第10話 首都直通ロード

「新潟大火が人的過誤ヒューマンエラーだというミズホの指摘は実際当たってると思う。当時の技術者は防潮ウォールで津波を遮ることは考えても、その壁が下降気流ダウンドラフトの逃げ道を塞いでしまうことには認識が及ばなかったわけだ」

「いや、災害の甚大性を考えると、優先順位プライオリティは通気よりも防潮で間違ってない。防潮システムの設計者だってその程度のことは考えてるだろうさ。問題はフェーン現象フェノメナ程度で出火を許してしまった都市防火の脆弱性ヴァルナラビリティだよ」

「それもですけど、地下シェルターの通気システムの自律制御オートコントロールと地上の防災管制が連動してなかったのが何より片手落ちですよね。人の目で状況を見て通気口を開け閉めしてれば、そんなエラーは起こるはずありませんから」

「AIによる被災時対応ディザスター・レスポンスの不備は当時から散々議論が尽くされてるところです。おさらいはこれくらいにして、今回の防災都市構想の要諦を前向きに考えましょう」


 ツバメの目の前では、ラウンドテーブルを囲む私服姿の男子学生達が、前津ミズホを中心に侃々諤々かんかんがくがくの議論に興じている。ツバメはヒバリとナナオに挟まれる形でテーブルの一角に着席していたが、参加者間の序列をなくすための円形の机も、今はその機能を果たしていないように思われた。

 机の中心に設置された大型の卓上端末インターフェースの画面には、十数年前と現在の新潟拠点都市ディザイネイテッド・シティの空撮遠景が並べて映し出されている。学生達の議論の難しさと異なり、両者の違いはツバメの目にも一目瞭然だ。彼女が幼少期に住んでいた頃の新潟には、他地域と同じく白亜のアイドル居住区ドミトリーが街の中心に鎮座していたが、現在の新潟にはそれが影も形もない。

 もっとも、学生達はその画面など見ておらず、もっと高度で深い次元の何かをそれぞれの怜悧な頭脳に思い描いているようにツバメには見えた。

「いっそ、街全体を最初から地下に沈めてしまうのはどうだ? 津波は無理に防潮ウォールで防がず、あるがままに地上で受け流すんだよ」

「いや、どれだけ地下を開発したって、例外的に地上に置かなきゃいけない設備は出てくる。地上を天災のなすがままにしておくなんて駄目だ」

「それに、あくまで自然の陽の光があってこその人間生活なんじゃないかな」

「地上部分を持たない地下都市構想は二十三世紀にロシアで実践されたことがあります。でも結局、人間は完全に地下に潜っては生きていけないんです」

「じゃあ、逆に、巨大な脚のあるドームを建造して、居住区は空中階に浮かべてしまうってのはどうかな」

「空中建造物が地震に脆弱なのは歴史からも明らかだろ」

「建造物の耐震性クエイク・プルーフは今や問題ではありません。考えるべきは、水害や火災からいかにして人を逃がすかですよ」

「新潟大火は結局、地下シェルターに逃げ場がなかったのが一番の問題だったわけだしな」

「正確に言えば、地下からの避難ルートはいくらでもあった。シェルター直結の地下鉄道リニア駅もあるし。問題は火災の感知から避難誘導までの時間がなさすぎたことだ」

「炎の流入元になった通気口から遠いエリアにいた人達は結構助かってました。ただ、リニアで逃げようとした人は逆に死んでます。車両が足りませんからね。シェルター内の人を一斉に列車で逃がすなんて無理ですよ」

「防災省の報告だと、被災者の実に十パーセントが現役アイドルだったんだよな。ここはハード面よりソフト面の問題なんじゃないの」

「アイドルがドミトリーから出てこれない決まり自体を変えるのか? そんなの防災都市構想の権限外だろ」

 大学生達の議論を間近に聴きながら、ツバメは隣の席に座るヒバリとそっと顔を見合わせ、「意味わかる?」とアイコンタクトで問いかけてみた。ヒバリは声に出さない溜息をふっとついて、「お手上げ」と視線で返してきた。ナナオさえも同様だった。

 三人が臨席しているのは、三条教授のラボのメンバーが顔を付き合わせるカンファレンスルームだった。当の教授は学生達の輪の中に席を占めてはいるが、特に助け舟を出すこともなく、教え子達の自主的な議論を見守っているという風情だ。

 ミズホはといえば、新潟再興プロジェクトの当事者として、年上の学生達に対等に混ざって会議をリードしていた。

「僕としては、災害を事前に防ぐことはもちろんとして、事後処置ダメージコントロールの精度を上げることが今後の都市防災の要だと思います。新潟このまちに限ったことではありませんが」

「消防システムを強化するとかの次元じゃなくて、もっと根本的な制度設計の話だよな」

「大体、この国には防災設備の種類は多いですけど、各システム間での連携が弱いんですよ。これは人が動かしてもAIが動かしても同じことでしょ」

「ハードはいいけど、それを動かすソフトが脆弱ってことだ」

「インドネシアでは各地の地域特性に合わせた防災都市設計のカスタマイズが二十三世紀頃から実践され、成果を上げています。我が国が後れを取っているのはこの分野です」

「まあ、イングランドが連合U王国K時代にやってたような全国画一的な都市整備は、この国には合わないよな」

「そうは言っても、地下シェルターや消防システムの画一化はある程度やむを得ないんじゃないの。防災予算にも限りがあるんだから」

「そこを度外視できるのが今回のプロジェクトだろ。なあミズホ」

「そうですね。『オータム』のサポートが得られる今回に関しては、都市設計は一点物ワンオフで行けるはずです」

 そこでミズホがちらりとツバメ達の隣のナナオの顔色を伺った。ナナオも学生達の会話の内容には到底追随できていないふうだったが、出番を振られたのを受け、小さく咳払いをしてから声を発した。

「はい。オータムKSの上層部からは、費用面は気にせず、企画に専念して欲しいとの通達を受けています」

 そこで男子学生のひとりが口笛を鳴らし、小さく拍手をした。

「いいプロジェクト貰ったなあ、ミズホ。俺のときは予算との戦いだったのに」

 まあ、それが普通だろう、というのは十五歳のツバメの常識でもわかった。自治体であれ営利企業であれ、何か計画を立案するときにはお金を気にしなければならないのが当たり前だろう。思い描いたことが何でも叶えられるなんて、その方が狂っている。

 ツバメとヒバリがまた二人で顔を見合わせていると、突如、ミズホが彼女らに発言を促してきた。

「このプロジェクトはあくまで北陸ミリオンさんとの共同作業コラボレーションなので、お二人からも意見を聞いてみたいんですが」

 真面目なカンファレンスの最中だからか、年上の学生達の手前だからか、ミズホはなぜかツバメ達に対してまで敬語だった。最初からわかりきったことではあるが、そんな彼の様子はとても自分達と同い年には見えなくて、どこか悔しいやら寂しいやらだ。

「えっと……わたしは、災害に強い街を作るのももちろんですけど、新潟ここがアイドルの街として愛されるような、そんな街作りができたらいいなって思ってます」

 喋りながら、ツバメは初めての劇場公演の舞台に立ったときよりも顔が真っ赤になるのを感じていた。ミズホ達の議論内容と比べ、自分の発言が遥かに低次元のものであることは自分自身がいやというほどわかっているのだ。

「アイドルの街っていうのは、具体的にどういう」

 痩せ型の男子学生のひとりがツバメに問い返してきた。女子アイドルと接する機会が普段ないからか、その視線や口調からは若干の緊張が見て取れたが、それ以上に、差し込まれた質問の厳しさにツバメは頭の中が真っ白になってしまった。

「えっと、その……」

 ツバメがそれでも何か言葉を発しようと頭をフル回転させていると、隣のヒバリが、ぴょこんと髪を揺らして片手を挙げた。

「この国のどこよりお客さんを呼べる街! 国じゅうの人が、新潟のアイドルの歌を聴きたいって集まってくる街にしたいです」

 ヒバリは自信満々の顔つきで堂々と言い放っていた。その発言は抽象的であることに変わりはないのだが、少なくともツバメの述べたことよりは一歩先を行っている。

「ありがとうございます。重要な意見だと思います」

 ミズホは他人行儀な口調で二人に礼を述べると、再び学生達に向き直った。

「アイドルの集客効果を高める街作りというのも今回の大事な要点ですね。このプロジェクトの範囲はあくまでドミトリーの再建ですから」

「今後、地域経済の活性化も念頭に置くなら、そのあたりの仕組みは早めに布石を打っておくしかないよな」

「そうなると、問題はアイドルの集客と防災計画をどう結びつけるかだね」

「俺、正直そこが分かってないんだけど、そもそもなんで北陸はアイドルの経済効果が他地域より弱いと言われてるんだ? 地域別GDPなら山陰や四国の方がよっぽど低いだろ」

 学生のひとりから素朴な疑問が飛んだ。再びこちら側の出番かと思い、ツバメはミズホの顔とナナオの顔をちらちらと交互に見やったが、ミズホは「先行研究を漁った限りでは」と前置きして、何でもないように語り始めた。

「県政時代、新潟には早期からアイドルグループの支部が置かれていたそうなんですが、東京や中京と比べると当時から集客力不足は否めませんでした。二十三世紀に学術アカデミーが出した論文によると、二十一世紀から二十二世紀にかけて、当地の市民の間には、アイドル経済に対する諦観が醸成されていったとの分析があります。それが住民投票による特定芸能人条例の否決にも繋がったと」

「サイレント・マジョリティ論文は僕も昔読んだが、平手ひらて博士の学説には人口流出の観点が抜けてる。市民の厭世観がどうというより、アイドルの巨大経済圏である東京や中京に高待遇を求めて移住する家庭が多かっただけだろ」

「新潟市民がアイドル経済に見切りを付けたという点ではどちらも変わらないよ」

「でもそれ、二百年も昔の話なんでしょう? 現在も北陸がアイドル不遇の地とされている理由としては不十分では」

「富める者が益々富み、貧しい者が益々貧しくなるとマタイが説いたのは、それこそ二千五百年も昔の話だよ」

「不遇を覆すには、東京ミリオンの人気アイドルを北陸に移籍させてしまうくらいしかないね」

「ありていに言って、それも焼け石に水でしょうね。二十三世紀には、当時の全国一位だった九州ミリオンのアイドルが四国ミリオンのリーダーに着任した事例もありましたが、結局、四国の地位をさほど押し上げる程には至らなかったようです」

「東京以外のアイドルはある程度、土着のものだろう。人気者を移籍させたからって、行き先にファンを呼べるわけじゃない」

「北陸ミリオンからも人気投票上位が出たことが全く無いわけじゃないんだろ?」

「データベースでヒットするのは二十四世紀半ばの一件だけです。それこそ東京ミリオン出身の移籍組ですよ。移籍後に一度だけ北陸ミリオン名義でセブン・シスターズに入ったようですが、直後に異性交遊のスキャンダルで失脚しています。これを北陸ミリオンから人気アイドルが出たと言っていいかどうかは……」

 何も資料を見ることすらなく、すらすらと述べていたミズホが、そこまで来て若干遠慮がちな表情になってツバメやヒバリの方を見た。ツバメは彼に向かってよくわからない会釈を返すことしかできなかった。学生達の淀みない会話の流れにツバメは終始圧倒されるとともに、焦燥感にも似た、なんだか無性に納得のいかない気持ちを抱いていた。

 学問があちらの領域なら、芸能はこちらの領域だと思っていたのに……。ツバメの目の前で繰り広げられるアイドル史の論議は、知識の広さも考察の深さも、とても彼女が口を差し挟めるレベルのものではなかった。

 住民投票で条例がどうとかいう話も、サイレント何とか論文というものも、九州ミリオンのアイドルが云々という件も、ツバメは何も知らなかった。百年以上前に一度だけ北陸ミリオンから「セブン・シスターズ」に輝くアイドルが出たという話は知っていたが、移籍とスキャンダルのくだりを聞いて、ツバメは長年抱いてきた希望を砕かれたような気分すらした。

 ツバメが両隣のヒバリとナナオをそれぞれ見やると、ヒバリはただぽかんとした顔をしてミズホの姿を眺めているだけだったし、ナナオもツバメの視線に気付くと小さく首をかしげてきた。

 現役アイドルと「オータム」のスタッフが揃いも揃って、天才少年の知識に付いていけない。しかも、ミズホはきっとこのプロジェクトへの参画が決まってからアイドルのことを調べ上げたのに違いなかった。彼の生きている世界ステージではその程度のことは朝飯前なのだろうな、と思うと、ツバメの胸にじわりと切ない気持ちが広がってきた。

 口を挟めない自分が辛い。新潟の火災だって、北陸のアイドルの趨勢だって、わたしは当事者なのに。

「いったん休憩にしましょうか」

 ミズホがインターフェースの時計を見てから、三条教授に目礼していた。教授が「では、二十分後に再開しよう」とのんびりした口調で言うと、学生達は次々に立ち上がり、各々に別れて休憩に入っていった。


「もう、ミズホくん達の話、難しすぎ。せめて日本語で話してよぉ」

 ヒバリがテーブルに突っ伏し、向かいのミズホに向かって口を尖らせた。ミズホはドリンクサーバーのホットコーヒーを片手に、しれっとした口調で答えている。

「この分野は外来語が少ない方だよ。都市防災学は主にこの国で発展してきた学問だし」

「ああ言えばこう言うんだから」

 お人形さんは黒髪をテーブルに投げ出したまま、ぷくっと頬を膨らませていた。

 ナナオは席を立ち、三条教授とどこかへ行ってしまっていた。ツバメがヒバリ達の会話の様子を横目に、ぼんやりとインターフェースの画面に映された新潟の空撮を見やっていると、ミズホが出し抜けに声をかけてきた。

「糸井さんは大丈夫? 元気無さそうだけど」

「えっ。そんな」

 ツバメは驚いて思わず彼に顔を向けていた。ミズホの口からまさかそんな心配の言葉が出てくるとは、あまりに想定の範疇外だった。

「……ちょっと、悔しかっただけ」

 なぜだか素直に言葉が口をついて出た。ミズホは少し不可解そうに首をかしげてから、「僕としては、二人の率直な意見がもっと聞きたいんだ」と励ましのような言葉を述べてくる。

「下手に知識がないほうが、逆に斬新な発想ができるというし」

「あ! 今、わたし達のことバカ扱いしたでしょ!」

 ヒバリがぴょこっと顔を上げてミズホに指を向ける。だが、ツバメは、年上に混ざって議論をしているときのミズホより、今の彼のほうが親しみやすくていいと思った。

 前提知識がないほうが斬新な発想が出やすいというのも、嫌味ではなく彼の本心からの見解だろう。ここまでの議論を目の当たりにして、ツバメも実際、自分達が役に立てるとしたらそうした角度からしか有り得ないと思い知らされていた。素人ならではの斜め上の発想というものを出すこと以外、自分達がミズホと対等に並び立てる道などない。

 問題は、それが何も思いつかないことだったが……。

「アイドルの集客と防災を組み合わせるんだよね……。つまり、来るのも逃げるのもしやすい街ってことに……」

 窓の向こうの街の景色を見やったまま、ツバメはとにかく口を動かしてみた。頭の良い人の中には、喋っている内に良案を閃くという人もいるという。黙っているよりはマシだろう、と思ったのだが。

 それに横から食いついてきたのは、ミズホではなくヒバリだった。

「思い出したよ、スワちゃん! なんか、むかーし、東京の偉い人の家から新潟まで直通する道があったんだって!」

「へ?」

 ヒバリの素っ頓狂な発言に、思わずツバメは間の抜けた声を出してしまった。だが、ヒバリは構わず、ツバメとミズホのそれぞれの服の袖をくいくいと引っ張り、突発的に思いついたらしい話を披露し続ける。

「東京から新潟までたった三回曲がれば着いたらしいよ! 電車じゃなくて車の道がだよ」

「……そんな馬鹿な。東京からなんて何百キロあると思ってるんだ」

 ミズホが即座にヒバリの話を否定していたが、そこで会議室に残って休憩していた別の学生がふいに口を挟んできた。

「それ、田中角栄かくえいの直通道路だろ。知ってるよ」

「あ、それそれ! なんかそういう名前の人だった!」

 もともと賑やかなヒバリが、さらに水を得た魚のように声のトーンを上げた。

 田中角栄という昔の政治家の名前はツバメも歴史の授業で聞き覚えがあった。何をした人かは全く思い出せないが。

「本当なんですか」

 ミズホに尋ねられると、その学生は胸を張って答えた。

「俺、近代政治史にはちょっとウルサイぜ。角栄といえば二十世紀の交通インフラ整備の巨人だ。特に実家のある新潟には手厚く道路を整備したと言われてる。その子の言う直通道路の話も事実だったはずだ」

「ですよね、ですよね! やったやった、今回はガセじゃなかったよ、スワちゃん」

 ヒバリがツバメの両手をとって、嬉しそうに声を弾ませた。

「いっそのこと、東京だけじゃなくて、他の街にも新潟からミリオン専用の直通ルートを繋いじゃうの! どこからでもお客さんが来られるようにして、新潟の会場にライブを聴きに来てもらって、もしその最中に地震とかが起こったら他の街に逃げちゃえばいいんだよ」

 ヒバリのアイデアにツバメが呆気にとられていると、ちょうど部屋に戻ってきた他の学生達が、口々にその話に興味を持って乗ってきた。

「災害時の避難ルートを別の都市まで繋ぐのか?」

「平時から直通ロードをアイドルの集客に利用するような企画にして、災害時の避難に転用できるようにするんでしょう」

「直通ロードなら双方向性インタラクティブだろ。他の都市の被災時には逆に新潟に避難できるじゃないか」

「それ採用。ついでに観客だけじゃなくて出演側もインタラクティブに移動できるようにすれば、各地の劇場に別のグループのアイドルが出演するなんて芸当もできるな」

「劇場から劇場への直通ロードに計画を絞れば、興行的にも新しい目玉を作れますね」

 学生達の議論を聴いていると、とたんにツバメの胸にも元気が湧いてきた。同時に、彼女の頭にもついに閃くものがあった。

「それなら」

 ツバメの上げかけた声に、ひとかどの秀才達が興味を込めた視線を向けてくる。緊張を抑えながら彼女は述べた。

「新潟の新しいドミトリーは、それ自体を避難シェルターにしちゃうっていうのはどうですか? 新潟このまちの被災時はもちろんとして、他の街で災害が起きたときにも、どこからでも新潟のドミトリーに避難して、北陸ミリオンの公演を楽しんでもらえるようにするんです」

 後半を一息で言い切ってしまい、ツバメがふうっと息を吐く頃には、ミズホをはじめとする学生達はうんうんと納得の頷きで応じてくれていた。自分の言葉が彼らの注目を集めているのは不思議な感覚だった。

「それが実現したら、二度と北陸のアイドルが不遇と言われることはなくなるな」

耐震性クエイク・プルーフを考えると、直通ロードは大深度地下DUGに通すことになるでしょうけど、そこは角栄ロードの換骨奪胎ってことで」

「既存の大深度地下高速鉄道リニアエクスプレスのインフラをそのまま転用してもいい」

 そこで三条教授とナナオが会議室に戻ってきた。ミズホが直ちに教授に告げた。

教授せんせい。たった今、名案が出たところです」

 全員が慌ただしく席に着く中、ツバメとヒバリに向かってふっと控えめな笑みを送ってきたミズホの顔を見ると、ツバメの目に不覚にも涙が滲んだ。

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