14 初級魔法
そんなことを考えながら、雪は興奮気味の生徒たちに混ざって中庭へと移動した。
「それでは皆さん、いよいよ戦闘系の魔法について説明致しますね。先ほど言いましたように、魔法というのはマナを使って元素に干渉する術です。ですから、決まった型などは本来ありません。自分の想像力と操作能力を活かして、元素を自由自在に操るのです」
リクラットが軽く指を振れば、それに伴って水滴が浮かぶ。くるくると円を描いていた水が量を増し、積み重なるようにして高さを増していく。やがてそれは小さな竜巻のようなものに成長した。
「これは水魔法で生み出した水を、風魔法を使って渦状に回転させた結果です。本来型はないのですが、それだと評価を行ったり、他者に教えたりするのが困難でした。そこで私たちは既存の魔法に簡単な名前をつけることにしたのです」
剣と弓を比べられないように、攻撃力と飛距離のどちらが高い方が優秀な魔法かを決めるのは難しい。
魔法師Aは攻撃力の高い「
果たして魔法師AとB、どちらが優秀な魔法師だと言えるだろうか?
答えは決められない、だ。
近距離で壁の厚い敵を倒すなら魔法師Aが、遠くから安全に攻撃を浴びせるのなら魔法師Bが活躍するだろう。結局は時と場合によるのである。
そこでこの世界の人々は、この魔法が使えればこれくらい凄い人、これが使えなかったら半人前。といった分かりやすい基準を設けたのである。
「例えばこれは「
手のひらサイズだった竜巻が、手を離れて宙に浮き、リクラットの生み出した水を吸い込みながら成長していく。十五センチほどの水の渦は、あっという間に五メートルはあるだろう巨大な竜巻になった。
「おぉ……」
生徒たちから感嘆の声が上がり、皆の目がそれに釘付けになる。
「これを目指して、頑張って下さいね」
そう言って微笑むリクラット。初級という言葉に眉を顰めていた者たちも、これを見てはやってやろうと一気にやる気を出している。
魔法を行使することに興奮を見せている生徒たちとは違い、雪はスキルにするという過程に興味を抱いていた。スキルにするには発動までのプロセスを完全に理解する必要がある。それが雪のやる気を掻き立てて仕方がないのだ。
「それでは最初に、火属性の初級魔法「火球」をやってみましょうか」
水竜巻を消したリクラットは、そう言って雪たちに向き直った。
「まずは両手を前に出して、体内のマナを手のひらに集めましょう」
言われた通り揃えた両手を体の前に突き出し、手のひらにマナを集中させる。じんわりと手が温かい気がする。
「イメージするのは名の通り、球体の炎です。まずはわたくしがお見せしましょう」
球体の炎と言われて小さい太陽を想像していると、リクラットが手本として実際に発動してみせた。
「《
リクラットの手からゆらゆらした尾を引く赤色の球体が飛んでいき、壁にぶつかって消えた。当たった場所には焦げ跡が残っている。
ゲームなどで見る定番とも言える魔法に、生徒たちはおおっと歓声を上げた。
「さあ、皆さんも唱えてください。火よ、燃え盛る炎よ、敵を燃やせ《火球》」
「「火よ、燃え盛る炎よ、敵を燃やせ《火球》」」
手のひらから飛んでいった火球は、二メートルほどのところで消滅した。これはマナ量の違いだろうか? いや、恐らく操作能力の違いだろう。もっと効率よく発動させることが出来れば、少ないマナで遠くまで飛ばせる筈だ。
周囲を見てみたが、発動できた者とできていない者に三:二くらいで別れている。これもやはりスキルの有無が関係しているのだろうか。
スキル欄に「火魔法」が存在していた真壁、青海、三神は成功しているが、魔法系のスキルが一つもなかった柏木は失敗しているようだ。
もう少し辺りに視線を巡らせてみる。ステータスが物理全振りだった仁は発動できていないし、魔法寄りだった廉とトントンといった感じだった亮は見事に成功している。ちなみに貴史は失敗のようだ。
ふむ、やはりこれもスキルが有るか無いかだな。「火魔法」のスキルがレベルが幾つだろうと所持してさえいれば、初級魔法は発動させられるらしい。
「次は水属性にいきましょう。失敗した方も気にしなくていいですよ。どれかしらは成功しますから。得意な属性を見つけてください」
ん? 適正が高い属性が得意なんじゃなかったのか?
……ということは、適正の数値だけではその属性の魔法が使えるかは分からないのか。所持スキルも提出した筈だし、スキルの有無が全てでもない、か。
ふぅと息を吐き出した雪は、ぴたりと一瞬動きを止めた。
……いや、これはまずいな。やはりスキルの有無が全てなのだろう。つまりわざわざこんな真似をしているのは虚偽の申告をしている者がいないかを調べるため、というところか。
きっと以前の勇者の中に雪たちのようなことをした者がいたのだろう。自分の実力を隠し、どこかで問題を起こした。
リクラットたちに気取られないよう四人に視線を送る。一体どうなっているのか、すぐに反応したのはやはりというか何というか、貴史だった。
こちらを見たのが分かったので、明後日の方向を向いてそれとなく口に手を当てる。それから横の髪を耳にかければ、伝言終了だ。後は貴史から廉、廉から亮に伝わるだろう。仁は知らなくても問題ない。どうせ使えないのだから。
ここで貴史の様子を確認する必要はない。あいつのことだから決めていないことも読み取るだろうし、俺の指示に従わないという可能性もない。
雪は少し硬くなっていた顔を和らげ、真壁たちの方に歩いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます