第71話 義母と義妹とくれば
翌朝、オーデンビリア家(実家)からお手紙が届いていた。
ネイサン=イコリーガ副師団長と結婚した、長女のナミア姉様のお友達の更にそのお友達経由で、とあるご相談を受けたらしい。
そのご相談内容がどうやらリジューナ案件(どういうこと?)だということになって、相談を持ち掛けたご令嬢とナミア姉様立ち合いの元、会って欲しい……とのお母様からのお願いだった。
なんだろう、私が絡む相談事? 全然見当が付かないけど……
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週末、オーデンビリア家に帰ると長い黒髪の綺麗なお姉様がいた。
「ラシエ=プロブレと申します」
立ち姿の美しいお姉様……ん?今、プロブレと言いました?まさか……
エリナ=プロブレ絡みなのかな……あ〜〜確かにリジューナ案件ですわ。
「リジューナ」
ラシエ様の隣に居るナミア姉様から声をかけられて慌てて姿勢を正して、ラシエ=プロブレ令嬢にご挨拶をした。
そしてナミア姉様を交えて、対面で改めてラシエ様を見詰めた。
綺麗な方だけど、元気が無い。というより……
ラシエ様の体の中の魔質を視てみた。
体内の魔力の巡りが悪い。病気というより、魔力を巡らせる力が極端に落ちている状態なのかも……もしかして、疲れてる?
「……ナミア姉様、私少々お腹が空きましたわ。何か摘まみながらお話をさせて頂きたいのですが構いませんか?」
貴族令嬢としてははしたない言動だが、ラシエ様に向かって「休憩しましょう」と、直に言うのは忍びない。それこそ初対面の私に向かって疲れているとは言えないだろうし、今も根性と気合いで踏ん張っているかもしれない。
「あらまぁ~リジューナは本当に~ねぇ……オホホ」
ナミア姉様の言葉の端々に「お行儀悪いわよ」のお怒りが籠っている気がするが、気にしないことにして軽食をメイドにお願いした。
待つこと少々……
サンドイッチ、パンケーキ、ジンジャークッキー、プリン……結構がっつりめの軽食がテーブルに運ばれてきた。
……ぐうぅぅぅぅ~~~~
因みに今、サロンに鳴り響いた音は私のお腹の虫の音ではない。
そして……若干怖い顔をしてこちらを見ているナミア姉様でもない、と思う。
そうなって来ると消去法と言ってしまうのもなんだが、スンとした表情まま座っておられる、ラシエ様がお腹で飼っている虫の音だと思うんだけど?
スン…………
ギュルキュキュキュ~~~~~
ラシエ様のお腹の音と、スン表情のギャップが凄まじいぃぃ。
「で……では、少し召し上がりながらお話致しましょうか?」
ナミア姉様が場を仕切ってくれたので、お腹の鳴り響く音と共に軽食を頂くことにした。
そして先程から、すげぇ……としか表現が出来ない感じです。
ラシエ=プロブレ令嬢はテーブルマナーは完璧で、ほぼ音も立てずにパンケーキを召し上がっております。
但し、超高速スピードで……
ナミア姉様も、どう言おうかしら?的な戸惑いを見せて私を見たり、ラシエ様を見たりしていたけれど、ラシエ様があまりに超高速スピードで軽食を召し上がっているのを見て、何か気が付かれたみたいで困った顔をしながらもお茶を飲んでいる。
お腹が空いてたんだ。そりゃあ疲れもするわ。
しかし……プロブレ家が食べ物に困るほど貧乏だとは聞いたことは無い。商会も運営しているし男爵家としてはそこそこ裕福なはずだ。
そこのご令嬢がこんなにがっつく?
ほぼ一人で軽食を食べ切ったラシエ様は、優雅に口元をナフキンで拭っている。
理由を聞いた方がいいのか……
するとここで、精霊パパンの遺伝子を色濃く受け継いだナミア姉様が、ド天然発言を繰り出した。
「ラシエ様、お腹空いてらしたの?もしかしてお食事食べてないの?」
ナミア姉ぇぇ!?勿論それは聞きたいことだけどっ直球過ぎるぅ!もっと包んで包んでっ!
すると先程までスン……とした表情をしていたラシエ様の目から大粒の涙が零れ落ちた。
ラシエ様はそのまま表情を崩すと、顔を手で覆って静かに泣き出した。
「どうなさいましたの?お腹空いてらっしゃいます?実は〜私も安定期に入って食欲が増しちゃって…あっ追加をお願いね」
と、更にド天然発言を連発するナミア姉様。
「えっ?安定期、それってナミア姉様おめで……あっ!軽食の追加は後ほどでっ!ラシエ様、大丈夫ですからね?え〜と、え〜とっメメッ!温めた濡れタオルを持って来て!」
やる事が多いっ。ナミア姉様のおめでた発言に驚いたり、追加を取りに行こうとしたメイドを制止したり、乳母のメメを呼んだり……忙しいっ!
温タオルを受け取ったラシエ様は、消え入りそうな声で謝罪された。
「っ……うっ……もうし、わけ……ありませ……」
ナミア姉様と目が合って頷き合った。
これは……まさにリジューナ案件(厄介事)だ……と。
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