第66話 模擬戦[一日目終了④]
「あらいやだぁ~振りかぶり過ぎましたね~オホホ」
とりあえず誤魔化すように笑いながら、今度は隣のルナセイルの肩を叩こうと手を挙げて、ルナセイルをポンと軽く叩いたつもりだった。
「あっ……」
「あっ!」
ただ、ルナセイルの体を叩いた場所が悪かった。偶然にも鬼ごっこの腕章つけている腕の場所だった。
ルナセイルは驚いた表情のまま…………一瞬で鬼ヶ島に転移していった。(多分)
「殿下っ!?」
ルナセイルの護衛のお兄様が大慌てしている。
あれぇぇ…………どうしましょう。ここは一つ……護衛のお兄様達に向かってジャンピング土下座をした。
「申し訳御座いませんっっ!!」
「!」
護衛のお兄様達はジャンピング土下座に驚いたのか、全員がビクついた後に固まってしまった。
「心配せずとも、ルナセイル殿下は鬼ヶ島に転移しただけだ。鬼ヶ島は教員や世話役も常駐しているから当面は大丈夫だ」
だからぁ~何でオタクが答えてるんだよっ!オタク殿下ももう帰れってばっ!
すると黙ってヴェスファード殿下の背後に立っていた侍従のウォーレンさんが、殿下に何か耳打ちをしている。
そして私の地獄耳(またの名を盗聴魔法)は、しっかりとその内容を聞き取っていた。
「殿下、そろそろエスカレイドの使者が到着する時刻かと」
ん?エスカレイドの使者?
私が訝し気にヴェスファード殿下の顏を見ていると、ヴェスファード殿下は下手くそなウインクを投げて来て、手で何か合図を送ってきている。
オタクからの謎信号が解読出来ねぇ……
ポカンとしている私に焦れたのか、オタクが昔流行ったアイドル歌手の振り付けみたいな動きをしてきた。顔の横で十字切りっぽい動きだ、これは……
嵐を起こすのか?
私が口パクでそう伝えると、元気にサムズアップを返してくれた。
どうやら謎の振り付けの意味は、嵐を呼ぶ系で合っていたみたいだ。
「じゃあ私はそろそろ帰るかな~」
独り言なのか私へのアピールなのか、大声で叫びながら立ち上がってヴェスファード殿下は眼鏡男子を引き連れて帰って行ってしまった。
何しに来たんだ?あのオタク……嵐を呼ぶ?何をするのか、雨乞いか?
その後、ルナセイルの護衛のお兄様達に頼まれて、お兄様達を鬼ヶ島送りにしてあげた。
ルナセイルの護衛だもんね、こんな所でも護衛対象から離れることは出来ないよね。
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さて……
17時になり、どこからかボエエェェ……と法螺貝?みたいな鳴り物の音が聞こえてきた。
どうやら鬼ごっこ一日目は終了となったみたいだ。当たり前だけど鬼ごっこも課外授業の一環だから朝9時スタートで17時の時点で終了だ。それ以外の時間に戦闘行為や鬼ごっこを継続していたことが露見すれば大幅な減点対象になる。
という訳で、この時間からは自由時間なんだけど……はっきり言っちゃうと野営だ。
野営、キャンプ……残念ながらお洒落なグランピング施設などは無い。
だがしかーし!!私は無限収納機能を備えている!!
「アハハハッ!!これを見よっ!」
さり気なく、あくまでさり気なく腰に装着している普通のショルダーバッグの中で『ぽいっとボックス』を展開して、さもショルダーバッグの中から取り出したかのようにしつつ、取り出したソレを高く掲げ持った。
「バーベキューセッーートゥ!!」
そう実は鬼ごっこで一番楽しみにしていたのが、キャンプ飯だ。
この日の為に、魔獣肉をリジューナ特製のタレに漬け込み野菜類も既にカットしてボックスに入れておいた。
そして極めつけは……
「バーベキューコンロだぁぁ!!」
フフフ……キャンプといえばバーベキュー。カレーもいいかな?と思ったけど、そもそもなんだけど、この世界ってお米が無いんだよね。
和食とか刺身とかトンカツとか存在しているのに、米だけ無いんだぜ、おかしくね?刺身定食にカッチカチのフランスパンが付いて来るんだぜ、おかしくね?
それにさ、私はカレーはライスで食べたいんだよね~
やっぱりどう考えても米だけ無いっておかしくね?
ウキウキペディアで検索しても米はこちらの世界に存在しません、と出るんだよね。
ぐぬぬっ作者めっ……と思ったけれど、どうやら米、米と騒ぐどこぞのオタクのお陰で東方の島から、米に似ているマーイという安直な名前の穀物を輸入することに成功したらしく、今は試験的に王宮の庭に田んぼを作って、そのマーイとやらを育てているらしい。
オタクってのめり込むと、とことん研鑽してくれるからある意味助かるわ。
私は、バーベキューコンロの炭の上に枯れ葉と古紙を入れて、魔法で火をつけた。
おおっ……初めてバーベキューコンロを使ったけど、上手く火が付いた!
え?あんた異世界とこちらの世界を合わせると、いい年のオバサンなのに、バーベキューコンロ初めてだって?
だってさ、そんな眩しい人種が好んでやりそうな皆でワイワイ楽しく~なんて行事……オバチャン参加したことないんだよ。
はぁ?ソロキャン?なんだそれ?状態な訳で……そういえば昔、部下のヒョロッこい男の子がソロキャンするんだ~とか言ってた時は思わず真顔で
「防犯ブザー持って行ったほうが良くない?あなた一人じゃ、あまりにも危険でしょ?」
と、言ってしまい年若い男の子のプライドをズタズタにしてしまったことがあった。
申し訳ない事言っちゃったな……
「ちょっと、リジューナ。何だか焦げてない?」
「え?」
ベルフェリアに肩を叩かれて慌ててバーベキューコンロを見ると、焼いているお肉が……いやぁ!?焦げてるぅぅぅ!?
「いやぁ!?ウソウソッ??やだっやだっ!?ビッグホーンの魔獣肉高いのにぃぃ!」
「気になるのがそれなの?」
『ギャアアアッ!!』
ベルフェリアの小さなツッコミが聞こえた気がしたが、それどころじゃない。
…………今、私の叫び声に獣の咆哮みたいな声が被りませんでした?
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