第69話 これって便利なの?



「殿下っ……大きな声を出さないで下さい!」


ガゼボの周りに消音をつけた防御障壁を展開して、ヴェスファード殿下の正面の椅子に腰掛けた。


ヴェスファード殿下は一応、周りを警戒しながら頷いてはいるけれど……本当に分かってるのか。


「エスカレイド帝国のジャニーイル殿下が婚約破棄をブチかまして相手の男爵令嬢とこちらに留学して来る。これは知っているか?」


ブチかます……ホントこの人、王子殿下の自覚あるのかしら?


「はい、今朝知りました。留学と聞いてはいますが、帝国から追い出されたとみていいのでしょうか?」


私の問いかけにヴェスファード殿下は、悪役王子のようにニヤリと笑い返した。


「暗部に調べさせた。ジャニーイル殿下は婚約者だった公爵令嬢に捏造した罪を着せて婚約破棄に追い込んだ。糾弾された令嬢は精神的に追い詰められ、未だ床に臥せっているとのことだ」


何……その胸糞悪い断罪は……


「……酷い」


「ああ本当に……ジャニーイル殿下の独断で行われた破棄騒動だったが、皇帝陛下が一早く、ジャニーイル殿下側に非ありと公表して学園を退学させた……そしてこれは非公表だが、殿下の皇位継承権も剥奪された」


うわぁ……エスカレイド帝国の皇帝陛下の本気度が窺える。


「でも、それでもわざわざジャニーイル殿下がジュ・メリアンヌ学園に来る理由が分からないのですが……」


ヴェスファード殿下は唸りながら首を捻っている。


「だよな~何でだろうな?その男爵令嬢と市井で暮らせばいいのに、エスカレイド帝国の皇帝も留学に反対して無い感じだし、ん~暗部のエアルを突いてもっと調べさせるか?」


……エアルが過労で吐血して倒れている未来が見えた……気がした。


「あ、でしたら調べるならウキウキペディアは如何で……ああっ!そうだった!」


「な、なんだ?どうした?」


「先日から私のウキウキペディアの調子?が悪いみたいなんですが、殿下のウキウキペディアは大丈夫ですか?」


そう、あれからウキウキペディアを何度か立ち上げてみたのだが、『現在サーバーエラーにより検索機能は使えません』の表示がずっと出ていて使い物にならなかった。


ヴェスファード殿下は驚いた表情を浮かべつつ、ウキウキペディアを開いて見ている。


「えっそうなの?最近見てなかっ……なんだぁこれ?『只今システムメンテナンス中』だって、はぁ!?」


えっちょっとメンテナンス?私とは文言が違う……ってツッコミどころはそこじゃないけど。


「私の時は検索が使えませんと出ていましたが……これってあの神様に何かあったってことでしょうか?」


私の言葉にヴェスファード殿下が唸りながら、腕を組んだその時だった。


ヴェスファード殿下のウキウキペディアの画面がカッ……と光を放った。


「なんだっ!?」


慌てて殿下の座っている椅子の方へ回り込んでウキウキペディアを覗き込んでみたが、当然私には検索画面は見えない。


ただ何も無い空間が輝いている。どんな画面なの?


「えっ?おい……『新機能追加。神コミチャット……』なんだこれ?」


「え?こみ……なんです?」


ヴェスファード殿下は綺麗なポカン顔で私の方を顧みた。


「ウキウキペディアの検索画面がリニューアルっていうか変わってて……『神コミチャット』っていうアイコンと『お問い合わせ』ってアイコンが追加されてるっぽい……あ、リジューナのは?」


そうだっ!私のウキウキペディア!


私のウキウキペディアを立ち上げて見た。画面表示を確認して見ると……


「あっホントだ!神コミチャットとお問い合わせってアイコンが増えてる!検索バーは前のままだね。あれ?もう一個アイコンが……ぽいっとボックス?あらこれは……」


「なんだって!?ホントだ!ぽいっとボックスのアイコンが……おおっ!!インベントリ一覧が見れる!ほうほうぅ~これは便利だな!」


急に、活性化したヴェスファード殿下の動きと言動に慄きつつ……自分のウキウキペディアを再び見た。


い……いんべ?何かしら?


取り敢えず画面に新しく出来た、ぽいっとボックスのアイコンを指でタップしてみた。


画面が切り替わって、ぽいっとボックス一覧と表示された表のようなものが出て来てた。え~とアイコンがズラッと並んでいて……


「クッキーの絵の下に三個?ん……本がある、あっこれ、聖☆ジュシュリア〜愛♡も正義⚔も独り占め〜だ、一冊……そうか!この数字は、ぽいっとボックスの在庫数?なんだね。そういえばクッキー入れてたわ~インベントリね、なるほど!」


今まではぽいっとボックスに放り込んだら何が入っているか、憶えてなきゃならなかったけど、この画面で一覧で見れるようになったって訳ね。


「あら?でもウキウキペディアのこれって、自称神様の能力よね?いつの間にこんなこと出来るようになったのかな?」


私がブツブツと呟きながら考え込んでいる間に、ヴェスファード殿下はウキウキペディアの新機能を使っていた始めていたようだ。


浮かれた殿下の声が私を呼んだ。


「リジューナ!おいっ神コミチャットを立ち上げて見ろ」


えっ?神コミチャット?ああ……新しく出来た機能ね。『神』のロゴマークと共にどこかのオラ!〇〇〇の有名キャラの胴着のデザインパクったんじゃね?みたいなアイコンを指で押してみた。


画面にペロンと立ち上がってきたのは、昔懐かしい某チャットの入力バーの形式の画面。じっと見詰めていると、チャット画面に文字が出て来た。


『懐かしい~チャット打つの何年振り~ww』


…………あら?これは?


そ~っと目の前に画面から、前に座るヴェスファード殿下を覗き見てみた。


殿下は私に向かってサムズアップをしている。


そしてチャット画面に再び文字が浮かび上がった。


『リジューナも何か入れてみろよw』


「…………」


送信相手が目の前に居るのにチャットする意味ある!?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る