第50話 勘違い聖女再び

「ナノカ……」


菜花ってあの前作のヒロインもどきの勘違い聖女の?えっエリナ=プロブレはその菜花に似ているの?


マグリアス叔父様の呟きに私とヴェスファード殿下は、エリナ=プロブレを見た。


そんな菜花似らしいエリナ=プロブレは、貴族令嬢らしからぬニヤニヤした笑みを浮かべている。


「あ、そうなんだよね。私、菜花お母様に似てるってよく言われるの!お母様もこっちに戻って来てるんだよ~ねえ?マグリアス嬉しいでしょ~ね?」


「えっ?菜花……おっお母様ぁ!?」


「ええっ!?」


先程から驚きっぱなしで、考えが追い付かないよ……え~と、このエリナ=プロブレは前作ヒロインの菜花の娘ってことなの?


はっ……!?そう言われてみれば小説のイラストの菜花に似てるっ!!


「そうだ……い、急いで兄上に知らせなきゃ……」


マグリアス叔父様は護衛中なのに、ブツブツと呟きながら狼狽して心の声?が駄々洩れになっている。


叔父様っしっかりして!


「そうだね、パパに緊急で知らせなきゃね!」


私は自分自身に言い聞かせながら、ヴェスファード殿下の方を見た。


殿下も驚いて放心状態だったが、我に返ると私に頷き返してくれた。


そんな中、爆弾発言をしかけてきたエリナ=プロブレが笑い声をあげた。


「そうだよっ~マクシミリアンにも伝えてよ!あなた達の愛しの菜花が帰って来たんだって~凄く喜んでくれるよ!」


おいおいおいっ!?お前っっ!!!(敢えてお前と呼んじゃうよ?)菜花の名前聞かされた時のマグリアス叔父の顔色と表情が見えてんのかっ!?真っ青で顔面引き攣っててどう見ても嫌がってるでしょうが!


「ど……どうしよ……どうし……」


ひぃぃ!?マグリアス叔父が恐怖のあまり思考能力が停止してしまって、どうしようばかりブツブツ呟いている。


そんなマグリアス叔父様の背中をヴェスファード殿下が力いっぱい叩いた。


……ボキッとベキッとか嫌な音がした気がした。マグリアス叔父様の背骨、折れてない?


「マグリアスしっかりしろ!ウォーレン!ファラメント公国のローウエ王弟殿下に火急だと連絡を入れろ!オーデンビリア公爵にもすぐに伝えろ!」


「畏まりました」


眼鏡男子の殿下の侍従のウォーレンさんが返事もそこそこで、足早に去って行った。


エリナ=プロブレはサーフェン卿が何とか抑え込んで、エリナは渋々学舎の中に入って行ったみたいだ。


しかし、どえらい事態になってきた。


「取り敢えず、授業に出るか……連絡はしたからオーデンビリア公から返事が来るだろう」


……と、言ってヴェスファード殿下は言っていたのだけど、その反響はとてつもなく大きなものになって返ってきた。


放課後……初等部の門前に馬車が三台縦列駐車していた。先頭に駐車する公爵家の車内には般若顔のフレデリカママンが鎮座している模様。(窓から般若がチラ見えしている)もう一つの馬車はティルバン侯爵家の紋章……あれ?友達のパメラの家の馬車だね?そしてもう一つは……王家の紋章です、はい。中にはヴェスファード殿下とか?がいる模様。


「うちの馬車だわ、どうしたのかしら?」


門前に私と出て来たパメラが馬車に近付こうとした時に扉が開き、スラリとした長身のオジサマが出て来た。


「あら、お父様!」


おおっ!パメラのパパンのリカルデ=ティルバン侯爵……ん?あっ!そうだった、リカルデ=ティルバンと言えば…………


その時ババンッと、オーデンビリア公爵家の馬車の扉が開き般若……もとい、フレデリカママンが憤怒の顔で降りて来た。


その般若ママンを見た、リカルデ=ティルバン侯爵が軽い足取りでママンの前に躍り出た。


「フレデリカ公爵夫人、あの勘違い馬鹿女のことで貴女が心を痛めることはありませんよ」


フレデリカママンは表情を緩めると、リカルデ=ティルバン侯爵を見上げた。


そう、リカルデ=ティルバン侯爵は、前作の『聖☆ジュシュリア~夢♪と希望★を抱き締めて~』の男性のメインキャラの一人だ。


しかし侯爵が菜花のことを馬鹿女……と呼んでいる所を見ると、やはり侯爵も作者の陰謀?で前作時は無理矢理に菜花親衛隊に入れられていたと思われた。


その時、一台の馬車が学園前に走り込んで来た。


王家の馬車も停車中に強引に横付けしてきたのは、はっきり言って不敬なんだけどな。馬車の車体の王家の紋章が見えないのかしら?


そうして学園前の道を塞ぐようにした馬車の中から、女性が出て来た。


あら?どこかの貴族のご令嬢かな?……ん?でもよくよく見ると…………ご令嬢と言うには、いささかお年を召されているような?でも着ているドレスが淡いピンク色のリボンがゴテゴテついているやけに少女っぽいデザインで、それがまた珍妙な印象を与えていると言うか……


その妙齢のご夫人は、何故だかリカルデ=ティルバン侯爵に向かって突進して来た。


そう……フワフワドレス姿で突進して来たのだ。


「リカルデェェェ!!あなたの~愛しのぉぉ菜花が帰って来たわよぉ~」


「ぅえぇ!?」


「えぇっ!?」


私の変な叫び声とフレデリカママンの叫び声が重なった。


まさか……まさかぁぁ!?アレ、あの菜花なの?えっ?えっ?


「うわわぁ!!」


リカルデ=ティルバン侯爵も叫び声をあげた。そして叫んだと同時に魔力を撒き散らした後、突然消えた。


恐らく、今消えたのは転移魔法だ。物凄く高難度の魔法の一種だ。


侯爵は……高位魔法で逃げやがった。


菜花はリカルデ=ティルバン侯爵に抱き付こうとしたらしく、侯爵が急に消えた為に伸ばした手は空を切って、漫画みたいに真正面からスッ転んでいた。


ズバンッ……


勢いよくマダム菜花が転んだ効果音が、学園前通りに響いている。


恐ろしくて誰も動けない中、バッサァ……と扇子が広げられる音がしてスッ転んでいる菜花の前に、フレデリカママンが扇子で口元を隠しつつ、優雅に颯爽と立ち塞がった。


で、出たぁぁぁ!!初代、悪役令嬢っ!!

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