第64話 模擬戦[一日目②]



森の空気が美味しいな……ああ、このままお昼寝とか最高だよね。


「ペリア=ノエルグ令嬢はな、私の母上の親戚筋で……おい、リジューナ聞いているのか?」


「はぁい、聞いてますよ~」


ルナセイルは,、煩せーイルだね。少しはのどかな自然を満喫する気持ちはないのかな。


「ギャアアアアッ!」


ん?何か恐ろし気な生き物の咆哮が聞こえた様な……


そうだ、よく考えれば『鬼ごっこ』の最中だった。こんな洞窟の中で追われる側の生徒に見つかってしまったら『鬼切った』からの逃げ場無しになっちゃうんじゃない?


仕方ない……


洞窟の周りに『鬼切った』を避ける為に、魔物理防御障壁と消音魔法を展開した。


護衛のお兄様達が驚いたのか、慌てて障壁を見た後に一斉に私を見た。


あら?障壁を張りましたけど、何か?


ニッコリとお兄様方に微笑みかけると護衛のお兄様方は、ぎこちない笑顔を向けてくれた。


「……もういいか?」


ルナセイルは待つと言うことを知らないらしい……我儘皇子めっ!


そうしてルナセイルが語ったことは……ペリア=ノエルグはルナセイルの母親、ミレーヌ妃殿下の指示を受けていること、おまけにミレーヌ妃殿下の周りにエスカレイド帝国の間者がウロウロしているらしい。


「エスカレイド……」


「ああ……厄介だ」


厄介だと言いながら。ルナセイルは苦々しい表情を浮かべている。


エスカレイド帝国は確かに厄介な相手だ。


数十年前まで、エスカレイド帝国は独立派と保守派に分かれて小競り合いを繰り返していた。そしてそこから国を二分する大規模な内戦へと発展していった。


そうして一応、旧帝国が独立を認めて保守派の貴族達が旧エスカレイド帝国に残り、革新派と独立派の貴族達が周辺の小国と一緒にヘラヴェルガ帝国を建国したという訳だ。


保守派という名前のとおり、旧帝国側は頭の固い貴族至上主義が政治の中心にいる。


まあ、ヘラヴェルガの独立を一応は認めたが主権は依然としてエスカレイド帝国の我らにある!……と、いまだに高々に言っちゃってるのが旧帝国、エスカレイドなのだ。


そんなご時世なのに、ミレーヌ妃殿下の周りに旧エスカレイド帝国の間者だってぇ?


「皇帝陛下……伯父様はご存じなの?」


ルナセイルは頷いた。


「父上……陛下から母上の動きをよく見て自分で何が出来るか……どうすることが正しいことか見極めろと言われている」


おやぁ!?タヌキ伯父、良い事言うじゃない!


「それで、具体的に何を協力したらいいのかしら?」


ルナセイルは元気よく答えてくれた。


「ペリア=ノエルグ嬢をリジューナが苛めて国へ追い返して欲しい」


…………こいつはやっぱり馬鹿か?馬鹿なのか?


私の隣でベルフェリアも絶句している。


得意げな顔をしている従兄弟の顔を目を細めて見詰めた。


「あんた馬鹿なの?ペリア=ノエルグ令嬢を私が苛めたら、ノエルグ公爵家やミレーヌ妃から私が睨まれるじゃないの。下手をすれば国家間の火種になるわよ」


思わず皇族に向かって、あんた馬鹿?と言ってしまった。


護衛のお兄様達がギョッと驚いている魔質も感じるけれど、私としては従姉妹として馬鹿の軌道修正をしてあげねばならない。


「ルセ、いいこと?ペリア=ノエルグ令嬢との婚約を避けたいならやり方があるでしょ。表立って動いては駄目よ」


グイイィ……とルナセイルににじり寄った。仰け反りそうになったルナセイルに更に顔を近付いた。


「こちらから仕掛けるのではなく、あちらから帰国せざるを得ない状況を作ってあげるのです」


「フハハハハハァァ!!!!その謀略乗ったぁ!!」


「……っ!?この声はっ」


突然、洞窟内に高笑いが響いて暗闇の奥から何かがやって来る。


まさか?


高笑いをしながら現れたのは、ヴェスファード殿下だった。


いやいや?ちょっと待て?待ってくれ。どこからツッコんでいいのか。


「さすが、俺の宿敵ライヴァルっ!腹黒い謀略を練らせたら世界一だな!」


「ライヴァルじゃねーーー!腹黒い謀略言うなっ!……ハァ、ハァ……」


久々のツッコミで息が切れる。


ルナセイルも護衛のお兄様達も、突然の馬鹿の襲撃に恐怖?で固まっている。


「ヴェスファード殿下……今、授業中の時間じゃありませんか?」


ここで、ベルフェリアの冷静なツッコミが入った。


流石、ベルフェリア。普段からヴェスファード殿下の奇行を目にしているだけあるよね。


ヴェスファード殿下が歌舞伎の見栄を切るようなポーズをした。


「案ずるなっベルフェリア=クシアラ嬢!今日は午前中に公務が入っていたので休学届を出していたのだっ!昼からは自由に動けるぞっ」


「それはただのサボりじゃないのっ!真面目に午後の授業を受けろっ……失礼」


眼鏡男子の侍従のウォーレンさんがヴェスファード殿下の背後から、私に冷ややかな目線を向けていた。


こんな洞窟の奥まで付いて来なきゃならないなんて、侍従って大変な仕事だね。


「おおっ、すっかり忘れていた。ルナセイル殿下も息災かな?」


ヴェスファード殿下が、多分本当に忘れていたのであろうルナセイルの存在を思い出し、ルナセイルに握手を求めている。


ルナセイルってば、完全に腰が引けちゃってるよ。怖いよね~分かる分かる。真性のお馬鹿って触るのも怖いよね~


「……で、ペリア=ノエルグ令嬢を追い出す作戦に俺も混ぜろ」


「…………」


何故、私達の居る場所がヴェスファード殿下にバレたのか……その情報源であろう、殿下の護衛の暗部のエアルが隠れている方向の岩場に向かって魔力を飛ばした。


ごるぁ!?お前がオタクにチクったんだろうぅ?分かってんだぞっああん?……という思念を籠めて。


隠れているエアルから微量に発せられている魔力が、ガクガク震えている。


私が魔王とかでなくてよかったと思ってよ?もし魔王ならエアルにごるぁと呪いをかけちゃうところだと思うしね。私が普通のおばさんで有難いと思いなさいよ?





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