4話 魔界にはまる

 「せんぱーい」


釣小屋いっぱいに奏の声が響いていた。


 「今日は魔界に行かないんですか?まだ見足りないんですよ。ルアーって綺麗ですよねえ。部屋に飾っていたいなあ。」


先日の魔界に行ったことで更に釣りにはまった奏だった。ルアーは綺麗に塗装されていて、トリプルフックなど針を外して飾っているひともいるぐらいだった。


 「はーい。落ち着いてね。奏ちゃん。また次回行きましょうね。」


 「えー。毎日でも行きたいのに。」


 「そうだぞ、奏。たまに行くからいいんだ。毎日行って一週間でお小遣いなくいなってしまうからな。」

 

「ふにゃあ。」


先輩二人から落ち着かせられどうにか行くことをやめた奏だった。

部活がなかったら授業が終わったら速攻で行っていたのは言うまでもなかった。


 「そういえば先輩。今日は何するんですか?」


 「そうですわねえ。ユッキーちゃんに聞いていませんでしたわね。華泉 ちゃん冷蔵庫見てくれませんかしら?」


 「了解。」


 「ふにゃ?冷蔵庫?」


萌先輩に言われたまま華泉 先輩は冷蔵庫を開いていた。


 「萌。冷蔵庫の中ビールだけだな。」


 「萌先輩。パンの耳が数切れあります。冷凍庫は…臭い!先輩冷蔵庫が腐ってます。」


 「いやいや、冷蔵庫は腐ってないって。腐ってるのはユッキーだから。」


 「華泉 先輩。駄目ですよ本当の事を言っちゃ。」


 「最近、一言がきつくなってないか、奏。」


 「いやー、照れます。」


 「褒めてないから。」


そのまま、二人のコント?が暫く続いたのは言うまでもなかった。

最近の光景なのか、なれてきているのか萌は気にしなかった。

 

 「そうですわねえ。明日はアジ釣りですわね。その為に今回の買い出しですわね。」


 「明日はサビキ釣りだな。」


 「ですわね。早速準備かしら。多分ユッキーちゃんが来たら話がありますわ。」


 「りょーかい。早速準備するかあ。」


 「あのー、先輩?私は何すれば?」


二人の会話についてこれなかった奏だった。そもそも、冷蔵庫の中を確認するだけで釣りにいくのが決まっている感じだった。そもそも、この冷蔵庫はビール専用?

調味料や缶詰はともかく、マヨネーズなどはどこにもなかった。


さっきの冷凍庫の匂いは何?腐れた匂いというか、華泉 先輩のソックスの匂いよりはまだましだった。


 「奏ちゃん、詳しくはユッキーちゃんが来てからですわ。」


 「奏、準備するから手伝って。」


奥から、華泉 の声がした。奏は言われるまま奥の部屋に入っていった。


 「二人に準備を任せて私はこちらですわね。」


言いながら、机の上には買い物をした領収書が出ていた。先日の魔界で買った物からスーパーで買い物したものまでならべられていた。

 

 「流石に、ツマミは必要経費ではないですわねえ。」


何十枚のなかにほぼ関係ない領収書がほとんどだった。そもそも、ビールなど食材などを部費で一旦立て替えていた。立て替えるのはどうだろうと思うのだが。


 「今月の会計はこれでいいですわね。後は立て替えた食料品代はユッキーちゃんから回収ですわね。給料日は…先日だったはずですわね・・・。」


 「・・・。」


 萌は何か考えていた。


 「萌。どうした?又、部費たらないのか?」


 「又?部費使いすぎたんですか?萌先輩。華泉 先輩のソックスが臭すぎて言葉が出ないとか。」


奥の部屋から道具を持ってきた二人が萌の様子を見て話しかけてきた。


 「おい、奏。喧嘩うっているの売っているのか?」


咄嗟にポケットからエアーガンをとりだした。

人間の手のひらサイズ又は衣服のポケットに収まるサイズであるデリンジャーだった。

デリンジャーの直接の由来となったのは、リンカーン大統領暗殺事件に使われたことが有名で、ヘンリー・デリンジャーが製作したもので、.44口径の小型パーカッション式単発銃である。以後、デリンジャーという名前は小型拳銃の代名詞となった。


 「このエアーガンは女性の手袋にも入るぐらい小型だからいつでも取り出せるんだぜ。」


 「華泉 先輩ごめんなさい。」


 「よし、ゆるしてやる。」


持っていたエアーガンをポケットにしまった。

密かに奏は思った。華泉 先輩のポケットやポーチにスクバの中に何が入ってるのか。確実に高校生必須な鏡など確実にないと思った。

 

 「はあ…」


 「何か気に食わないから一発打つ」


 「相変わらず、騒がしいなあ。いつもの風景かあ。中洲さんビールないかしら。」


部活が終わったのか雪香先生が釣小屋に現れた。


 「了解。持ってくるねえ。」


手に持っていたデリンジャーをビール缶に持ち替えていた。

 

 「ありがとうね。中洲さん。」


 「ユッキーちゃん。飲む前に清算しませんか?」

 

 「仕方ないわね。今月はまだ給料あるから払えるわよ。臨時収入もあったし。封筒にお金が入ってるから出してもいいわ。だから、それ頂戴。」


 「はいどうぞですわ。」


萌先輩の許可が出たので華泉 先輩がビールを手渡した。



プシュー


釣小屋の缶のプルが開いた音がした。

そこからほのかにビールの匂いがしたのは言うまでもなかった。


釣小屋で、ビール?いいの?と突っ込もうが言わなかったし、そもそも、この釣小屋は正確には学校の敷地外にあった。

二人の先輩方はいつもの光景なのか言わなかったのか言っても言うことをきかないからあきらめムードだった。


萌先輩は聞き逃さなかった言葉があった。

臨時収入って言葉が気になったが、もう一つの言葉が先だった。

「今月はまだ給料があるから」

という言葉が一番だった。


今月はまだ?給料日は先日。一体何に使っているのか。

高校生のバイトは平均八五〇円ぐらい?

夕方頑張っても先生の給料までは届かない。


悩んでいた奏だったが、現在の雪香先生の姿見て納得した。


雪香先生の姿見ると、ビール片手に何も入ってない冷蔵庫に頭を入れて覗いていた。


そんな雪香先生に話しかけていた。


 「ユッキーちゃん。今度の休みはサビキですわね。」


 「そうだなな。冷蔵庫何もないからなあ。餌は、冷凍庫に入れてあるわよね。」

 

 「買って冷凍庫にいれてありますわ。」


 「この匂い、餌だったんですね先輩。てっきり華泉 先輩のソックスかと。」


 「まだ言うか奏。」


そんな二人を、そのままにして話が進んでいた。


 「道具は、あの二人が準備してますわ。奏ちゃんの道具も用意するとして、行くなら大社築港ですわね。」


 「築港でいいじゃい。当日は車だすから準備よろしくな。」


 「わかりましたわ。」


話がまとまったのか、準備も終わり釣小屋を後にした三人だった。

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