第67話 模擬戦[一日目、夜]


『ギャアアァァ……』


やっぱり獣っぽい鳴き声が聞こえる。


「……っ?何かいるわね」


ベルフェリアが腰に下げたマジックバッグからミスリルハンマーを取り出した。


どうしよう……この森ってジュ・メリアンヌ学園の管理している課外授業用の森林、だよね?獣なんているの?


「あっ生徒の戦闘訓練用に飼ってる魔獣とかかな?」


「こんな夜に放し飼いなんてしてるかしら?」


ベルフェリアさん、ごもっともです。


「あら?獣の声が近付いて来るわねw」


ベ……ベルフェリアさん気のせいかな?語尾にWマークついてませんか、もしかしてだけど、喜んでる?


ベルフェリアはミスリルハンマーを持ち直すと、静かに構えた。


ヤル気だ!彼女は絶対っる気だ!


「ベルフェリア……今更だけど鬼ごっこの期間中は課外授業時間外の戦闘は禁止……」


「だったら、リジューナはかみ殺されたい訳!?」


「……ソレハイヤデス」


草を掻き分けて何かが近付いて来る。ん?数が多い。


「ベルフェリア!複数いるわ!」


「了解っ!」


ベルフェリアが草むらから飛び出してきた獣に向かって、ミスリルハンマーを振り下ろした。轟音と共に何かが横に吹っ飛んだ。


ぎゃあぁ!血がっ血がぁっ!?


ベルフェリアも獣も動きが早くて、血飛沫が飛び散っているうちに勝負は決まっていた。


その後も次々と打撃音がして獣の叫び声と血飛沫も飛び散るので、ベルフェリアのハンマーが獣を蹂躙しているの確かだ。但し、私には見えない。


「まだまだっ!!」


ベルフェリアの声に慌てて声のした方を見たが、ミスリルハンマーに叩きのめされた何かが吹っ飛んできたことしか分からなかった。


「ひえぇ!?」


「逃がすかっ!」


ベルフェリアはテンションが上がってきたのか、物凄い勢いで繁みの奥に突っ込んで行ってしまい、非戦闘員の私だけがすでにお亡くなりになったと思われる獣と共に、洞窟内に取り残されてしまった。


うえぇ……獣臭いよぉぉ。


はっ!?ちょっと待って、ここにいる獣って……もう死んでるよね?


恐々、一番近い所に倒れている獣に近付いてみた。


うぇぇ……血だらけぇ、え~と……こっこれはっ!?


「ビッグホーンだっ!」


正直、ミスリルハンマーでぶっ叩かれていて頭部はグロ注意になってはいるが、恐らくビッグホーンだ!(高級魔獣肉)


だけど、血まみれだよね……後ろを顧みると、バーベキューコンロの上でプスプスと音をたてて真っ黒に焦げた私が焼いていた元魔獣肉が、焦がしやがってこの野郎!と、恨みがましくこちらを見ているような……気がした。


血まみれ肉とはいえ、これは新たに高級魔獣肉をゲット出来るのでは?


見た目がグログロしいけど、このビッグホーンを何とか解体して……フヘヘヘ。


『リジューナ=オーデンビリア応答せよ』


「んぎゃぁ!??」


び……びっくりした。どこから声が?……あれ?腕の腕章がオレンジ色に点滅して……あっ!これ鬼ごっこの監督の先生からの連絡だ!


「はい、リジューナ=オーデンビリアです」


腕章に手を触れながら答えると、私のクラスの担任のノーガス先生の声が聞こえた。


『オーデンビリアさん、ベルフェリア=クシアラさんの腕章から高魔力が発動してると報告がありました。どのような状況でしょうか?』


あわわっどうしよう……時間外に戦闘行為をしていると超減点される。


「あ、えっあのビッグホーンが現れまして……」


『なんだって!?』


『野外演習場にそんな魔獣がいるのかっ!?どうなっている?』


ノーガス先生と監督の先生の慌てふためく声が聞こえた後、暫くして再びノーガス先生の声が聞こえた。


『鬼ごっこに参加中の全生徒に通達。複数個所で生徒と魔獣が接触、戦闘状態だと報告が上がっている。探査魔法を演習場全域に放った。それと同時に魔獣の処理班と監督教師も向かわせた。各自、現場に到着した先生方の指示が出るまでその場で待機。繰り返す……』


なんと、他の場所でも魔獣が出てるのか!?


『オーデンビリアさん、あなたも洞窟内で待機です。クシアラさんにも深追いはせずにオーデンビリアさんと合流して待機するように伝えています。くれぐれも単独で動かずに待機です、いいですね』


先生……何故、何度も待機待機と繰り返すのか、そんなに私ってばフラフラ動くような生徒に見えてるってことでしょうか?


そう言われて洞窟内で暫く経つが……


先生が来るのとベルフェリアを待っているんだけど、どっちも来ない。


「あっそうだ!待ってるついでにビッグホーンの解体方法確認しよう!」


ついつい独り言を呟いてしまう。


そうだ、こんな時こそウキウキペディアの出番じゃないさ!


先生が来ちゃったら、ビッグホーンのお肉は没収されてしまいそうだし先に捌いちゃって、ぽいっとボックスに仕舞っちゃおう、よし!


「ウキウキペディア、検索」


目の前に画面が浮かび上がった。


「……ビッグホーンの……あれ?なにこれ?」


目の前に浮かび上がったウキウキペディアの画面の真ん中に、いつもある検索バーが無い。その代わりにこんな文言が浮き上がっていた。


『現在サーバーエラーにより検索機能は使えません』


「はあぁ!?サーバーエラーって何ぃ??」


自称神様の加護だかなんだかなのに、サーバーエラーって何なの?どういうこと?


つい空中に浮かんでいる画面の表面を叩いてみようとしたが、(叩けば直るオバチャンあるある)当たり前だが叩こうとした手は画面に当たらずに素通りした。


「もう~なんなのぉ」


オバチャンの独り言が洞窟内に響きまくっていた。


怖っ……誰でもいいから早く来て欲しい。









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