第48話 その情報はどこから?


「愛を知らないあなたに愛を教えてあげる……何だかお芝居の台詞みたいですね」


公衆の面前でエリナ=プロブレ令嬢に叫ばれちゃったラナニアス兄は恥ずかしかっただろうね、お気の毒だ。


「俺だったらあのラナニアス先輩に向かって、愛だの恋だの叫ぶ勇気は無いよ」


そうだった、ヴェスファード殿下が『あのラナニアス先輩』と評したのには訳がある。


幼少の時は、妖精の様な身も心もきゃわいいお子様だったラナ兄は、今では腹黒で毒舌の美形なのに女子には敬遠されている公爵子息で有名になっていた。


おまけにラナ兄は影で『フェネスタリ』と呼ばれてる。フェネスタリとはこの世界の神様で闇の象徴の美しい男神だ。誰が上手い事言えとっ…………その渾名を考えた人に心の中で百万回イイネ!を押したわ。


ラナ兄は腹黒過ぎて父親の公爵の十分の一、いや百分の一でも優しさ成分を受け継いでいたら……と言われるほどなんだけど、それにしてもピンク髪の叫びを聞いたラナニアス兄の反応が気になる。


「あの、その臭い台詞をラナ兄にぶつけてしまった後はどうなったのですか?」


「そんなの決まっているだろ?先輩はエリナ=プロブレを羽虫を見るような目で見た後で、次にアレを見付けたら踏みつぶしておけ、って周りの生徒に言ってから学舎に戻って行ったよ」


「……でしょうね」


そりゃそうだ、ラナニアス兄ならそう言うわ。エリナ=プロブレ令嬢も叫んだ相手が悪すぎる。


ヴェスファード殿下はここまで話した後、頭をガシガシと掻いた。


「それでな~警備に追い払われた後に、ペリア=ノエルグ令嬢がブツブツと独り言を言ってたんだがそれの意味が分からないんだ」


「何を言ってたのです?」


「小さな声でブツブツ言っていたから、魔法で声を録音しながらペリア=ノエルグ令嬢に近付いた。こう言っていた……『あれぇ?親から愛されてないはずなんだけどな、あんな反応なの?普通は少しは耳を傾けそうなものなのに……まあいいや、粘ってればそのうちなんとかなるでしょ』だって」


「なにそれ?」


「な?まさに何それなんだよ」


私のなにそれと言う発言は殿下の録音魔法に驚いたからなんだけどな。


録音魔法とか、記憶系のそんな魔法あるの?相変わらず規格外な殿下だな……というのはさておき、『親から愛されないはず』ってラナニアス兄のことを言ってるのかな。


いやぁ~?兄本人はウザがっているけれど、パパンもママンもラナ兄のことをめっちゃ可愛がってるけどね。粘ったところであのラナニアス兄が絆されてペリア=ノエルグ令嬢に愛されたいなんて思うかな?


ラナニアス兄の見下したような顔を思い出してゾッとした。


美しい男神が荒ぶりそうだ。


「それで、ペリア=ノエルグ令嬢はそのまま高等部の学舎から追い出されたのですか?」


「ああ、不審な子女はブツブツ言いながら移動し始めたので、追尾魔法を使って尾行した。そうして子女がペリア=ノエルグ令嬢だと突き止めたんだ」


それって魔法を使ったストーカーやんけ。サクライマホに使った時にも散々キモイと言ってあげたのに懲りずにまたやってんの?


「まあ、ラナニアス兄様の為に不審な女性の身元を確かめたのは、いいと思うけど……」


しかし、ペリア=ノエルグ令嬢の呟いていた言葉が気になるね。


親から愛されていないはずってどこ情報だろう?ん?情報……そんな間違った情報どうやって知ったんだろうか。


「随分と間違った情報ですね……」


暫く考え込んでいると、同じく考え込んでいたと思われるヴェスファード殿下がパンと手を打った。


「情報……そうかっ!分かったぞ!ペリア=ノエルグ令嬢は三ヵ月前まで貴族として生活をしていなかった。つまりはマクシミリアン=オーデンビリア公爵とラナニアス先輩の本当の親子関係を知らなかった。どうして親から愛されていないと思っていたのか……考えられる理由はまず一つ目、情報媒体から得た。二つ目、人伝に話を聞いた」


理由を説明したヴェスファード殿下に顔を近づけた。


「一つ目の理由ですが、この世界には最新の情報を知る媒体のネットもありませんしSNSもありません。ましてや平民が貴族のプライベートの部分を知ろうとなると、絶対に無理だと思います。そして二つ目の理由ですが、これも平民が貴族のプライベートな部分を知ろうとするには人伝ではまるで接点が無いように思えます。仮に実父であるプロブレ男爵がオーデンビリア公爵の内情を知って、愛人の子供に教えたと言われても……プロブレ男爵の領地とオーデンビリア公爵家の領地は国の端と端。SNS等の情報媒体の無い場所で、遠い他領の話を聞けるようなことは無いと思います」


ヴェスファード殿下は私の話を聞いた後、そうだよな~と言いながらだらしなく椅子にグデンと凭れかかった。


「リジューナの言う通りなんだよなぁ~地方に住んでる男爵令嬢がどうやって公爵のプライベートを探れたんだろうな~しかも間違った情報だろ?なんでそんなことを思い込んだんだろ?小説の中に描かれたマクシミリアンなら、ラナニアスも親の愛を受けてないかもだけ…………どっ!?」


「っ!?そ、それだっ!!」


「それぇ!?」


ヴェスファード殿下と私の声が重なった。


どうしてラナニアスお兄様を、親から愛されていない子供だと思い込んでいたのか?


それは、『聖オトメ☆ジュシュメリ~愛♡も正義⚔も独り占め~』の前作の『聖☆ジュシュリア~夢♪と希望★を抱き締めて~』の中に描かれていたマクシミリアン=オーデンビリアが、菜花を愛していて婚約者の悪役令嬢のフレデリカ=ヘラヴェルガとは愛の無い関係だと描かれていたからだ!


そう……それは作者目線の、主人公菜花の側から見た登場人物の姿だ。


本当の裏側……パパンやママンの心情や置かれた状況は見えていなかったし作中で語られていなかった。


「リジューナ………もしかすると、エリナ=プロブレは前作の夢♪と希望★を読んだことがあるのかもしれない」


「!?」


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