第72話 テンプレ過ぎて呆れた



泣いているラシエ様を何とか宥めて聞き出したところ、ナノカとエリナ親子にラシエ様とジョセフィーナ様がテンプレどおりの苛めを受けているらしい。


父親のフビオ=プロブレの元にやって来た、ナノカと名乗る女性とその娘のエリナ。


ナノカはフビオの元学園の同級生だと聞かされた。ナノカ本人からは私は聖女で高貴な出身だと言われたが、ラシエ様から見て母娘の出自などは虚言だと思えたそうだ。


母親のジョセフィーナ様は、この聖女と名乗る女性に初めは賓客として接していたらしい。


ところが、フビオ男爵がどうしちゃったのか、斜め上にはっちゃけた。


なんとナノカを第二夫人に、エリナを婚外子として男爵の実子として公表すると言い出したのだ。


勿論、ジョセフィーナお母様はこれに猛反発したらしい……そりゃそうだ。ところが、執事やメイド達がフビオやナノカの肩を持ってしまったらしい。


「お母様と私は……プロブレ家で孤立してしまいました」


「まあ……それは大変で御座いましたね」


私は適度に相槌を入れつつ、ラシエ様の言葉の続きを待った。


ジョセフィーナお母様もラシエ様も、本宅から別宅に追いやられていたものの、食事は身の回りのお世話は特に問題無く行われていたらしい。


しかし徐々にその扱いは変わっていき、気が付けば食事で出されるものが硬いパンと、塩味の強い干し肉にコップ一杯の水のみになってしまっていたそうだ。


ジョセフィーナお母様とラシエ様は何度か、食事内容の改善をお願いしたらしいけれど、聞き入れてもらえなかったそうだ。


このジョセフィーナお母様のぬるい対応に、もっとガンガン抗議したれよ~と、周りから見たら思うのかもしれないけれど……実はジョセフィーナお母様が強気に出れないことには、理由がある。


ジョセフィーナお母様のご実家のクレイブ伯爵家でのジョセフィーナ様の立ち位置は、正直微妙なのだ。


ジョセフィーナお母様は前妻との間に出来た子供で、前妻が鬼籍に入られていた後に後妻とその子供達に追い出されるようにして、プロブレ男爵家に嫁いできたそうだ。


実家の伯爵家の助力は得られない……助けを求めるにしてもフビオ=プロブレは、はっちゃけてしまって、まるで使い物にならない。


更に男爵家の領地に居る息子二人に手紙を出しても、返事が無いらしい。


こうなってくると貴族女性は伝手が閉ざされて、嘆き悲しむくらいしか出来ない……みたいだ。


あくまで憔悴云々は、ラシエ様の証言と憔悴ぶりから察しただけなんだけどね。


なるほどね~それで食べるものも満足に貰えなくて、元気なかったんだね。


そりゃそうか~普通の貴族令嬢が、ご飯をよこせ!と厨房に殴り込みに行かないだろうし、ご飯無いなら市場に惣菜買いに行こっ!なんて発想も、思いつきもしなかったんだろう。


「それでも、こうなるまで手をこまねいているなんて……」


「もっ申し訳ございません……」


「ああ、ラシエ様を責めた訳ではありま……」


「そうだぁぁっ!!ラシエ嬢は何も悪くないぞっ!」


「!」


急に部屋の扉がバーンと開けられて、見覚えのある声も態度もデカい某王子がそこに立っていた。


「なんでそこにいるんですかぁ……あら、お兄様?」


よく見れば某王子こと、ヴェスファード殿下の後ろに怖い顔をしたラナニアス兄がいるではないか。二人揃ってどうしたの?


「ラシエ嬢の兄のシルビオ=プロブレは俺と同級生だった」


ラナニアス兄はそう言って、ラシエ様に会釈をしてから私の隣に座った。


「シルビオ=プロブレは真面目な男だ。母親から連絡が来ているのに無視することはあり得ない。ナミア姉さんに相談されて調べた」


おおっ!ラナニアス兄が裏で頑張ってるっ?それでそれで?


「結論から言うと、シルビオの元に手紙は届いてなかった」


ラナニアス兄の言葉に皆の息を飲む音が聞こえた。


「どうして……」


絞り出すような声で兄に問い掛けたラシエ様に、ヴェスファード殿下が声をかけた。


「ナミア夫人より夫君のネイサン=イコリーガに相談があり、更にイコリーガ副団長から俺に相談があった。聞けばあの煩いピンクの家の問題だというので、直ぐに暗部を差し向けて調べた」


また、ピンク憎しっ……で、素早い対処をしているヴェスファード殿下。


「暗部の者をプロブレ家に潜入調査をさせてみた結果、分かったことは不可解な現象が起こったこということだ」


「不可解ですか?」


「うむ、潜入した者が全員揃いも揃って『怪しい所は無い、問題無い』と報告してきた」


「ええっ?」


思わず声を上げた私をヴェスファード殿下は見た後に、ラナニアス兄の方を見た。兄も怖い顔をして私を見ていた。


「俺は何度かプロブレ家を訪れたことがある。シルビオに連絡を取りたいという言伝がてら、屋敷の様子を確認してきた。暗部の奴らもおかしくなる訳だ、屋敷中に妙な魔力の気配が充満していた」


ラナニアス兄が言った言葉に首を捻ってしまった。


妙な魔力……ん?


「あの……魔力が充満して何かあるの?」


私の問いかけにラナニアス兄の顔が険しくなった。


ちょっ……私にそんなに怒りを向けなくてもいいじゃない!


「俺やナミア姉上、父上や母上も既に慣れているが、初見の者には耐えられん強さだ」


え?強い?何が?


首を捻っていると、兄が深く溜め息をついた後、ビシッと私を指差した。


「プロブレ家に充満している魔力は強い聖属性を帯びていた」


「聖属性…………っ!?」


も、もっもしかして、私が犯人っ!?


…………そんな訳あるかぁぁぁ!!!!









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お呼びじゃないけど、オバサン令嬢頑張ります 浦 かすみ @tubomix

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