M01 ステータス
「悠人くん」
流石と言われ、照れていたら声をかけられた。周囲に集まった人の向こうへ目を向ければ、胸元で手を握りしめる青年が立っていた。いつも白い肌は少し青ざめていて、唇は微かに震えている。
彼は
「雪!」
やはり俺も慌てていたらしく、ここに来てから雪が近くにいなかったことに今気がついた。慌てて駆け寄れば、楓たちもついてくる。俺たちはクラスでも一緒にいる、所謂いつメンってやつだ。
「やっぱり悠人くんは凄いね。僕なんて怖くて怖くて泣きそうになってたよ」
へらりと笑った雪は、震える自分の手を見つめていた。
「雪、大丈夫か? 無理しなくていいんだぞ?」
「ううん、大丈夫。僕だって戦うよ。怖いし、何ができるかも分からないけど、悠人くんがいるから、大丈夫。みんなで、お家に帰ろうね!」
ぎゅっと拳を握りしめた雪が、にこっと笑った。青ざめた、口角の引き攣った、明らかに無理している顔だ。けれど、雪だって覚悟を決めたのだ。ここは一緒に笑ってやるのが友達だ。
「そうだな! 絶対にみんなで帰るぞ! おー!」
「「「「おー!」」」
みんなで拳を振り上げ、声を合わせる。異世界なんてとんでもないところに連れてこられたけど、きっと何とかなる。みんながいれば、俺は大丈夫だ。
みんなで一致団結して魔王を倒すことに決めた俺たちは、フェルトルさんの案内で謁見の間から食堂へと移動した。そこには十メートルはある長机がいくつも並んでいて、大きく三つの列に別れていた。
そしてその机には、見知った顔がいくつも座っていた。
「賢哉!?」
「よお悠人、今朝ぶりだな」
三年B組、
どういう事かと聞いてみれば、彼らB組の面々は俺たちと同じように床に魔法陣が浮かび上がり、目を開けると講堂のような場所に居たのだという。そしてランドニーという宰相の男性から俺たちが受けたような説明を受けた後、ここへと案内されたらしい。
恐らくC組も似たようなものだろう。どうやら召喚されたのはA組だけではなく、学年全体のようだ。
「あっれ、仁じゃん!? なーんだ、A組もいるってマジだったんだね〜」
一番左の列、C組の集団の中から立ち上がってこちらにやって来たのは、前髪をカチューシャで上げた青年。その砕けた口調と着崩した制服、そして何より口元の膨らんだ風船ガム。学年でも有名な遊び人、
「あ? おお、亮か」
声をかけられたことにドスの効いた声を返したのは、俺らの後ろ、たった今部屋に入ってきた人物だ。鈍い金髪に鋭い目つきの青年、
この二人は教師陣も常に頭を抱えている問題児として有名だ。俺たち生徒会としても彼らの起こす問題には何度も苦しめられてきた。
頼むから問題を起こさないでくれよと祈りながら、よく一緒にいる問題児たちが揃ってしまったのを眺めていると、フェルトルさんが口を開いた。
「A組の皆さんはこちらに。これからあなた方の持つ力についての説明を致します」
自分たちだけではなかったのかという驚きと、想像の数百倍早い再開の喜びを噛み締めながら、右側の最前列に座る。俺の左に楓と孝介、右に穂花と雪が座った。
山路はC組なので左の列の筈なのだが、右列の一番後ろにいる宮田の隣に腰を下ろしたのが見えた。早速言うこと聞いてない……。
「では、始めさせていただきますね。『ステータスオープン』」
手を前に翳し、そう唱える。すると、フェルトルさんの前に半透明の白い板が現れた。一瞬で、空中から、まるでゲームのメニュー画面だ。
「これはステータスプレートと言って、その者の能力値や職業、スキルが表示されます。残念ながら他人が見ることは出来ないので、皆さんに見本としてお見せすることはできません。そして、これはあなた方にもこの世界に来た際に与えられています。さあ、唱えてみましょう」
そうフェルトルさんに促され、みんな口々に唱え始める。俺もそれに倣って、『ステータスオープン』と唱えた。
ヴンッと機械音がして、目の前に半透明な板が表示される。試しに触ろうとしてみたが、指はすり抜けてしまった。どうやら実体はないようだ。
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真壁悠人 LV1 十八歳
種族 人族
職業 勇者
基礎能力値
筋力:100
攻撃:100
耐久:100
敏捷:100
器用:100
魔力:100
対魔力:100
魔法適正
火属性:50
水属性:50
土属性:50
風属性:50
光属性:100
闇属性:0
守属性:50
攻属性:80
スキル
火魔法LV1・ 水魔法LV1・ 土魔法LV1・ 風魔法LV1・光魔法LV10・全属性耐性LV1・物理耐性LV1・魔法耐性LV1・剣術LV5・剛力・気配察知・魔力感知・言語理解
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……これはどうなんだろう。いい方なんだろうか?
「ね、楓。どんな感じ?」
試しに隣の楓に聞いてみると、職業は拳豪だったと返ってきた。そうではなくて基礎能力とかを聞きたかったのだが、もう一度尋ねる前にフェルトルさんが口を開いたので諦めることにしよう。
「それでは皆さん、順番に職業と基礎能力値、適正とスキルについて報告をお願いします。こちらの紙に書き写してくださいね」
配られた紙と羽根ペンを受け取り、机の上に移動させることができたステータスプレートを見ながら書き写していく。
暫くみんな静かに作業を行い、書き上がったので楓たちと簡単に見せ合うことにした。
「僕はこんな感じ」
そう言って紙を見せると、楓と孝介が「はぁっ!?」と揃って声を上げた。
「いやいやいや、なにこのチート。しかもやっぱ悠人が勇者なのね」
「うーっわ、何だよこれー。俺の出る幕なさそうじゃん」
「わー、流石だね悠人くん。すっごく強そう」
「僕とは大違いだね。スキルも多いし基礎能力値も高い」
「いや〜、あははは……」
みんなに褒められ、恥ずかしくって頬を掻く。俺だけじゃズルいでしょと四人を急かせば、それぞれ紙を見せてくれた。
まずは楓。
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青海楓 LV1 十八歳
種族 人族
職業 拳豪
基礎能力値
筋力:150
攻撃:150
耐久:150
敏捷:90
器用:70
魔力:30
対魔力:30
魔法適正
火属性:50
水属性:50
土属性:50
風属性:50
光属性:50
闇属性:50
守属性:50
攻属性:50
スキル
火魔法LV1・ 水魔法LV1・ 土魔法LV1・ 風魔法LV1・光魔法LV1・闇魔法LV1・物理耐性LV1・格闘LV10・剛力・堅牢・気配察知・魔力感知・言語理解
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その後孝介、穂花と見せてくれたのだけど、雪がどうも渋って中々見せてくれない。ちなみに孝介は剣豪で、穂花は聖女だった。
「どうしたんだ? 雪。何も気にしなくていいって、ほら」
「で、でも僕。スキルも少ないし……」
「大丈夫よ、雪。私たちだって悠人に比べたら少ないもの」
みんなで大丈夫だと声をかければ、雪は渋々といった様子ながらステータスを書いた紙を見せてくれた。
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紺野雪 LV1 十七歳
種族 人族
職業 賢者
基礎能力値
筋力:60
攻撃:60
耐久:50
敏捷:80
器用:100
魔力:200
対魔力:200
魔法適正
火属性:100
水属性:150
土属性:100
風属性:100
光属性:200
闇属性:0
守属性:50
攻属性:50
スキル
火魔法LV10・ 水魔法LV10・ 土魔法LV10・ 風魔法LV10・光魔法LV10・魔法耐性LV5・魔力回復LV5・魔力操作LV5・気配察知・魔力感知・言語理解
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「な、何よこれ! これのどこが低いわけ!?」
「完全に魔法特化ステだな」
「全然凄いよ、雪くん!」
「そ、そうかな……。でも、筋力とかないし……」
「そんなの気にすることないって、孝介だって魔力60とかだしさ!」
楓は雪の謙遜した態度にどこがだと怒り、孝介はうんうんと一人頷いている。穂花は目を輝かせているし、俺も魔法スキルのレベルの高さに驚いていた。
暫く謙遜していた雪だったが、最終的には「ぼ、僕も戦えるかな……」と少し嬉しそうにしていた。元気が出たみたいでよかった。
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