第2話

ぐぅ。


思わず鳴ってしまった腹を抑えながら、こっそりと台所に忍び込む。こんなところを使用人に見られたら、仕置き確定である。ただでさえ、食べさせてもらえてないのだ。これで、水も飲むなと言われたら、死んでしまう。


「本当に誰もいない…?」


真っ暗な台所は、少し不気味だ。

早く果物かパンか何かを見つけて部屋に帰ろう。そう思い、冷蔵庫へと向かう時だった。


―ガチャガチャ。


小さな金属音が鳴っていることに気づき、体が固まる。

まさか、誰かいるの?

それにしては、音が小さい。気配も人というよりは、小さい?

怖かったが、音の正体を知らないのもまた怖い。そうして、見つけたのが、ネズミ捕りに引っかかっているポッドだ。

最初は、あまりの小ささにネズミかと思ったが、よく見ると人の形をしている。

私が近づくと、殺されるとでも思ったのだろう、キーキーと甲高い声で鳴いた。


「まぁ、かわいそうに。今すぐ外してあげますから。少し大人しくしていてください」


ネズミ捕りで足をやられてしまったのだろう。

足を庇っている様子で、立ち上がろうとするも倒れてしまうようだった。

私は、そっと妖精を手のひらに掬い上げる。驚いて、固まる妖精に怖がらせないように囁いた。


「ここにいては、また誰かに捕まってしまうかもしれません。窮屈でしょうけど、私のポケットに少しだけ入っていてくれませんか?」


もしかしたら、警戒して暴れるかもしれない。そう思い、妖精の顔を見ると、妖精と目が合った。妖精は、私の瞳をじっと見つめていた。まるで、嘘か本当か確かめているようだった。少しの間、私たちは見つめ合い、やがて、こくん、と妖精の頭が頷いたので、私は安心して自身のポケットに妖精を丁寧に入れた。

ポケットの中で、もぞもぞと動いていたが、やがて定位置を決めたのだろう。大人しくなった。一応、確認のためにポケットを覗きこんでみると、妖精が「大丈夫だよ」とでも言うように親指を立てていたので、私は安心して食料探しを再開した。

パンと少しの果物をかすめ取り、部屋へと向かう。使用人たちが見回りをしているが、あまり仕事熱心ではない彼らは、父の許可をとらずに食堂でトランプ遊びをしていた。こっそりと部屋の様子をうかがう。見回りの使用人は、5人だ。その5人が全員部屋にいることを確認して、横をすり抜ける。


彼らの職務怠慢が、今の私にはありがたい。父はどうだか知らないけど。

それにしても全員が仕事を放棄して、これで何かあったらどうするのかしら。まぁ、私の知ったことではないけど。


そうして、部屋に戻り、やっと妖精をポケットから出してあげることが出来た。


「ふぅ。助かったよ。ありがとう」


しゃ、喋った!?

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