第6話
ポッドとの出会いは、私にとって救いだった。
傷を治してくれるというのも、もちろんあったけど、他愛もない会話を出来る相手が出来たというのが大きかった。ポッドが小さくて、愛らしいということもあったかもしれない。私は、相手が子どもでも、大人でも、老若男女問わず、恐ろしかったから。
ポッドは、私を怖がらせることなど、決してしなかった。
わざと大きな音を立てて、こちらの様子をうかがうこともしなかったし、魔法の練習と言って的にすることもしなかった。
だから、ポッドから、願いを聞かれるたびに、私はわざと話をそらした。
ポッドもいい加減、私が願いを言いたくないことに気づいたのか、あまり言ってこなくなったけど。
ポッドがいなくなることが、ただ怖い。
いてくれるだけで良い。それが、どれだけ傲慢な願いなんてことは、私がよく知っている。朝、目覚めてポッドがいなかったらという不安で飛び起きることもある。そのたびに隣で眠るポッドを見て、どれだけ安心しているか。ポッドは知らないだろう。知らなくていい。
いずれ、ポッドがいなくなる時が来る。
その時が来てしまったら、私はどうやって生きていけばいいのだろう。
■
人間が営んでいる酒場の屋根裏にまさか妖精の酒場があるなんて、人間は知る由もないだろう。加護がどうのこうのと言っている割に、妖精の存在を信じている人間は少ない。
合理主義で、利己的な人間らしい。目に見えるものしか信じられない。魔法が使えるからと、特別な存在であると勘違いしているらしいが、俺から言わせてもらえば、お前らなんて、俺たちがその気になれば、また無力な人間に戻っちまうんだからな、と声高らかに叫びたい。まあ、叫ばないけど。どうせ、そのうち痛いしっぺ返しがくるだろうから。
神霊っていうのは、人間が思っているほど、優しい存在ではない。
なんで、人間に魔法が使えるようにしているのか分からないが、どうせいつもの気まぐれだろう。あと、暇つぶし。
死の概念がないから、なにかおもちゃが欲しいんだろうな。
それには、人間がちょうどいいのかもしれない。確かに見ていて、楽しいこともある。まぁ、不快なことも多いけど。そして、俺は、今ものすごく人間が不快でたまらない。一人をのぞいて。
その日、俺は昼から酒を飲み、机に伏していた。
駄目な妖精の典型例である。
「俺は、無力だ」
「どうした」
「エミリアが願いを言ってくれない。俺って、そんなに頼りなく見えるかな」
「まぁ、俺たち可愛いから」
「そうなんだよな…」
もしも、ハムスターが喋ったとして、「君の願いを叶えてあげよう!」と言ったとする。それを聞いた人間の反応はきっと「…ふ(笑)ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ(笑)」って感じだと思う。知らんけど。俺、ハムスターか。確かにハムスター並みに小さいし、可愛いから、脳みそもあんまり入ってないように見えるのかもしれない。
妖精なんで、脳みそって概念ないけど…。
「あー…エミリアぁ…俺が幸せにしてやるからな…絶対に」
「エミリアって、お前が最近贔屓してる人間の女の子だろ?人間に肩入れするなんて、お前も変わったな」
「エミリアは、普通の子じゃないんだよ」
「確かに。ってか、あの子の呪いを解かなくていいのか?」
「今、解いたら暴走する。そしたら、死んじゃうかもしれないだろ」
「じゃあ、あの子の周りをどうにかすればいいだろ」
「そうしたいんだけどさー…そうすると、今度はエミリアが困るだろう。あの子は、ずっと耐えてきた。耐えられるように、してしまった。それがいきなり壊れたら、今度はエミリアが壊れる… … …そんなの俺が耐えられない…」
エミリアの周りにいる虫どもを早く殺したいのは、やまやまだが、色々と準備というものがある。焦るな。でも、急げ。
「お前…本当に変わったな。まるで恋してるみたいじゃないか」
「恋… …俺に下心はない。人間と一緒にするな」
「で、なんでそんな愛しのエミリアちゃんのそばから離れてるんだよ。いつも一緒にいるんじゃなかったのか?」
「今日は、来ないでって言われた。馬鹿王子と会うんだと」
「おお。それで、ラブラブな二人の様子を見たくなくて、逃げてきたのか。いつもだったら、来ないでって言われてても、こっそり影から見てるもんな。知ってるか。そういうの人間の言葉でストーカーっていうらしいぜ」
「俺は、プリチーな妖精だから、そういった概念はない」
「悪質だなー…」
「なんとでもいえ…」
「そういや、お前、エミリアちゃんの前では、俺って言わないな」
「可愛く見られたいからな」
「この猫かぶり野郎め」
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