第54話 一行しか出て来ない元主人公

怯えるオジサマ達(パパン、叔父様、パメラ父)を尻目に、ラナニアス兄とフレデリカママンが元聖女親子をポポンと魔法でどこかへ移動させた。


恐々ラナニアス兄にどこに移動させたか聞いたら「死なない程度の場所」としか教えてくれなかった。


一応、あの親子の身の安全を祈っておいた。


そうしてサラッと高位の転移魔法を使ったラナニアス兄は、あの親子が消えた跡に彼女達の残りカスでも落ちているかのように地面を睨みつけながら


「羽虫のようだった」


と、毒づいていた。


「本当に、場が穢れましたわね」


フレデリカママンはそう言いながら、チラリと私を見た。


「今日は帰りましょう」


どうやら般若が静まり無事に妖精に戻ったようですな。了解です!




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次の日……ヴェスファード殿下に学園のガゼボに緊急で呼び出しを受けた。


多分、昨日の元ヒロイン親子に関することだと思われた。


昨日から胃が痛い……


今日は朝からこんなことがあった。


ルナセイル殿下がわざわざやって来て、お約束のネチネチ嫌味を連発してきたのだ。


おまけにそのルナセイル馬鹿殿下にくっ付いて来た、ペリア=ノエルグ公爵令嬢と、サクライマホが私の前で「ルナセイル殿下を取り合うワタクシ達ってば最高!」みたいな小芝居?を始めて、コレナニ見せられてるんだ?状態になったのだ。


疲れた……わざわざ私の前にきてマウント劇場をやる必要がある?


「……ぃっ」


本格的に胃が痛くなってきた。こんな時は……


『治療』


聖魔法の治療で、すぅーっと胃の痛みが引いて行く。え?聖女の力を胃痛ぐらいで使うんじゃないって?


胃痛の元を取り除けないのだから、少しくらいは許して欲しい。


そうしてヨロヨロしながら男子寮と女子寮の間にある中庭のガゼボに到着すると、まだ来ていないヴェスファード殿下を待つことにした。


待っている間の暇つぶしに『ぽいっとボックス』から色々と書き留めている日記を取り出した。


この日記には現状で分かっていることを、思いつくまま箇条書きにしてある。

 

この世界に来て最初に書いたのは、小説との相違点やメインキャラクターの言動を注視する……と書かれている。


我ながら報告書みたいな文章だわ……


暫く読み進めていると、ジルファード殿下に婚約話が持ち上がったこと、その顔合わせで自称神様らしきアレが侯爵夫人に乗っかっているのを見たと書かれていた。


そう言えば、初めて神様らしきアレとは物語の中で初接触したのよね~


その次にヴェスファード殿下が土の中から自称神様のメッセージを掘り当てたことが書かれてあった。


あれも、胡散臭いけどよく考えれば直接ではないけど接触してきたのよね。


だけどその後は……接触は無い。


まだ本当の意味での物語は始まっていないが、サクライマホを予定より早く物語の中に放り込んで自称神様はこっちに丸投げしている……と思っているのだけど、この考えは合っているのかな?


その時、誰かが芝を踏みしめて近付いて来る音が聞こえて来て、ハッとして音がした方向を見た。


銀髪にスラリとした体躯、最近見る度に身長が伸びている気がする。正に神が創りし最高傑作の美貌……但し外側だけ。中身はキング・オブ・オタクだ……残念っ!!


ヴェスファード殿下は足早にガゼボに近付いて来ると、私の聖魔法で張り巡らせた障壁を『のれん』を潜るような仕草でヒョイと押し退けて中へ入って来た。


聖魔法の障壁なのに簡単に入って来ちゃって……


「なんですか、女将~熱燗で~みたいな障壁の入り方は」


ヴェスファード殿下は私の呟きにニヤリと笑い返しながら、どっこいしょと言いながら椅子に腰掛けた。


銀髪の王子が、どっこいしょ言うな!!


「リジューナが小料理屋の女将か?おっ女将コスプレも良いな!今度してみるか!」


「……」


余計なことを言ってしまった。この妄想オタクめ。


「まあ女将プレイはまたいずれということで、これを見て欲しい」


いずれするんかい!!……と、心の中でツッコんでおいて、殿下の差し出したA4サイズの茶封筒を受け取り、中を見た。


封筒の中には書類が入っていた。最初の用紙にはこう書いてあった。


「プロブレ男爵及び親族の調査報告書?」


「そうだ、そもそも前作のヒロインは今作には全く出て来ていない。これを改めて読んでみたが、作中にマグリアスの台詞で十数年前に聖女がいた、という一文しか載っていない。それ以外は菜花の名前すら出ずに、元聖女がいたという痕跡すら作中には出て来ない。しかし今、元聖女が突然にこの国に舞い戻って来ている。娘に至っては物語のメインになるジュ・メリアンヌ学園に在籍している。このまま行けば今作のヒロインとメインキャラクターに絡んで来て……物語の破綻が起こると思わないか?」


「!」


これ、と言って殿下の左側の頭の横付近に空中に出来た『ぽいっとボックス』から『聖オトメ☆ジュシュメリ~愛♡も正義⚔も独り占め~』の小説を出して来た。


殿下の仰っていることはよく分かる。


私も何度も小説を読み込んでいる。確かに今作の愛♡も~に、菜花やエリナ=プロブレ親子は全く出て来ない。所謂、私と同じモブだ。


しかし、今はかなり目立つ要注意モブ親子と化している。


「神様もあんなに物語の破綻に気を揉んでいたのに、菜花親子が急に出張っちゃったら困りますよね~」


ヴェスファード殿下も小説を開いて見ながら、険しい顔だ。


「別に付喪神の為に、小説のストーリーの軌道修正をしてやるつもりはないんだ。そのプロブレ男爵や菜花の今までに至る動きが怪しいと思うんだ、読んでくれ」


殿下に促されて調査報告書に目を落とした。


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