第36話 本気出して来た?

つい先日まで、あきらかに小説の内容をガン無視していたと思われるチビッコ聖女こと本名、サクライマホがどうやら彼女なりに現状を打破しようとしているみたいだった。


何故そう思うのかというと、サクライマホは学校に来て普通に授業を受けていたのだ!(キリス様より報告)


そして、サクライマホは休み時間の間は積極的にクラスメイトに声をかけて、交流を図ろうとしていたのだ!(同じくキリス様より)


更に更にっ昼食の時間にジルファード殿下私の推しに接触を図ろうとしたのだ!


昼食時のカフェテラスに乗り込んできたサクライマホは、私とジルファード殿下とヴェスファード殿下の座っているテーブルに駆け込んで来た。


「ジルファード、私と一緒にお昼……」


しかし小説の通りに主人公が頑張ろう?としているこの状況に水を差す男が居た。


「今、弟と私の婚約者とので昼食を楽しんでいるのだが?おまけにジルを敬称も付けずに呼び捨てるとは、いくら聖女と言えども不敬だな」


水を差す男……ヴェスファード殿下はサクライマホの言葉を遮ると、カフェテラス中にわざと聞こえるような大声でゆっくりと嫌味たらしく、サクライマホを詰った。


うん……大人気ないぞ。


「君は、こんなところで時間を潰している暇があるのかな?勉学も身に付いていない。礼儀作法も駄目、聖女の修行もサボっていると聞いている。一体何を頑張っているのかな?」


ああ……嬉々としてサクライマホを詰っているヴェスファード殿下のその嬉しそうな顔、見た?


殿下の今の台詞はどこからどう見ても、異世界転生物語界隈でかの有名な『悪役令嬢』の言葉そのものじゃありませんかね?


サクライマホは殿下のネチネチ攻撃に、顔を真っ赤にしてプルプル震えて耐えている。


しかし周りで食事中の生徒達からもプークスクスが聞こえて来ると、キッと殿下を一睨みしてから走って逃げ出してしまった。


ああ、やっぱり大人気ない。


「あ……兄上、あのような言い方しなくてもよかったのじゃないかな?」


ジルファード殿下が、オロオロしながらヴェスファード殿下の顔を見たり、私の顔を見たりしている。


分かるよぉ~ジルファード殿下私の推し。あんたの兄ちゃん、まさに悪役令嬢のテンプレみたいな台詞吐いちゃってたもんね、吃驚したよね?


そんな悪役令嬢には私から一言言っといてあげましょ。


「殿下、聖女に追いかけ回されて憎らしい気持ちは分かりますが、あのような言葉はまるで『悪役令嬢』みたいではありませんか?物語では断罪まっしぐらですわよ?」


私が溜め息と共にそう告げると、ヴェスファード殿下は目を丸くした後に


「うむ……モブ王子が悪役令嬢とは斬新だな。俺って新しいキャラ?」


と、呟いている。


この拗れオタクめ……


「斬新どころか残念で御座いますわ。王族ともあろうお方がまだ年若い子女に向かって、小姑の如くねちっこい嫌味を連発されるなんて品性を疑われる所業ですわ」


私が更に溜め息を大きくすると、ジルファード殿下が同意とばかりに大きく頷いてくれている。


「そうですよね!何も兄上が苦言を呈さなくて、聖女自ら自身を律して頂ければ問題無いわけですしね」


いやぁ~?流石にそれはどうかな?あの子が自分を律したりするかね〜つい最近までぐーたらしていたと思うけど。


°˖✧ ✧˖° °˖✧ °˖✧ ✧˖° °˖✧ ˖✧ ✧˖° °˖✧ ✧ 


あれから暫くしてサクライマホは奮起して打倒、ヴェスファード!を声高に宣言して、聖女修行に力を入れ始めたそうだ。


ほら、見なよ。モブ王子のくせに悪役令嬢のポジションにスライドしちゃったぞ?どうすんのさ。


しかし、サクライマホの学園での成績が低空飛行なのは今更だし仕方ないとはいえ、本来の聖女の修行だけでも頑張ろうとしているのは良い事だと思える。


悪役王子もそこそこ役に立ってるかな。


そうして、暫くすると聖女本来の役目の浄化魔法もなんとか使えるようになったので、そろそろ本番の浄化も大丈夫だろうという事になったらしいのだが、肝心の魔物の出現が今は落ち着いてしまっている。


スタンビートはこの前どこかのオタクが綺麗に消してくれた(浄化)ので、それならばヘルベェル領でドラゴンの目撃情報があがっているので〜という訳でサクライマホの聖女初仕事はヘルベェル領のドラゴン討伐になったそうだ。


勿論、ドラゴン討伐と聞いて黙っていられないオタクが立ち上がった。


自分も行く!と言って駄々を捏ねて……芋づる式に私もヘルベェル領に行くことになってしまったのだ。


「……最悪ですわ」


ヘルベェル領行きの馬車に無理矢理乗せられて、テンション高いオタクと困ったような顔したマグリアス叔父様を睨み付けた。そして叔父様の横には黒髪のカッコ良いおねーさまが座っていらっしゃる。


「大丈夫、リジューナ!私が守ってあげるからね♡」


「ジェシカお姉様!」


叔父様の横の黒髪のカッコ良いお姉様の正体は……


「ジェシー、本当に付いて来るのか?」


「アスに付いて行くんじゃないの!リジューナと殿下の為に付いて行くの!」


マグリアス叔父様の奥様のジェシカさんだ。今も現役の冒険者で、7才の双子のお母さんとは思えないほどの美しさとカッコ良さを維持している。


「ドラゴンの目撃情報もあるじゃない?冒険者としては見過ごせな……」


「ですよねっ!!さすがSSクラスの冒険者は仰る事が違うなぁ!」


「……」


テンション高っ!!


どこかのオタクは、冒険者ランクSSクラスのジェシカお姉様とドラゴン討伐に行けることが嬉しくて堪らないみたいだ。


行く前から疲れるわ……

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