パーティーで寝る。ウサギの子ども。
パーティーで寝る。手話学校の卒業記念パーティーで、会話はすべて手話で交わされる。音楽はなく、歓談がどれほど盛り上がれど笑い声は発せられず、私は絶えず動く人々の手の、蝶の羽ばたきめいた空気の揺れに身を任せている。
音のない代わりに照明は強い。二十七世紀の木星戦争前期風シャンデリアは、輝かしい進路を得た卒業生と薬液漬けされた脳からの電気信号で動く腕だけの教師陣と月の石のチェストで眠る私のことを平等に照らす。ひらひらと形を変える手のおしゃべりは、私の頬に影を映し、皮膚から浸透し、私の夢の中に降る。降りそそぐ言葉たちを、私はエプロンを広げて受け止めて、新たな物語に組み直そうと試みる。もちろんうまくはいかない。材料は足りず、ピースの大幅に欠けたジグソーパズルのようになる。穴だらけの物語を俯瞰するうち私は、その欠けた部分こそが私の本当に描きたかったもののような気がするが、だとしてもこの場所以外では再現できない空虚であることも知っていた。
すっかり意気消沈した私は、せめてもの記念に屋台でりんご飴を買ってとぼとぼと帰路につく。草原の真ん中には門が立っていて、私はたどり着くまでに半分齧ったりんご飴をその鍵穴に差し込んで回す。重たい扉をどうにか押し開けたそのとき、足元を小動物が一匹すり抜けて、光の方へと飛び出してしまう。その生き物を引きとめる咄嗟の叫びはしかし出てこない。私はすでに目覚めていて、夢の外は手話者のパーティーの真っただ中だからだ。佳境にあれど静寂なパーティーの片隅、私は、言語にもならないただの手遊びで、あの
生き物の影絵をつくってみる。なるほどたしかに、透明なパズルなんて愛想のないしろものは、濁流にくたびれた大人たちの慰めで、遊び盛りにはいささか退屈だったことだろう。せめて良い旅を、ウサギの子ども。
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