第46話 テンプレって言った?
ヘラヴェル帝国から、ルナセイル殿下とペリア=ノエルグ令嬢がやって来て二ヶ月が過ぎた。季節は秋……卒業と入学の季節が廻って来た。
「あなたっ!何度言えば分かるのっ!?」
「はぁ!?あんたに関係ないと思うけどぉ~」
キャンキャンと叫ぶ甲高い女子の声が中庭で響いている。
うぉぃ……またやってるよ。
中庭を見下ろせる二階の渡り廊下から下を覗き込めば、ペリア嬢とサクライマホが騒いでいる。
あんな目立つ所で騒いでいたら、煩いのがやって来て……
「こらぁ!?そこの女子ぃ!!学園内で暴力沙汰は禁止だっ!!」
前生徒会長……弟のジルファード殿下に会長を引き継いだはずの、ヴェスファード殿下がピッピッー!と、ホイッスルを鳴らしながら中庭に走り込んで来た。
殿下の後ろには現生徒会長のジルファード殿下、婚約者で副会長のルミエラ=ファーモル公爵令嬢、更にその後ろには生徒会役員のリック=ソノバ様と同じく役員のキリス=ザカライト子爵子息が追随している。
ソノバ様とキリス君はやる気出ないんだろうなぁ~という魔力を出しながら、ヴェスファード殿下の後ろにダランとした立ち姿で立っている。
猫背になってるよ……
そりゃそうだよね。女子同士の乱闘?に割って入るのなんて、やる気なんて出ないよね。
特に、問題児と噂のペリア=ノエルグ令嬢とサクライマホだもんね。
因みにオルン=テランディ様とヴェスファード殿下はすでに中等部をご卒園していて、高等部に進学予定だ。
つまりは入学前の長期休みの途中なのだけど、ヴェスファード殿下は風紀の取り締まりの為に、まだ中等部に顔を出している。
まあ……要は暇なんだろうと思う。
それにしても、サクライマホは兎も角として何故、ペリア=ノエルグが問題児なのか……
「あんたはジルファードにくっついてりゃいいのよ!」
そう、ペリア=ノエルグ令嬢のこの言動だ。
仮にもヘラヴェル帝国の公爵家のご令嬢なのに、自分の立場を忘れてしまっているのか庶民的な言動と態度ですっかり周りから浮いてしまっている。
サクライマホは一応異世界人という立場で、言動がおかしくても大目に見てもらっている所はあるけど、ペリア=ノエルグ令嬢は中身は違うけどこの世界の住人なんだけどねぇ~
ヴェスファード殿下にホイッスルを目の前で鳴らされたので、ペリア=ノエルグ令嬢とサクライマホは睨み合ったまま渋々という感じで離れて行った。
私はそのまま渡り廊下を離れると、生徒会室へと移動した。
今期、私も生徒会役員の書記に任命された。
え?生徒会役員なのに、さっきの風紀取り締まりに参加してないって?
何が悲しくて、ホイッスルオタクの後ろをついて歩かなきゃならんのよ。そんなことしている暇があるならもうすぐ行われる、入学式のセレモニーの最終確認をしておきたいもの。
生徒会室に着くと、既にヴェスファード殿下御一行が戻って来ていた。
「リジューナどこに行ってたんだ?」
「ホホ……少し所用で」
便利ワードの一つ、少し所用で~をここで使っておいた。
他には『中々で御座いますわね(褒めても無く、貶しても無い絶妙な言い回し)』、『素晴らしいですわね(何が素晴らしいのかは、受け取り側の気持ち次第)』などがある。
「来週には入学式があるのに、揉め事を起こされるのも困りますよね~」
ヴェスファード殿下の前に、置かれたホイッスルを片付けながらキリス君が溜め息をついている。
そう、来週にはジュ・メリアンヌ学園初等部の入学式だ。
ジルファード殿下に教員室で預かって来た入学式の進行表を手渡した。
ジルファード殿下は進行表を見ながら、そう言えば……と顔を上げて私を見た。
「今年は新学期に編入生が3人入って来るね」
「はい、商家のご子息と侯爵家の遠縁のご令嬢……と、男爵家のご令嬢ですね」
ジュ・メリアンヌ学園では生徒会でも生徒の個人情報を管理している。先生方では目が届かない生徒間の揉め事やトラブルから高位貴族、王族を守る為という名目だ。
「編入に際して問題はあるかな?」
ジルファード殿下に問題……と問われて、ルミエラ様が戸棚から個人情報の載った冊子を取り出して見ている。
「特に素行や表立った家庭内の揉め事などは無いようですわね。学園に入られてから暫くは問題が無いか目を配るように致しますわ」
ルミエラ様、完璧っ!よっ流石っ未来の王子妃!
ルミエラ様はジルファード殿下を見て、微笑んでから私にも大きく頷いて見せている。
ルミエラ様はラベンダー色の髪にアクアマリン色の瞳を持つ人魚みたいな美貌(あくまで私の主観)のご令嬢だ。
そんな華々しい見た目に反して、性格は真面目でコツコツと実績を積むタイプ。
生徒会役員に選ばれてからは、私に指南してまさにコツコツと役員の仕事に従事している努力家なのよ。
そんな真面目で可愛いルミエラ様を悪役令嬢呼ばわりした、ペリア=ノエルグ令嬢は許しませんよっ!!
思い出して怒りの魔力をグルグル動かしている私に向かって、今まで大人しくお茶を飲んでいたヴェスファード殿下が「リジューナ!」と声をかけてきた。
「その編入して来る男爵令嬢はどんな見た目だ?」
「へっ、見た目?あ……えっと……」
ルミエラ様が冊子を差し出してくれたので、今年度編入生名簿の頁をめくった。
「編入生……ああ、ありました。エリナ=プロブレ男爵令嬢……男爵の婚外子で三ヵ月前に男爵家に引き取られた。身体的特徴はピンクブロンドの髪と同じくピンク色の瞳……ですね」
ヴェスファード殿下が一人でうんうんと頷いている。
「女ヒロインのテンプレ祭だなっ!」
……なんだって?
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