第49話 癖が強いって言うな
「前作を読んだって、どこで?」
ヴェスファード殿下はあっさりと答えてくれた。
「前世……あちらの世界じゃないかな。すっかり忘れていたけど、あの小説って人気はあったんだろ?」
人気小説……そうだった!
「ウキウキペディ検索、聖☆ジュシュリア~夢♪と希望★を抱き締めて~」
目の前に画面が立ち上がり、検索した情報が映し出された。
本当だ……前作の聖☆ジュシュリアは小説以外にもコミカライズされてアニメ化も検討されているみたいだ。
本当に迂闊だった。自分達だけ小説の内容を知っているつもりだったけど、よくよく考えればこの世界は人気小説の中の世界だ。
あの召喚イベントに巻き込まれた人の中に、この小説を読んだことがある人が居てもおかしくはない。
そう考えればエリナ=プロブレ男爵令嬢が元異世界人だとして、マクシミリアンパパンの名前を出したり、パパンの息子に会いに行ったことの説明もつく。
自分の読んだ事のある小説の中の登場人物に会いたいと思う……私だったら直接見てみたいと思うしね。
それにしては愛を教えてあげる~は、えらく上から目線じゃないかなと思うなぁ。
エリナ=プロブレがマクシミリアンパパンが、小説の中に描かれた菜花目線の人物像のままだと思い込んでいるとすると、その息子であるラナニアス兄は政略婚同志の夫婦の子供だから愛に飢えてるんだろう的な勝手な想像をしたのだろうか?
あの兄は愛に飢えるどころか、愛情過多で変な方向に性格が歪んでしまったんですがね。
エリナ=プロブレはこれからもしつこくラナ兄に近付いて来るつもりなのかな……あぁラナ兄の機嫌が急降下しそう未来しか見えないよ。
でも流石に毒舌腹黒だけど、婦女子には手加減するはず。
令息らしく配慮して、手加減してくれる……よね?ラナ兄?
「こうなって来ると、エリナ=プロブレは我々と同じく異世界人だという線が濃厚だが、発言内容から判断するとどうも癖の強そうな女性みたいだな」
一番癖の強いオタクが何言ってんだ!……という目でヴェスファード殿下をじっとりと見詰めてあげた。
「な、何だよ?」
「……いえ、何も?」
「しかしなぁ~立て続けに遭遇する異世界人がどうにも付き合い辛い人物ばかりだと萎えるな」
……お前が一番付き合い辛いオタクだろっ!……という目でヴェスファード殿下をじっとりと見詰めてあげた。
「さっきから、何だよ?」
「……気のせいでしょう?」
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兎にも角にも、ペリア=ノエルグ令嬢とエリナ=プロブレ男爵令嬢の二人には最大限に注意を払っておきましょう、ということになったのだけどジュ・メリアンヌ学園初等部の入学式の当日に問題が起こった。
いや、正確に言うと私とヴェスファード殿下には火の粉はかからなかった。
問題の起こってしまった中心人物は……マグリアス叔父様だった。
入学式の行われる日、それと同時に途中編集の生徒も今日から登校している。
初等部の正門前、そこで事件は起きた。
私とヴェスファード殿下は毎朝一緒に登校しているのだけど、今日から殿下は高等部へ、私は初等部ということで学舎が違うので初等部の正門前まで一緒に移動していた。
「殿下も高等部ですか~おおきくなりましたね」
ヴェスファード殿下と私の歩く後ろから、吞気な声がかかる。
今日の殿下の護衛はマグリアス叔父様とサーフェン卿だ。
私は近衛騎士団副団長の叔父様を顧みた。
「そんな親戚のおじいちゃんみたいな事言って~叔父様まだ若いじゃない」
「もうおじさんだよ~あぁっあんなに小さくて、おじたま~って言ってたリジューナが生意気になっちゃった!」
とか言いながら大袈裟に泣き真似している
その時とんでもない叫びが前方から聞こえてきた。
「ああっ!マグリアスがいるっ!?」
「……」
改めて確認しなくてもピンク色の髪の女子が大胆にもこちらを指差しています。
何だかこの手のリアクションを某聖女の時にも見たことがあるような気がします。
「ああ……アレがエリナ=プロブレ令嬢ね」
私の背後でマグリアス叔父様が挙動不審になっているのが手に取るように分かる。(叔父の魔質が乱高下中)
「生マグリアスゥゥ!ヤバイ!」
叫び声を上げつつ、ピンク色の髪を揺らして走り込んできたエリナ=プロブレはマグリアス叔父様の前に辿り着く前に、ヴェスファード殿下の前に回り込んだ護衛のサーフェン卿に制されていた。
「お待ちをっ!どこの家門のご令嬢でしょうか?」
サーフェン卿の無表情の〇-ミネー〇ー顔に睨まれて、エリナ=プロブレは自分が名乗ってもいないことに気が付いたみたいだった。
ぎこちなくカーテシーをしてから「エリナ=プロブレでございます」と、渋々と言う感じで挨拶をした。
はいっその態度っ減点っっ!!
まだペリア=ノエルグ令嬢の方がしっかりとカーテシーが出来てたよ。
エリナ=プロブレはカーテシーをしながら、チラチラとマグリアス叔父の方を見ている。
小説の登場人物に会えて嬉しいんだろね……
ヴェスファード殿下が溜め息をつきながら、サーフェン卿を手で制してから前へ出た。
「エリナ=プロブレ男爵令嬢、学園内では貴賤問わず親睦を深めるように努めるとは言われているが、それでも最低限の礼節はあるべ……」
エリナ=プロブレはカーテシーを止めると、今度はヴェスファード殿下を指差した。
「うわぁめっちゃイケメン!!」
「はぁぁぁ…………」
私は心底心の奥から大きな溜め息をついた。
自称神様が、私とヴェスファード殿下に色々とお願いをしてきた理由が段々と分かって来た。
問題児はサクライマホだけではない。
実はペリア=ノエルグ令嬢はまだマシな方だった。
この、エリナ=プロブレ男爵令嬢が更に上を行く問題児のような気がしているのだけど、自称神様の心痛が少しばかり分かったような気がした。
その時、ヴェスファード殿下を庇うように立っているマグリアス叔父様が小さな声で呟いているのが聞こえた。
「ナノカ……?」
ん?
んんん?
ナノカって、あの前聖女のこと?
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