いざ!釣へ
5話 サビキ釣り
早朝五時。釣小屋の周りは寝静まっていた。
ドンドン!
「ユッキー先生朝だよ。」
「雪香先生」
釣小屋の前には三人の姿があった。
ドンドン!!
「起きないですわね。」
「そうだなあ。これは寝てるな。」
「え、ここで寝てるんですか?雪香先生。」
「まあ、週末は特にあるなあ…」
「ですわねえ…」
「あの、先輩方その意味深な表情は?」
諦めな顔なんだろうか?またかあ…ってな顔何だろうか?
二人の微妙な笑みが気なっていた。
「良かったなあ奏。入部して最初の試練だな。」
「そうですわね。これが伝統になるのかしら。」
「フっフフフフフッ…」
二人から不気味な?笑い声がした。
「あれ、私何か知らないけど忘れ物したようです。帰りますね…」
二人の先輩から不気味な笑い声を隣で聞いていた奏は本能的に危険を感じたのか撤収しようと考えていた。
「まあ待て奏。そもそも何か知らない忘れ物って何だ?」
「それは…」
「言えないだろう。言えないだろうな。言えないよな奏。」
「はい。」
華泉 先輩に言い寄られ何も言えなくなった。
「そうですわねえ。このままでは時間がもったいないですわね。開けますわね。」
「そうだなよろしく。」
話終わると、萌のかばんから鍵の束が出されていた。
「あのー…先輩方。鍵あるんだったら最初から開けて良かったのでは?ドア叩いてユッキー起こす前に…」
最初から鍵で開ければこんな時間かからないはずだった。ここでかれこれ10分…20分経っているのは確かだった。この時間があれば準備が終わりあとは出撃するだけだった。
「まあそうだな…。体験してみたらわかるかな。」
「そうですわね。」
そう思っている間に釣小屋のカギが開いた。
「開きましたわ。奏ちゃんユッキーちゃん起こしてもらえないかしら。私達は道具用意するから。」
「任せたからな」
「はいわかりました。」
奏に任せると二人は急ぐように奥の道具部屋に入っていった。
先輩達の行動が気になったが、まずは雪香先生を起こすことが先決だった。
「雪香先生‼。何処ですか?」
恐々、奥に進むと夕ご飯なのか、イカや魚など食べかけが載った皿が机の上に乱雑に置かれていた。皿の周辺には空き缶や飲みかけのビールが机の上に散らかっており、床に落ちたのだろうか?空き缶が転がっていた。
「雪香先生…何処ですか…」
机から奥へ進むと、更に異様な光景が広がっていた。
床には缶ビールなどが更に転がっていた。
「これ…一人で飲んでいるんだ」
奥には、空き缶と開いてない缶に挟まれる様に何か物体が動いていた。
「雪香先生…」
怖いながらも動いている物体に近づいていた。
「何…狸…熊?」
動いている物体は、寝袋で寝ている雪香先生だった。
安心したのだろうか、動いている物体が雪香先生だと知ると起こしにかかっていた。
「雪香先生朝ですよ。起きて下さい。釣りに遅れますよ。先生ってば」
「ウーン…」
「先生!」
「ウーン!!」
「起きました?先生?」
寝ぼけているのだろうか、起き上がると奏に抱き着いてきた。
「えー」
一瞬何が起きたのか分からなかった。そんな状態で動けなかった一瞬を狙ったかのように、雪香先生の顔が近づいてきた。
「エッ!」
と思った瞬間、キスされてしまった。キスが永遠続いていたが何が起きたか分からなかった奏だった。
「今日はキスだったかあ。まだいいほうじゃないかな。」
「そうですわね、近くにあったライフルを打ちまくるのもありましたわね。」
「あれは、ひどかったよなあ。前日モデルガンで遊んでいたのが悪かったなあ。そのまま寝ちゃって、翌朝寝ぼけながら連射だったからなあ。」
「あのー、先輩方。どうにかしてもらえませんか?この雪香先生。」
会話に夢中になっている間に、正気に戻った奏が、キス魔の雪香先生から逃れようとしていた。
「雪香先生。離してください。私はかわいい女の子ですよー。」
「かわいいのか?」
「うーん。どうかしら?」
「先輩方。ふざけてないで助けてくださいよ。」
そんな奏の姿をみて、抱き着いている雪香先生を離していた。
「うーん、悪かった三絡さん。まったく記憶がないなあ。」
正気?に戻ったのか手には温かいコーヒーがマグカップに注がれていた。
「まったく記憶がないって…」
最初のキス以外はどうにか免れた奏だった。もう少しずれていたらと思うと背筋に汗が流れた。
「準備できましたわ。」
「遊んでないで行くぞ奏。ユッキー先生も早く。運転お願いしますねえ。」
別に、遊んでいたわけではなく、雪香先生を起こしていただけで。
こんなことになるんだったら、先輩方が雪香先生を起こしたほうが早かったのではと思いながらも言い返せなかった。
「窮屈ですけど、一通り車に入れてありますわ。」
「ユッキー先生、鍵こっちにあるから。」
「ういー。」
寝ぼけているのか、まだ通常にもどっていない先生だった。
「では、改めて、大社漁港ですね。先輩方。」
「そうだな。まずは車に乗った。奏は後ろだからな。」
「はーい。って…この車ですか?」
「そうですわ。」
「気にしない気にしない。」
「気にしないって、これってレースで走る車ですよね。」
「ですわねえ。」
「大丈夫だから。」
先輩方に言われながら乗り込んだ。頭には、鉄パイプ?だろうか内装にそって張り巡らされていた。
何か、突っ込みたかったが、言う前に雪香先生がキーを回しエンジン音がした。
ブオーン!グオー!
静かな朝に、爆音が響き渡っていた。
「あのー雪香先生?」
「奏、シートベルトよろしくな。慣れるまで辛抱だからな。」
「大丈夫ですわ。安心ですわ。」
何が大丈夫なのか?何が安心なのか判らないかったが、雪香先生の一言で分かった。
「お前ら、シートベルトしたな。一っ走り大社漁港だな。」
言うが早いが、手慣れた操作でスキール音を出しながら大社漁港に向かっていた。
「キャー」
奏の叫び声が小さくなって消えていった。
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