第70話 変なものを与えてしまった……


早く返事を打てという、ワクワクした表情のヴェスファード殿下に急かされるようにしてウキウキペディアの画面のチャット入力のアイコンを押してみた。


すると画面に並んだキーボードが現れた。


「うわ……キーボード!これで入力ね。え~と」


音声認識の方が良かったかも……と一瞬思ったけれど、他の人には見えないウキウキペディアの画面に向かって必死に独り言を言っている自分を想像して、恥ずかしくなった。


音声はナイナイ……それにしてもキーボードも打つの久しぶりだわ。


ジャニーイル殿下の……留学は、いつからでしょうか?……よしっEntar!


……でもこれ、わざわざチャットで打つことじゃない気がするよ。


『留学は来月の初めだと聞いている』


うっわ!殿下のタイピングの返事が早いなぁ。でもやっぱり目の前にいるのにわざわざチャットする意味は……


「あのぉ……これくらいなら別に喋ってもいいんじゃn……」


私のボヤキにヴェスファード殿下のチャットから素早く文字が返って来た。


『リジューナ!チャットを使えっ!』


「いや、あのですねぇ~だから目の前に居るので、そもそも寮に帰ってからのやり取りする方がいいのでh……」


『それなっ!じゃ帰るぞっお先に出ます('ω')ノ』


うわっ!?この顔文字懐か……そうじゃない。


「え?出るって、あっ!チャットから出るってことって?!……殿下ってばもういないし」


チャットの返信を見て、目の前の殿下に確認を取ろうとしたら、既にヴェスファード殿下はいなくなっていた。


「なんなの……慌ただしいわね」


どっと疲れを感じた私は、ウキウキペディアの画面を閉じてガゼボを後にした。




°˖✧ ✧˖° °˖✧ °˖✧ ✧˖° °˖✧ °˖✧ ✧˖° °˖✧ °˖✧ ✧˖° °˖✧ °˖✧ ✧˖° °˖✧




それで女子寮に帰って来たんだけど、少し……いや、かなり嫌な予感はしてたんだよね。


あのヴェスファード殿下が新しい玩具、ウキウキペディアの新機能を使わないまま大人しくしている訳が無い。


「…………眩しぃ」


さあ寝ようかな~とベッドで横になってウトウトしていたら、目の前に眩しい光が差し込んで来た。


目を擦りながら光源を見ると、ウキウキペディアの画面が浮かび上がっている。


ん?と、不思議に思いながら画面を見詰めていると、神コミチャットのアイコンが点滅している。


ここで嫌な予感を感じつつも、一旦はアイコンの点滅を無視して寝ようと再び目を瞑った。


そうしていると心なしか、点滅の光りが眩しくなった気がした。


ピコピコピコ…………


「……もぅぅぅ……なんなのよぉ」


渋々チャットアイコンを押してみた。どうせチャット相手はヴェスファード殿下だ。


『起きているのか?』

『既読が付かないな……』

『おーい』


うざぁ……


『おっやっと見たな。実はなジャニーイル殿下の留学の話だが、どうやら発端はルナセイル殿下の留学が絡んでいるらしい』


『こんばんは、ルナセイル殿下ですか?』


『エアルにもっと詳しく調べさせた。エスカレイド帝国の王族、いや旧帝国民全体がヘラヴェルガ帝国に対して色々と複雑な感情を抱いているというのは知ってるな?』


うわぁ、更に調べてもらったの?エアル………過労で倒れてるんじゃないかな?


『はい、ヘラヴェルガを下に見ているという感じでしょうか?』


『そうだ、特に王族方が並々ならぬ対抗心をお持ちでな。ガレリアンデル学園を退学になったジャニーイル殿下がわざわざジュ・メリアンヌ学園に留学して来るのも王命だということだ』


『王命ですか……こう言ってはなんですが、王命で留学というのもおかしいと言いますか、わざわざジュ・メリアンヌ学園に?という気持ちが……』


チャットが止まってしまった。殿下からの返事が来ない。


「…………寝てるのかな」


暫くしてチャットが動き出した。


『リジューナ……今さ、ウキウキペディアの画面の『お問い合わせ』を押してみたんだ』


お問い合わせって、ウキウキペディアの新機能のこれだよね?


横目でお問い合わせのアイコンをチラ見した。


『押してみて何かありましたか?』


また返事が遅いし……あ、返事来た。


『問い合わせのフォームが開いたと同時にメッセージが打ち込まれた。何を問う……と聞かれた。それで聞き返してみたんだ。お前は誰だ、と』


そうよね、まさか相手はカスタマーセンター?とかじゃないだろうしね。


『付喪神だ……と返事があった』


そうりゃそうよね、自称神様から貰ったウキウキペディアだもんね、相手はのっぺりしたアレに決まってるわ。


『俺は更に聞いてみた』


『何を聞いたんですか?』


……また返事が来ない。何やってんのよ。焦らされる……あ、返ってき……


『この世で一番強えぇぇのは誰か、と』


「そうじゃねぇ!!!馬鹿かっお前はっ!!」


チャット画面に向かっていつもの調子で怒鳴り込んでしまった。


暫くすると、ヴェスファード殿下からチャットが返ってきた。


『付喪神から返答があった。リジューナだ。と……お前いつの間に俺より強くなったんだ?』


「……っ!?真に受けてんじゃねぇ!!」


あの、のっぺり神めっ!適当なこと言ってんじゃないよっ!絶対私な訳ないじゃないっ!殿下をからかってワザとボケを返してるんだ。


『そんな訳ありません。あの自称神様のいう事を信じてはいけません』


……あら?つい、神様信じるなとか言っちゃったけど……これって神の使徒あるまじき発言だったかしら?


まあ……いいか。自称使徒はヴェスファード殿下だけだもんね、私は違うし。


『でさ、本当にリジューナが世界最強なのか?』


「違うわっボケェ!!!……はぁぁぁぁ」


寝る前に疲れちゃった。

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