮を上げる――。

 エイトはその足裏の圧力に必死に抵抗した。だが、アルファイターの何倍もの体重を誇る怪獣の足はびくともしない。くっ、とエイトが拳で地面を叩いたとき、彼の脳裏にひとつの技の記憶が浮かんだ。

 師匠アルファイター・タイガーが得意とした、捨て身の大技。今こそ使いこなしてみせる。

「オオオォォォッ!!」

 裂帛れっぱくの気合を迸らせ、エイトは全身に輝く炎を纏った。体内の生命エネルギーを炎に変換する自爆覚悟の必殺技。これが最後の一撃――。

「ハアッ!」

 怪獣の圧力を押しのけ、エイトはその場に立ち上がった。全身を炎に包んだ彼の勢いに気圧され、宇宙人も怪獣もいまやおののき後ずさっている。

「てめぇら! 今さら逃げようなんざ――」

 エイトは炎を纏ったまま駆け出した。渦巻く火焔が彼を包み、疾風とともにその身体を宙へと押し上げる。

「――あめぇんだよォォッ!」

 刹那、全身を炎の弾丸と化した必殺の飛び蹴りが、音をも超える速さで二体の敵の身体をぶち抜いていた。断末魔の声を吐くいとますら無く、デストピア星人が、怪獣オルダスが、噴き上がる大爆発の中に果てる。

「……タイガー・バーニングキック」

 激しい爆音を背中に聴きながら、エイトは静かにその技名を口にした。


「……エイト様。ありがとうございました」

 巨大な姿のまま城塞都市を見下ろすエイトに、少女――この小さな国の姫は目に涙をためて感謝を述べた。

 彼女の周りには、エイトの活躍で滅亡の危機を救われた王族が、そして多くの民が集まり、エイトに祈りを捧げている。

「いいってことよ。この銀河の全ての星の平和を守るのが俺様の使命だ」

 光を遮っていた暗雲は消え失せ、空はこの辺境の惑星ほしの平和を象徴するように晴れ渡っていた。

 師匠、アルファイター・タイガーがどこへ姿を消したのかはエイトにもわからない。だが、あの不死身の男のことだ、またどこかの星でひょっこり巡り合う日があるに違いない。

「じゃあ、行くぜ。次の星が待ってる」

 国じゅうの人々が腕を振り、飛び立つエイトを見送る。

「エイト様……!」

 惑星の引力圏を離れるその瞬間まで、エイトの耳には少女の嬉しそうな声が残って消えなかった――。


◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆


次回、『アルファイター列伝・エイト戦記』最終回!


「アルファイター・セブンの命を救いたくば、処刑惑星イスカリオテまで来い」

「エイト、来てはならん! これは罠だ!」

「親父だから行くんじゃねえ。銀河の全ての命を守ると俺は誓ったんだよ!」


episode.12

「永遠の使命」

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