第55話 〇〇っぽい何か

報告書に書かれている文章に目を通した。


『プロブレ男爵家は三代前に、プロブレ商会が国の経済発展に貢献したことが認められ子爵位を叙爵された。二代目子爵の時に、高位貴族二家の推薦を受けて男爵位と領地を拝領することになった。当代のフビオ=プロブレは、伯爵家のジョセフィーナ=クレイブと婚姻、子供は二男一女。


三代目のフビオ=プロブレは祖父の築いた商売販路を基に堅実な販売実績を積み重ね、領地運営と商会の経営は順調で特に問題はないと思われる』


最初の報告書は取り敢えずそこまで読んでやめておいて、別冊子になっている報告書を見た。


もう一冊は元聖女、ナノカの調査報告書だった。


『元聖女、ナノカは異世界から召喚された後、聖女の務めである魔の浄化活動中に失踪する。その後にファラメント公国に密入国しようとして、国境で拘束される。しかしエスカレイド帝国の商人が保証人になり保釈され、その後商人と共にヘラヴェル帝国へ入国、滞在した記録がある。その数年後、ヘラヴェル帝国にてエリナを出産。娘を連れてヒルジアビデンス王国に戻り、後に娘と共にプロブレ男爵の庇護下に入った。そして最近、プロブレ男爵がエリナを婚外子だと公表した。補足であるが、フビオ=プロブレ男爵はナノカの学園時代の同級生、エスカレイド帝国の商人は学園の臨時教師だったという報告がある』


「はあ……なるほど。保証人になってくれる方がいて良かったですね~ヒロインが牢屋なんて前代未聞……ん?この商人が学園の臨時教師?」


学園の臨時教師?何かひっかかりが……私は『ぽいっとボックス』から前作の『聖☆ジュシュリア~夢♪と希望★を抱き締めて~』を取り出した。


学園の日常が書かれている文章を中心に読み返していて、そこに見付けたのは……


「ジュ・メリアンヌ学園の臨時教師ってどこかで……あっ!」


「臨時教師って殺し屋なのかっ!」


一緒に小説を覗き込んでいたヴェスファード殿下と私の叫び声が重なった。


そうだっ!この臨時教師……実は隣国の殺し屋ってキャラだった。


「はぁ~だから商人になって菜花を助けちゃうとか出来ちゃうわけだ。所謂、スパイってやつですか!」


「そうだな、殺し屋……どこかの国の諜報員かもしれないな。行間を読むというか、小説に描かれていないところで実はこうだったということが色々と分かって来たな」


ヴェスファード殿下の言葉に同意しながら何度も頷いた。


菜花は捜さないで……の置手紙を残してどこに行っちゃったのかと思っていたけど、こうやって昔の伝手を頼りに他国に渡って生き延びていたんだね。


「それにしても、菜花の娘のエリナを婚外子として公表というのは変な話ですよね……プロブレ男爵が実の父親なのでしょうか?出産はヘラヴェル帝国ですよね?男爵が父親は違うような……」


報告書を再び見ると、男爵は伯爵家のジョセフーナ=クレイブと婚姻と書かれてあるし、他国に渡ったナノカを追いかけてる余裕あるんだろうか?


ヴェスファード殿下は大きな溜め息をついた。


「続きは報告書に書いてはあるが、話しておくか。当然、正妻のジョセフーナ夫人と親戚達は婚外子などは認めないと大反対で、現段階ではあくまで婚外子と公表しただけ……という状態だそうだ」


公表しただけ?どういうこと?


言葉の意味が分からず首を捻っていると、ヴェスファード殿下が説明してくれた。


「つまり、婚外子と公表しただけで、エリナは男爵令嬢でも無いと言うことだ。男爵家の資産の相続権も無ければ、公的な場所で貴族令嬢を名乗ることは出来ない」


「え?学園には男爵令嬢だと記録が載っていますが…」


「学園内はギリ、公的な場所では無いと判断されたらしい。学園を一歩出れば令嬢だと声高には出来ない……はずだ」


ヴェスファード殿下は自分で言ってて自信が無くなってきたのか、尻すぼみな声になってしまった。


それもそのはず、男爵令嬢っぽいあの子は高等部の学舎前でラナニアス兄に馴れ馴れしく話しかけているし、マグリアス叔父様やヴェスファード殿下まで指差してなかったっけ?


とても、令嬢っぽいあの子では貴族のマナーを守れるとは思えない。


「菜花もぶっ飛んだ主人公だったけど、娘もすごかったですね」


「ホントに……付喪神め、よりにもよってあんなピンク髪に転生人の魂を入れるなよ」


顏を覆ったヴェスファード殿下がまた、ピンク髪憎しっ!を呟いている。


まだ転生人かはっきりとは分からないけど、エリナは確定でしょうね……


そんな訳で、大きく溜め息をついている私達の所へ、ヴェスファード殿下付きの侍従の眼鏡男子のウォーレンさんが足早に近付いて来るのが見えた。


いつも落ち着いている眼鏡男子の魔力が体内で激しくうねっている。


何かあったのかしら?


「殿下、ご歓談中失礼致します」


ウォーレンさんがヴェスファード殿下に耳打ちをした。


耳打ちを聞いたヴェスファード殿下の瞳が見開かれた。そして私の方を見る。


あ……嫌な予感。


「リカルデ=ティルバン侯爵の屋敷の門前に菜花が現れて、リカルデを出せと騒いでいるそうだ。元聖女ということで、捕まえるのは神の怒りに触れるのではと使用人が言い出して、迂闊に手を出せずに門前に陣取られたまま膠着状態だということだ」


人質を取って立て籠った銀行強盗犯みたいな言い方するなーー!!


いやでもさ、なんでティルバン侯爵家に押し掛けちゃうんだよ!


そりゃオーデンビリア家に来られても困るけど、もしかして般若ママンが怖くて、ティルバン侯爵家の方へ行ったのかぁ!?


「行くか、リジューナ!」


「もちろんですぅ!!」


ヴェスファード殿下と急いでガゼボから走り出た。






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