第53話 引っ掻き回す親子


「あんた何よっ!!」


ピンクオババの菜花に鼻血と唾をかけられそうな至近距離に詰め寄られたけれど、怯んだりしないもんね。


何で、こんなアラフォー勘違い女に怯んだりしなきゃならんのよ?私、アラ還よ?(精神年齢)


「リジューナ=オーデンビリアで御座います」


鼻息の荒い菜花に向かって完璧なカーテシーでご挨拶をして差し上げた。


非常識には礼節を持って応える。こちらも一緒になって騒ぎ立ててはいけない。


菜花は茫然と私を見詰めたまま


「リ、リジューナ……オーデンビリア?」


と、呟いてから私の後ろにいるマクシミリアンパパンを覗き見て再び私の事を見た。


多分、マクシミリアンパパンに私が似ているのだろう。


因みに私とナミア姉様はパパン似、ラナニアスお兄様はママン似だ。


菜花マダムはニヤァと嫌な笑いを見せながら、少しこちらに近付こうとした。


そんな菜花マダムと私の間に突如として壁がそそり立った。


私から近い順に第一の壁:パメラとヴェスファード殿下。第二の壁:リカルデ=ティルバン侯爵とサーフェン卿、そしてマグリアス叔父様。


だけどマグリアス叔父様ってば、よりにもよってなんで菜花に一番近い位置で壁になっちゃうかなぁ~


ほらぁほらぁ!?菜花がマグリアス叔父様を見て、嬉しそうに更に近付いて来ちゃったよ!


仕方ない……


「え~い!」


菜花とマグリアス叔父様の前に魔物理障壁を展開した。


菜花は障壁に当たった後に、ぼよよ~んと後ろに跳ね返されてたたらを踏んだ。そして……転ばないで何とか踏ん張ったっ!


フンヌゥ!と踏ん張っている姿は、四股を踏んでいる力士みたいだけどな!


流石元聖女?なので『聖魔法系』の障壁に当たっても強烈な跳ね返しは無かったみたいだ。


聖魔法に拒絶されないということは、アレでも元聖女だということか、うん。


そんな元聖女の菜花に近付かれないように障壁で防御しながら、ジリジリと皆で馬車の方へ移動した。


「むぎゅっ……何よコレ!!!どうして近付けないのぉ!!」


諦めない菜花マダムは、障壁に貼り付いてしがみ付いてくる。


正直に言っていいかい?


障壁のこちら側から見える菜花マダムは、潰れたあんまんみたいな顔になってまっせ?


100年の恋も冷めるってもんだ。いや、ここにいる誰も恋なんてしてないけどさ。


「なんですの?必死になって醜悪なお顔ですこと」


フレデリカママンー!!暴言と本音は心に仕舞って!仕舞って!


「アレを捕縛は出来ないのか?」


ヴェスファード殿下も本音は異世界にでも隠してっ隠してっ!!


「殿下、それは難しいですよ。何か犯罪を犯して行方をくらませていたという訳ではないただの元聖女ってだけですし」


リカルデ=ティルバン侯爵が小刻みに菜花を下げつつ、ヴェスファード殿下を制すると、私の背後から般若が殺気を放ってきた。


これはヤバイ!急いでママンを顧みた。


そこには般若顔をしたフレデリカママンが扇子をへし折っていた。


何だかママンからゴゴゴ……という魔力の地鳴りが聞こえて来る気がする。


「犯罪ぃぃ⤴?マックスの寝所に忍び込んで襲われたと虚偽を言い、マックスと愛し合っていると妄言を吐いていたのが犯罪じゃなくて何だって仰いますの?」


「いや、あの……え~と……は、んざいかもしれないけど、捕まってないし……スミマセン」


火に油を注いだ感じの返答をリカルデ=ティルバン侯爵が言ってしまったので、益々般若化してしまったフレデリカママン。


そんな般若とあんまんに挟まれながら、何とか障壁を展開しながら移動して、取り敢えずは王家の馬車まで辿り着いた。


「殿下と叔父様とサーフェン卿は馬車に乗って下さい!」


「リジューナも一緒に来い!」


馬車に乗り込んだヴェスファード殿下が私に向かって手を差し出した。


「私はこの、あんま……オバサマが近付いて来れないように障壁を維持しておりますので!」


そう言っているこの時まで、私は冷静さを欠いていたということに全く気が付いてなかった。


何もオバサン一人の襲撃なんて護衛もいるのに、怯える必要なんて無いってね。突然の般若とあんまんの挟み撃ちに、完全にテンパっていただけだった。


私は焦りつつ、どう行動しようか考えを巡らせていた。


どうしよう?ヴェスファード殿下の安全を最優先に……でもフレデリカママンの安全も確保して……と考えていると、障壁に貼り付いていた菜花がフワリと中に浮いた。


「お兄様!?」


私の叫び声に皆が障壁の向こう側を見た。なんとそこには仏頂面をしたラナニアスお兄様が立っていた。


因みに、そのお兄様の横にはフワリフワリと空中に漂う菜花マダムがいる。ラナニアス兄が魔法で空中で捕縛しているようだ。


「ちょっおぉ!!なんなのよぉ!?」


菜花マダムは突然に体が浮いたので、藻掻いてじたばたしている為にドレスの裾が翻って、淑女あるまじき下着がチラ見えしている破廉恥状態になっている。


「……おえぇぇ」


それを見て某王子がわざとらしく吐くような仕草をしている。


「何をやってるんですか父上、この婦人が……」


ラナニアスお兄様は菜花マダムの方を見ないようにして、パパンに問い掛けた。


しかし兄が言い終わらないうちに、正門の付近から甲高い叫び声が上がった。


「やだぁぁ!!お母様何やってんのぉ!?あ~ラナニアスだ!!きゃ~ん私に会いに来てくれたのね!」


……こんな時に、菜花の娘のエリナ=プロブレがやって来た。


ラナニアス兄が打ち捨てられた生ごみを見るような目で、駆け込んで来たエリナを見ている。


ああ、ピンク髪の煩い親子が揃ってしまって、マクシミリアンパパンとマグリアス叔父様の魔質がどよ~んと沈んでしまった。


「ちっ!!」


ああっおまけに、フレデリカママンが元皇女なのに激しく舌打ちをしているじゃないか。


…………胃が痛い。


私と同じような顔をしているヴェスファード殿下も胃に手を当てている。


異世界の中間管理職神の代行者は辛いね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る