第47話 狙われた?パパン

「詳しい話は後でな!」


ヴェスファード殿下はそう言って話を終わらせてしまったので、気にはなりつつも生徒会の業務に戻った。


夕方になり、ヴェスファード殿下に声を掛けられたので男子寮と女子寮の間にある中庭のガゼボに移動した。


歩きながらヴェスファード殿下がガゼボの周りに防御魔法をかけている。もしかして内緒の話なのかな?と思い、殿下のかけた魔法に重ねがける様に消音魔法を追加でかけた。


殿下と私の魔法は異なる術式なのに、ガゼボの周りの術は綺麗に混じり合い複合魔法のようになって正常に起動している。


普通、他人の術は少なからず反発して混じり合わないものなんだけどね……不思議と私と殿下の魔術は融和性が高い。異常と言ってもいいくらいだ。


つまり、自称神様が元々聖女が持つべき魔力とか能力を二人で分け合ったみたいな感じにしたのかな~と思う。


二つで一つか……


ヴェスファード殿下はガゼボの長椅子に座ると、座った隣を手で叩いているので殿下の隣に腰を下ろした。


「実はな、一昨日だ。学園の男子寮の入口でピンク色の髪の女子を見かけた」


ピンク色の髪……まさか?


「学園は高位貴族の子息子女が通っている為に警備は厳重だ。取り敢えずは不審者では無いだろうとは思ったが、女子が私服で男子寮の前に立っているのが不審でな、風紀を乱す輩かと暫く観察してみたんだ」


女の子が私服で男子寮の前に居たの?……それにしても輩って言い方よ。


「暫く観察していると、どうやら見目の良い男子ばかりに声をかけているんだ。何を話しているのか気になって盗聴魔法を使ってみたんだ」


「ほうほう、それで?」


「そのピンク色の髪の女子は男子生徒に向かって『マクシミリアン=オーデンビリアの御子息?』と聞いていた」


「パァ、パパッ!?」


何故、ここでマクシミリアンパパンの名前が出てくるの!?


「そうだ、ピンク髪の女子は男子にマクシミリアン=オーデンビリアの息子かと聞いていた。声をかけられた生徒のなかにはバカ正直に、ラナニアス先輩は高等部にいるよと答えてしまっている者もいた。バカ正直な男子の名前と顔は記憶していたので、俺が後で厳重注意しておいた」


「個人情報駄々漏れ……どこの誰かも分からない娘に、何で聞かれて答えちゃうのよ」


はぁぁ……なんで簡単に話しちゃうのさ。私も後でどんな生徒か聞き出して、悪役令嬢っぽくイヤミを言ってやろうかな〜


「ふぅ〜リジューナ分かってないなぁ〜」


ヴェスファード殿下は何だか嫌味ったらしい言い方をしながら、大袈裟に肩を竦める仕草をした。


……お前は欧米人か?


「ピンク髪で庇護欲を唆る小柄な体躯、非常に可憐なエリナ=プロブレ男爵令嬢に話しかけられてみろ。男は鼻の下が伸びるもんなんだ」


「…………………………………………ふーん」


言われてみればヴェスファード殿下の鼻の下がにょ~んと伸びている気がする。


伸びきった鼻殿下を睨んでいると、自分の失言に気が付いたようでアワアワしながら立ち上がったヴェスファード殿下。


「いや、そのっ俺は違うからな!一般論だっ!プロブレ男爵令嬢が見た目的に異世界転生もののヒロインの要素を兼ね備えていたから…………テンションが上がっただけデス、ハイ」


「一般論……ですか」


ヴェスファード殿下は立ち上がったまま力説し出した。


「ああそうだ。近年、異世界転生もので定番といえばピンク髪に庇護欲をそそる外見の元平民の男爵令嬢という設定が流行っているんだ。そしてこれが見た目に反してヤリチンで逆ハーを狙ったり、無謀にも玉の輿を狙って婚約者のいるキャラに近付いてその婚約者の女性を悪役令嬢に仕立てて、事実無根の罪に落とすという非道な似非主人公もどきが、一般的なソレだな」


一般的なソレって何だ?え~とつまりオタクの早口説明を要約すると……


「エリナ=プロブレ男爵令嬢は、殿下の仰る異世界転生が主体のファンタジー作品の登場キャラに似ているということですか?」


「そうだっ流石私の宿敵ライヴァル、リジューナだな!」


「勝手にライバルにするなっ!!……コホン、でも似ているからって殿下が仰る逆ハー?ハーレムって意味ですよね?を作れるものでしょうか?」


ヴェスファード殿下はまた欧米化!みたいなボディアクションをしてポーズを決めている。


早く喋れ!時間の無駄だ。


「何だ知らないのか?最近の流行りでは、ピンク髪が魅了魔法やヒロインの強制力で男子達を意のままに操る設定が多数見受けられるんだぞ。ピンク髪が聖女だったりすると最早、巨大逆ハーレム帝国を築いてやりたい放題なんてのもあるな」


私は、はい!と手を挙げた。


「先程からピンク髪の女性を貶める発言ばかりを繰り返してますが、殿下自身がピンク髪に何か恨みでも?」


私が怪しんでジットリと見詰める中、殿下は急に頭を抱え込んだ。


「うわわぁぁぁ……あれはまだ『ドキ★レジ』のリリースが開始されたばかりの時だったぁ!ネネちゃんのキャラデザに一目惚れした俺はネネちゃんをガチガチの課金武装にして最強のエロエロ女剣士にしようと頑張ったんだぁぁ。なのに突然の配信終了?ああん?俺の課金ネネちゃんはどこ行った?おいっ運営っ!突然停止してSNSのアカ消してどういうつもりだごるぁ!?ピンクブロンドの俺のエロ天使は俺の課金を注ぎ込んだまま消え去ったぁぁぁ」


「…………」


オタク殿下がいつもの倍以上の早口過ぎて、何か喋ってたけど聞き取れなかったわ。


何とか聞き取れた所で推察すると、ヴェスファード殿下は前世でピンク髪の女性から何かしらのダメージを受けたことだけは分かった。


「それにしても、同じピンクブロンドの髪の女性だとはいえ、エリナ=プロブレ男爵令嬢に当て擦りが酷過ぎません?」


ヴェスファード殿下は抱えていた頭を上げると、珍しく真剣な表情で見詰め返してきた。


「当て擦りもしたくなるさ、エリナ=プロブレ男爵令嬢はラナニアス先輩の存在を知ると、そのまま高等部の学舎に押しかけて先輩を呼び出そうとしたんだ。おまけに騒ぐものだからラナニアス先輩が出て来た所へなんて言ったと思う?」


「何て言ったの?」


「『愛を知らないあなたに愛を教えてあげる!』だって」


うげぇぇっなんじゃそりゃ!?

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