第65話 模擬戦[一日目③]
「ペリア=ノエルグ令嬢に関する下調べはこちらに任せてくれ」
おいっ後から来ておいてお前が仕切るな!
そんな思いを込めてヴェスファード殿下を睨み付けてやった。
洞窟の中のメンバーはまだ突然現れたヴェスファード殿下の存在に落ち着きを隠せないでいる。
「もう迷惑なのでチャッチャと帰って下さい」
私が手でヴェスファード殿下を追い払う仕草をすると、ルナセイルが小さく悲鳴を上げた。
「リ……ジューナ、その……」
「ルセは黙ってて」
「……はい」
ヴェスファード殿下と無言の睨み合いをした。
そうしてどれくらい睨み合っていたのか……突然、甲高い嫌ぁ~な声が近くから聞こえてきて皆に緊張が走った。
「いやぁ~ん♡怖いぃぃ~」
「…………」
声の主をわざわざ確認するまでもないと思う。
二代に渡ってピンク色の髪で周りをイライラさせる、アレだ、アレ。
「見に行きましょうか?」
ベルフェリアが若干前のめりになって、ヴェスファード殿下に聞いている。
聞かれたヴェスファード殿下は、うげぇみたいな顔をしていた。
王子がその顔はやめいぃぃ!
「行くのか?そうか、ろくなことにはならんと思うが……」
「行って参ります」
狩猟民族の血が騒いでいるベルフェリアが、若干嬉しそうにしながら立ちあがって行ってしまった。
「ちょっと待って、え?子女が一人では危ないだろ?おい、行くぞっ」
なんとここでルナセイルが、余計なお世話なロイヤル風を吹かせてしまって、護衛を引き連れてベルフェリアを追いかけて行ってしまった。
いやぁ~ベルフェリアは狩猟民族なので、一人でも全然大丈夫なんですけど……
という訳で、洞窟には私と殿下と眼鏡男子のウォーレンさんと、隠れ忍んでいるエアルが取り残された。
「私達も見に行った方がいいですか?」
あくまで見に行くだけですよ~ということを強調しながら、ヴェスファード殿下に聞いてみた。
するとヴェスファード殿下は目をひん剥いて怒鳴ってきた。
「なんで俺がピンクのアレを助けに行ってやらないかんのだ!ピンクッ滅っ!」
うわぁ……またピンク憎しっ!を言い出してるよ。ピンク髪の人間に親でも殺されたのか?と、問いたくなるほどにピンクを毛嫌いしている。
そんな時に洞窟の外が騒がしくなってきた。
「いやぁ~ん♡やめてぇぇぇぇ…………んぐ」
エリナ=プロブレらしき声の断末魔?が聞こえた。
暫くして、ベリフェリアとルナセイルが洞窟内に戻って来た。
気のせいか、ベルフェリアが若干怖い顔をしている。
「どうだった?」
恐々ベルフェリアに聞いてみると、ベルフェリアは大きな溜め息をついた。
「それが……よく分からないのよ。私とルナセイル殿下が声を頼りに近付いて見たら、そこにはエリナ=プロブレしかいなくて別に周りに危険性は無かったのに、彼女が怖いだの、一人は嫌だの言ってルナセイル殿下に縋り付こうとしたの」
うわぁ、そうなの……
ベルフェリアがルナセイルをチラリと見ると、ルナセイルが頷きながら話を引き継いだ。
「私に近付く前に護衛が間に入った。その後クシアラ嬢がプロブレ嬢の腕章を叩いて、鬼ヶ島に送り出した」
ああ、有無を言わさずにベルフェリアが強制島送りにしちゃったわけだ。
「別に鬼ごっこのルールに従っただけで間違ってないしね?でしょ?」
ベルフェリアの仰る通りで……エリナ=プロブレは鬼に捕まっただけだしね。
「それはそうと、エリナ様が気になることを言っていたのだけど……」
ベルフェリアの言葉にルナセイルが、あ~あれか……と言って眉間に皺を寄せている。
何を言ったのかな?
「ええ、それが……帝国の皇子ってどっちも護衛を沢山連れてるのぉ~これじゃあ近付けないじゃないか、と」
「ん?帝国の皇子……どっちとはもしかして……」
「うむ……と言う事はペリア=ノエルグ令嬢はもう一つの帝国、エスカレイド帝国の皇子にも接触したということか?」
ヴェスファード殿下の呟きに皆は首を捻ったり頷いたり、反応はさまざまだった。
「そう簡単にエスカレイド帝国の皇族に会えるのか?彼女は……男爵家の令嬢だったか?」
ルナセイルの呟きにヴェスファード殿下が
「いや……元はエスカレイド帝国の庶民の出自で、我が国のプロブレ男爵が、エリナを婚外子として男爵家に迎え入れたはずだ」
と、説明してくれた。
そうだよね、確か殿下から読ませてもらった報告書で……あれ?そう言えばその報告書で現男爵のフビオ=プロブレは、伯爵家のジョセフーナ=クレイブと婚姻、子供は二男一女がいると書いてあったような……?
それって、お妾さんが本妻と旦那の住む家に押し掛けていて、尚且つ娘のエリナを男爵の子供として認知しているっていうことよね?
奥さんどう思ってるんだろう、男爵家は揉めてるんじゃないだろうか……いや、絶対揉めてるよね?
すっかり忘れてたけど、プロブレ男爵の本妻と子供達は今どうなってるの?
これは調べておいた方がいいのでは……
チラリとヴェスファード殿下を見ると、何か気が付いたのかこちらに頷き返してくれた。
良かったっ分かってくれていたのね!
ヴェスファード殿下は力強く何度も頷きながら高らかに宣言してくれた。
「私も鬼ごっこに参加するぞっ!!」
「そうじゃねぇぇぇ!!!」
皆がヴェスファード殿下の発言に仰天した後に、私の全力のツッコミに更に仰天している。
これはいけない。
「あら?少しばかり口が過ぎたようですわね、オホホホ」
皆のジト目に晒されながらも、ヴェスファード殿下の肩辺りを小突こうとして手を振り上げたのはいいが、勢い余ってヴェスファード殿下の頭をぶっ叩いてしまった。
スパアアアアーーンッ!
殿下の頭から軽快な打撃音がした。
眼鏡男子のウォーレンさんが凄い目で睨んでいる……私、首をちょん切られちゃうのかな。
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