第4話

黙ってしまった私に対して、妖精は焦ったのか、手をバタバタと振った。


「ごめんね!僕、仲間内でも「お前の冗談は、つまらない」とよく言われるんだ」

「そんなことないわ。ごめんなさい。私、冗談を言われたことないの…それに私が笑うことは、許可されていないから」

「きょか?」


私が言った言葉が理解出来なかったのか、妖精は大きな目をさらに大きくした。

目が落っこちてしまいそうだ。

ゆらゆらと、水の膜が張られている瞳は、とても美しい。図鑑で見た宝石のようだ。


「許可ってなんだい?」

「私は、笑う事を許されていないの」

「許されない… … きょか…、許可?… …許可!許可だって!!??笑うのに許可がいるのかい!?意味が分からない。どういうこと?」

「え?ええっと、その私が笑うと周りを不幸にさせるからって…わ、私は、本当は存在してはいけないから…だから、私が楽しんだり、幸せになるのは、間違っているって」

「そんな…!そんな…ひどい…君は、あぁ…、そんな」


妖精は、うなだれてしまった。なにかおかしなことを言ってしまっただろうか。


「ご、ごめんなさい」

「… … …」

「あ、あの…私…」


あぁ。

やはり、私は周りを不幸にさせてしまうのだろう。

こんなに優しい妖精をまた泣かせてしまうだなんて。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめ、」

「謝らなくていい。ごめん。僕の方こそ、泣いて君を困らせてばかりだ…ふぅ」

「あ、あの、」

「よし。僕も男だ。覚悟を決めよう」

「妖精にも男女の概念があるのね。初めて知ったわ」

「え、そこ?あぁ、いや、僕は、君の願い事を叶えると決めたぞ!なんでも言ってくれ!」

「な、なんでも?でも、私なにもしてないわ」

「僕があのままあそこにいたら無事ではすまなかっただろう。この家の人間の残忍さは知っているからね。それに君は、パンとミルクを与えてくれた」

「まだ食べてないじゃない」

「いいんだ!とにかく君は、僕を救ってくれた。だから、願いを言う権利があるし、僕は叶える義務がある。僕は、こう見えて仲間内でも義理堅いって有名なんだ」

「… … …願い」

「なんでもいいよ!あ、いや、もしかしたら叶えられないかもしれないけど、努力するから」


私の願い。

どうしよう。私は、ずっとそんなことは考えてはいけないと教わってきたから困った。欲を出せば限りない。だから、私は出してはいけないと言われてきた。考えるな。考える権利などないのだから。


「な、なんでもいいの…?」

「なんでもいいよ!」

「そ、そ、れじゃあ…」


声が震える。

体も震えてきた。

どうしよう。私、とても怖い。口に出して、自分の言葉を出すのは、とても怖い。悪いことがおきるんじゃないか。


「… やっぱりいいわ」

「え!?なんで!!!」

「こ、声が大きいわ…誰かが来てしまうかも」

「それはないよ。こんな汚い屋根裏に誰が…あっ!ご、ごめん…君が住んでいるのに…」

「本当のことよ」


そう。本当のことだ。

ボロボロで、隙間風もすごいから、掃除をしてもすぐに汚れてしまう。雨漏りはするし、夜中はネズミの足音がうるさい。使用人の部屋でさえ、ここよりはましだろう。


「うぅ…君は、その、うぅん。どうしたらいいんだ…君のような人に会ったのは生まれて初めてだ」

「妖精ってどうやって生まれるの?」

「うぅ…気になるところそこなの…?それよりどうして願いを言わないのさ。何でも叶えられるんだよ」

「ごめんなさい」

「謝らせたくないのに…むぅ。仕方ない。君が願い事を言うまで僕が君のそばにいよう」

「え?」

「言っただろう。君は、僕に願いを叶えてもらう権利があり、僕はそれを叶える義務があると。僕はとても義理堅いんだ」

「そんな… 私といたら不幸が…」

「僕は、妖精だぞ!神霊とも酒を飲む仲だ!僕に手を出すことは、誰にも出来ない」

「でも、ネズミ捕りに引っかかってたじゃない」

「んもう!かっこつけようと思ってるんだから、そこは目をつむっててよ!」

「ご、ごめんなさい…」

「君の願い事も気になるからね!」


私の願いごと。

妖精は笑っていたけど、私にとっては笑い事じゃない。

自分の意志を意見も出すことは許されない。

私は、周りを不幸にする。


だから、言えるわけないじゃない。

私とお友達になって、だなんて。

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