第45話 予言の書を手に入れた
「どうして、ご自分も転生してきた者だと明かさなかったのですか?」
生徒会室にヴェスファード殿下とふたりきりになった後、思い切って聞いてみた。
ヴェスファード殿下は少し目を見開いた後、う~んと言いながら首を捻った。
「なんとなく……かな。あの子に正体を明かすのは得策じゃないと感じたんだ」
「まあ……殿下もですか」
そう……私も何となくだが彼女に自分のことを告げるのを躊躇ってしまったのだ。
悪役令嬢は処刑だ!と決めつけをして、嬉々として悪役令嬢のことを語っているペリア=ノエルグ令嬢の嬉しそうな顔を見て……正直不快だった。
「処刑だ、国外追放だと言うことを嬉しそうに叫ぶ奴は好かない!」
そう言ってヴェスファード殿下はプンスカ怒っている。
その怒っている顔を見て私は安心した。
同じ事を思っていたのね……
やっぱりヴェスファード殿下とは考え方が似ているし、怒りの沸点というか物事の見方が同じ方向を向いていると思った。
それにしてもやっと第一転生人?に遭遇したというのに、初っ端からマイナススタートになってしまった感が否めない。
「同じモブ転生でもこうも違うものかな~」
ヴェスファード殿下のいつものオタクパワーを感じる声に元気が無い。
「神様もどうしてあの子にちゃんと説明しなかったのでしょうか?」
思わず呟いてしまったが、ヴェスファード殿下には聞こえていたみたいだった。
「うん……こうは考えられないかな?付喪神は自身の物語の中に複数人の異世界人を招き入れてしまうミスを犯した。物に付く神は物語から力を得て自身の糧にしている。物語の破綻は自身の力を弱めてしまう原因になる……つまり本来なら俺やリジューナのような異世界からの異物は小説の世界を壊す存在になるから入れたくはない。だから詳しく説明して深入りさせたくない、とか?」
ヴェスファード殿下の話に頷き返した。
そう……自称神様は物語を読まれることで神としての力を得ているとか言ってたよね?神として力を得る為には物語を破綻させる訳にはいかないはず。
「殿下、考えたのですが……もし小説の内容が全然違うストーリーになったらあの神様はどうなるのでしょうか?」
ヴェスファード殿下はグイッと私の方に近付いて来て手を握って来た。アメジスト色の瞳が輝いている。
「そこだよ、リジューナ。俺も考えて閃いたというか気が付いたんだ。俺とリジューナに付喪神は基本的なお願い事を伝えて来て小説も渡して来た。当然俺達は小説を読んだよな?で……別にモブだしこのまま山も無く谷も無くのんびり生きていくことにしているだろ?」
あれ?いつの間に山無し谷無しの生活を送る予定になってるの?私、そんな約束しましたっけ?のんびりと言いながらその割にはどこかのオタクな人が危なっかしいことばかりしていませんかね?
「なんだよリジューナのその目……まあいいか。で~同じモブなのにペリア=ノエルグには何も知らせていない。俺の目にはペリア=ノエルグは短慮でマナーのなってない人物に見えた。これは付喪神も同じように感じた……とは思わないか?」
「あっ!?」
ヴェスファード殿下は大きく頷いた。
「そうだなぁ、この世界を人間の体に例えるとする。自分の体の健康の為に体に良い物を選んで摂取したいよね。ところが自分のミスだが体に害があるかもしれない異物を飲み込んでしまった。吐き出そうにも自分では吐き出せない。仕方ないので体に害の無い状態に持って行けるように薬を飲んでおこう……つまり俺とリジューナは風邪の引き始めに飲んだら効くかもしれない葛根湯と言ったところだろう」
なんという例えだっ!……と言いたいけれど、殿下の伝えたいことの真意が分かった。
「つまり小説の中に連れて来てしまった人達は神様的に、シナリオにあまり良くない影響を与えてしまいそうな人達だった……ということですか?」
私の答えは合っていたのか、ヴェスファード殿下はサムズアップをしている。
「転生してきた人たちが全員、善良であるとは言えないだろ?」
「!」
全く以て殿下の仰る通りだと思った。
少なくとも自分は善寄りな人間だと思っているし、その自負もある。横にいるヴェスファード殿下も変人ではあるが私の目には善寄りな人に見える。
しかし、ペリア=ノエルグはどちらかと言えば癇に障る女性だった。オバサンの勘が囁く、個人的に好きになれない人種だ。
「あまりリジューナを怖がらせたくはないから言ってなかったけれど、転生前に付喪神が言っていたんだ。『最初の子に小説をあげちゃったけど、失敗したかな』と、ぼやいていたんだ。その時は何となく聞き流してしまっていたけど、転生してから状況を整理しながら覚書を作っていた時にそのぼやきを思い出したんだ。最初の子に小説を渡してしまって、失敗した……これって良くない思想の持ち主にこの物語の行く末を変えられる小説と言う名の予言書をあげてしまったってことじゃないかってね」
「予言書!?」
何て言うパワーワードだ。
「そうだよ、小説だけど読み進めていけば未来に起こる事件、事故も書かれている。確かに聖女目線の夢シナリオで分かりにくいけれど、大きな事変は分かるだろ?もし……心根の歪んでいる者が小説のシナリオを自分に都合の良いものに変えようとしたら?」
「それは……恐ろしいことですね」
「まだ小説の本当の始まりまで4年もある。しかし4年しかないとも言えるかもしれない。付喪神が警戒している小説を渡してしまったヤツがすでに暗躍しているかもしれないし、まだ様子見をしているかもしれない。こんな時に警戒するべき相手がモブキャラで名前すら分からないのが痛いな」
モブキャラが要注意人物だなんて……前代未聞ではないか。
その後……何をとち狂ったのか、ヴェスファード殿下はマグリアス叔父様や宰相閣下に周りに不可解な言動をするおかしな人物はいないかと、聞いて回ったらしい。
そして全員が全員とも同じことを言ったそうだ。
「それはヴェスファード殿下のことですか?」
あーははははっ!!そりゃそうだぁ!
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