12 マナ
「そもそも魔法というのは、
リクラットの話を、生徒たちは静かに聞いていた。
「マナというのは、この世界のどこにでも存在しています。もちろんわたくしの体内にも、皆さんの体の中にも」
リクラットは唄うように話しながら、自分の胸をとんと叩いた。一瞬、その胸元が淡く光る。
「マナは、皆さんの体の中心。心の臓に集まっています。普段の生活の中で呼吸と共に取り入れ、自然に溜まっていくのです。これを動かすことで、自分の体を強化したり、守ったり出来ます」
リクラットの言葉に合わせてぼんやりとした淡い青の光が体を巡り、つくられた力こぶの周辺に集まった。
「そして、空気中に存在するマナを操り、元素に呼びかけることで魔法を発動するのです」
立てられた人差し指の先端に明るい光が灯る。
雪には、その前に空中のぼんやりとした何かが小さな白い粒をかき集めているのが見えていた。
「皆さんのステータスにも、魔法適正値が表示されている筈です。適正というのは、その元素との親和力を表しています。適正値が高ければ高いほど、その属性の魔法は扱い易くなるというわけです」
つまり雪の場合なら、最も楽に扱えるのが闇魔法、次点が水魔法と光魔法ということか。真壁や三神なら光魔法が一番向いているし、青海たちはどの属性も同じくらいか。
闇属性が一番向いているというのは勇者としてどうなのだろうか。いや、考えるだけ無駄だな。
「ちなみにこの適正値は元素と触れ合っていくことで上げることができます。もちろん生来の適正値で伸びやすさもありますが。……とまあ、ただ聞いているだけではつまらないでしょうし、説明はこれくらいに致しましょうか」
そう言って手を合わせたリクラットは、右の手のひらを前に差し出した。
すると、そこに拳大の火の玉が現れた。次に右肩、顔の右、上、左、左肩。次々に火の玉が現れる。しかも赤、オレンジ、黄色、緑、青とカラフルは炎だ。
「おお……」
食堂のあちこちから感嘆の声が上がる。普段なら絶対に見ることのない不思議な現象に、全員の目が釘付けになっていた。
「このように、少しアレンジを加えると炎の色を変えたりもできますのよ。これは初歩的な魔法ですから、皆さんもすぐに出来るようになります。まずは、マナの扱い方をお教えしますね」
にっこりと微笑んだリクラットたち魔法師団による、〜簡単! マナの扱い方講座〜が開始した。
「まずは自分の胸元にあるマナを感じるところからスタートしましょう。目を閉じて、己の内側に目を向けます。どうですか? 鼓動を感じますか?」
リクラットの指示通り目を瞑り、自分の内側に意識を向けていく。静かに呼吸していると、小さくトクンという鼓動が聞こえてきた。
トクン、トクン、トクン。
「その側に、暖かい光があるはずです。光の適性が高かった方は白の、火は赤、水は青、風は緑で土はオレンジです」
段々大きくなる鼓動音。周りの音が聞こえなくなった頃、ぼんやりとした光が少しずつ見えてきた。
真っ暗な世界に、紫色をした火の玉のようなものが浮いている。その光からはなんの暖かさも感じられず、ただ静かに燃えていた。
「その光を身体中に巡らせてみましょう。最初はゆっくりで大丈夫です」
静かな空間に、リクラットの声だけが響き渡る。
雪はその火の玉を中心に漂うオーラを感じ取り、それを心臓の周りから血管を覆うように送り出した。
身体中の巡る血管に沿って、マナだという光が流れていく。約一分かけて、全身を巡っていたマナは心臓へと戻ってきた。
最初は意識して行っていたそれも、周を追うごとに自然と流れるようになった。
周囲が動いた動いたと歓声を上げる頃、雪は無意識下でもマナを巡らせられるようになっていた。
「どう? 悠人、できた?」
「うん。やっと一周できたよ」
「はあっ!? 早すぎでしょ!」
「えっ? そうなの楓ちゃん。私も今一周できたよ?」
「えっ、私が遅いの?」
「いやいや、俺もまだだから。こいつらが異常なだけだから」
ひっそりと真壁たちの会話を聞いていた雪はある予測を立てた。
真壁と三神のステータスにあったスキル、「魔力感知」。この魔力というのがマナのことを指しているのなら、このスキルの有無が今回の「マナを感じて動かす」という練習の達成速度を左右している可能性がある。
そして自分のステータスにあった「魔力操作」。レベルも5とかなり高かった。恐らくだがこれが体内を巡らせたり体外の元素に干渉する際の技術力に関係しているのだろう。だから雪が意識外でもマナを巡らせることが出来るようになるのが異常に早かったのだと考えられる。
「魔力感知」を所持している真壁と三神ですらまだ一周。持っていない青海と柏木はだいぶもたついている。マナを感じることには成功したようだが、体を巡る光の動きがだいぶぎこちない。
おや? ここで雪はまた気づいてしまった。
もしかして、この光というのはマナのことか?
直ぐに自分の手を見る。手のひらに流れる血液と同じ動きで、淡い紫の光が動いていた。
おやおや? 光の色で適正値の高い属性が分かるのなら、雪が勇者には相応しくない闇属性の適性が高いことがバレてしまうのでは?
たらりと冷や汗が流れる。
けれど、魔法師団の連中は何も言っていこない。そっとリクラットの様子を盗み見たが、生徒全体を見回しているのに特に何か見つけた様子はない。
仁たちの方も見ると、彼らの体にも紫色の光が巡っていた。リクラットは興味深そうに亮を観察しているのだが、マナが紫だと気づいた様子はない。
おやおやおや? もしや、この光というのはこの場では自分にしか見えていないのではないか?
ならば一先ずは安心だ。今日部屋に戻ったら真っ先にこのことを伝えよう。色を変える方法をなんとしてでも見つけなくては。
雪は決して「よっしゃ俺だけに与えられた特別な力だぜ! この力で無双してやる!」などと考えるほど浅慮ではない。
今自分が知っている範囲は狭く、世界は広い。この場にはいないだけで、世の中にはマナや元素を見ることの出来る目を持った存在は一定数いるだろう。
もしマナの色がバレれば、勇者に相応しくないとか人族の敵だとか言われて囚われるか殺されるかするだろう。それにマナが見えるなどと言ったらそれこそ好き勝手に利用されるオチだ。絶対にどちらも知られないようにしなければならない。
雪はまた隠さなくてはならないことが増えてしまったと息を吐いた。
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