第7話
「婚約破棄だ」
「え?で、殿下、今なんと?」
「本日をもって、君は、僕の婚約者ではなくなったということだ」
「どういうことですか?突然すぎます、こんな…」
久しぶりに殿下と会える。
それなのに不安で胸が痛い。
そして、予感が当たった。私が殿下の部屋に着くなり、早々、婚約破棄の言葉を投げられたのだ。しかし、突然すぎる言葉に、私が黙ったまま、立ち尽くしていると、誰かが部屋に入ってきた。
「仕方ありませんわよ。お姉さま、だって貴方は魔法が使えない。精霊の加護なしなんですもの」
「アイラ…どうして、貴方が」
自身の妹。
こうして、殿下と一緒におられるところを見ると、私なんかよりよほどお似合いだ。
ちらりと、殿下と妹、二人の視線がお互いに絡み合う。まるで、いたずらが成功した時の子どもような、無邪気な顔だった。
「本当に頭の回転も鈍くていらっしゃるのね?お姉さま、まだ分からないの?」
「最近、貴方がた二人が一緒だったのは、そういうことでしたのね」
「お姉さまが私たちを見る顔は、いつ見ても滑稽で、わたくしたち、ずっと笑いがこらえられませんでしたわ。そうそう、そのお顔です。お姉さま、あぁ可哀想。みじめで神にも選ばれなかった哀れな女にぴったりです」
「私が、お前と結婚すると本当に思っていたのか。加護なしなんかと私が」
「お姉さま、最近反応が鈍くてつまらないじゃないですか。お仕置きもされてくれないし…だから、私がお姉さまを傷つけるには、どうしたらいいのかなぁってお父様たちと考えたの」
「… …殿下もそれに乗ったというのですか」
「あぁ。こんな愉快なことはないからな。加護なしなんて生きる権利も資格もないというのに、のうのうと生きているのが、本当に目障りでな。本当は、お前と仮とはいえ、婚約を結ぶなんて、吐くほどに嫌だったんだが」
私を見るとき、いつも殿下の瞳には、侮蔑が含まれていた。
汚物でも見るような表情。それを見て、殿下が私を愛していると、どう勘違いしろというのだ。殿下は、加護なしが嫌いだ。それを隠そうとはしていない。加護なしに触れば、自分もそれがうつるとでも思っているようだった。
だから、私の家の血が欲しいためだけにそこまで我慢するなんて、よほど欲しいのだろうと。私もその思いを汲んで、私は、殿下の為の子どもを産むための道具だと思っていた。でも、違った。それですらなかった。殿下には、もうすでに私以上にふさわしい相手と結ばれていた。
加護持ちの、私と同じ血を引いた少女。顔も美しく、体もきっと私と違って、美しいのだろう。
「私のお願いですものね?殿下は、私にはとても甘くていらっしゃるのよ。吐くほど嫌いな女と婚約者ごっこするくらいにはね」
「ははは。自分で、それを言ってしまうとは。本当に可愛い奴め」
「殿下…ん、ちゅぅ」
二人は、私のことなど目に入らない様子で、口づけをはじめ、殿下は妹のドレスの裾やら胸元を開き始めた。
… …私は、最初から、おもちゃだったのね。いえ、それは生まれたときからそうだったわね。私の存在なんて、しょせんはその程度だ。
殿下と婚約関係を結んでいたから、まだ仕置きだってそこまで、エスカレートしなかったのだ。でも、私にその価値はなくなってしまった。私をどう扱ってもいいという免罪符を得たようなものだ。これから、きっと…。あぁ、考えたくもない。
未だに現実感がわかず、ぼんやりしている私に殿下が気づいた。
吐き捨てられる言葉に、本当に私たちの関係は何もなくなってしまったのだということが分かった。
「なんだ、加護なし。まだいたのか。早く出ていけ」
「ふふふ。ねぇ、殿下、お姉さまがいてもよろしいではありませんか」
「なぜだ?」
「…はあっ!あ、殿下…そこは…あぁん!」
「反応がいいな。そうか。そこの加護なしに見られて興奮しているのか」
「ん、ふぅ!ふふ、お姉さまのそのお顔…とても素敵。気持ちいいわ!あぁん!気持ちいい!」
「…よし。加護なし。そこで私たちを見ていろ。加護なしに見られるなんて、確かに…っ!
これは…いいな。… …私が王になったら、加護なしを全て殺すように命令するつもりだったが、ふむ、少しは残しておいてもいいかもしれないな」
「あぁ!殿下…殿下ぁ…お姉さまばかり見てはイヤ。私を見て…もっと私を…」
「ああ!ずっとお前だけを見ているよっ!ふん!」
「ああああああ!!!」
―あぁ。これが絶望なのか。
今日から、この胸にあいた空虚を抱けというのか。
何もない。何もなくなってしまった。
… … …ポッド。
私は、どうして生まれてきてしまったのかしら。
どうして、ここに存在しているのかしら。
こんなことなら、私は…私なんか、生まれてこなければ良かったのよ。こんなに苦しくなるくらいなら、もっと昔に死んでいれば良かった。
ポッド。
私の願い事が決まったわ。
私を殺して。
貴方の手で、私は殺されたい。
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