第37話 しゃしゃり出るのもほどほどに
「いょーーしぃ!一緒に狩ろうぜぇ★」
テンション高いヴェスファード殿下の掛け声がヘルベェル領に響いている。
周りにいる軍人のお兄様達はスルースキルを発揮して、第一王子殿下の言葉をマルっと無視して、荷馬車から討伐用の武器などを降ろして点検している。
皆のこの無反応っぷり、もしかしてヴェスファード殿下ってば普段からこんなことばかりを叫んでいるのかな……そう考えれば周りのスルースキルの高さにも頷ける。
「今回は聖女の浄化魔法を試すことが目的だ、よいか大人しくしていろ!」
うおっ!?……突然、野太い声が聞こえてきたので驚いた。
そうか、今日はヴァラミアス=レヴァクーダ公爵閣下が一緒に来てたんだったね。
先日のヴェスファード殿下の奇行を目の当たりにした閣下が、危機感を覚えたらしくて、国王陛下に色々と進言したらしい。
スタンビート討伐の帰り道でも、ヴェスファード殿下にずっとお説教してたものね。
レヴァクーダ閣下はヴェスファード殿下のオタクっぷりに、こりゃヤバイと感じたので、恐らくオタクの野放しをさせるものかと監視目的で来たのだろう。
「よいかっお前は聖女の後方支援だ!分かったな?」
レヴァクーダ閣下がヴェスファード殿下の首根っこを捕まえて、懇々と言い聞かせている時の怒られて膨れっ面の殿下の姿は、腕白な5才児のようだった。
「……地味」
「馬鹿者っ地味とは何だっ!後方支援も大切な任務だっ!腑抜けたことを言っているならドラゴンをおびき寄せる生き餌になるか!?」
「……っ!?」
ヴェスファード殿下がドラゴンの生き餌ぇぇ!?
「あれ?殿下がドラゴン呼び寄せる囮になるって~」
「あ、そう?じゃあ今から囮用の狼とか狩らなくてもいいんじゃね?」
私の後ろに居る軍人のお兄様達が、レヴァクーダ閣下の言葉を聞いて恐ろしい発言をしているのが漏れ聞こえておりますよ。
どうやらヴェスファード殿下が生き餌になって、ドラゴンを迎え撃つ前線で活躍?するのは決定になったみたいだった。
「殿下~囮役お願いしますね~」
無情にもマグリアス叔父様がそう声をかけてしまったので、引くに引けなくなったのかヴェスファード殿下はやけくそ気味に叫んだ。
「くっ……我に刮目せよ!ここに世界一の囮の妙技を見せてやろうではないか!」
「……」
大袈裟に叫んでいるけど、囮に妙技とか必要なんだろうか?
叫び終わった後、ヴェスファード殿下は一人でズンズンと歩いて行ってしまう。その後をマグリアス叔父様と数名の近衛のお兄様達が追いかけて行った。
「あら?殿下あっちに行ったけど、その方角であってるのかしら?」
「ドラゴンはレスト山脈を根城にしていると聞いてますので、殿下は山に向かってますので方角的には合ってますよ」
私の呟きを聞いて後ろにいた軍人のお兄様が、答えてくれた。
まあ、囮とはいえマグリアス叔父様も一緒に行ってくれるし問題無いよね。
そう……今、切実な問題は他にある。
私は少し離れた所に停車している馬車を見詰めた。
馬車の中にはチビッコ聖女のサクライマホがいる。
今回のドラゴン討伐で聖女の浄化魔法を試す予定なのだが、ヘルベェル領に向かう途中の休憩で見たサクライマホは、すごく顔色が悪かった。
馬車移動で体中バキバキになって、疲れたんだろうね。
恐らくだが、異世界人であるサクライマホは長時間の馬車移動なんてしたことなんてないと思う。それにドラゴンを討伐しろと言われても、いまいち理解していなかったのではないのかしら?
だが、ヘルベェル領に近付くにつれて野生のワイバーンの飛んでいる姿が目立つようになってきた。道中でも兎に似た、リズムという魔物が目に付いた。
サクライマホも間近に魔物を見て、ドラゴンと相対する恐怖を覚え始めたのかもしれない。
現に私だってドラゴン種は初めて見る魔物だ。いや、魔物という括りにしてはいけない。魔物の中でも上位種と言っても過言ではない。
ヴェスファード殿下の言葉を借りるなら、まさに『ラスボス』的な存在だ。
サクライマホは大丈夫かなぁ……
そして、その心配は現実のものとなった。
「ドラゴンよっ!!ここにドラゴンの
山の中腹の開けた岩場で、ドラゴンを煽るヴェスファード殿下。
緊張感があるのか無いのか、よく分からないけれどこんな煽りでドラゴンが現れてくれるならいいのだけど……
「うぅむ、あんなに騒いではリズムくらいしか集まってこないのじゃないか?」
煽る殿下の様子を見ているレヴァクーダ閣下のボヤキを聞きながら、心の中で何度も同意をしてしまう。
今も煽る殿下の周りには兎っぽい魔物がポンポンと飛び跳ねながら集まって来ている。
「矮小なる貴様らはお呼びで無いわっ!」
中々ドラゴンが現れないことへのいら立ちを、見た目は兎で可愛い魔物のリズムにぶつけている殿下。
ところが見た目は可愛いリズムだが、実は肉食で狂暴らしい。(注:ウキウキペディ参照)
ヴェスファード殿下が剣でリズムを威嚇して蹴散らしていたが、リズムの数が増え始めて、次々と殿下に襲い掛かって来た。
そんな所へ神官に伴われてサクライマホが近付いて来ている。
「さあ、聖女様!まずはあの魔物を浄化致しましょう」
いやいや?おっさんってばそんな簡単に言うけどさ~平和な大和民族がいきなり魔物と対峙なんて出来ないからっ!しかもまだ子供のサクライマホに、さあ戦えなんて言ったって無理だと思うんだけど。
案の定サクライマホは腰が引けているし、更に顔色を悪くしてガタガタと震えている。
私は思わずサクライマホと神官達に走り寄ると、声をかけた。
「お待ち下さい神官様。聖女様は魔物を直接ご覧になるのは今回が初めてではないでしょうか?異世界では魔物がいないと聞きますし……」
そう言って、サクライマホをリズムの方へ押し出そうとしているのをやんわりと制していた時だった。
一匹のリズムがサクライマホに向かって飛び掛かって来た。
サクラオマホは固まったまま動かない。
「っ!?」
私は咄嗟に手を突き出した。
何でもいい、攻撃する何かが出て来い!と、心の中で叫んでいた。
ぎゃああっ!!!
「ひっ!?」
私の手から何かが出た。白っぽい光がビカーッと光ったと思ったら……飛び掛かって来ていたはずのリズムは消えていた。
…………あれ?
消えちゃった。
どうなってんの?
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