第35話 代理聖女、野に降り立つ
私、リジューナ=オーデンビリア11才……もうすぐ12才は魔物の群れに踏みつぶされて今日が命日になりそうです。
「ひぃぃぃぃ……お母様っお父様っナミア姉様っラナニアスお兄様っ先立つ不孝をお許し下さいぃ!」
私の周りには毛虫の幼虫に似たモゾモゾ動く魔物が大量にいる。
モゾモゾモゾモゾ……しかも一つの個体が大型犬くらいの大きさなんだよぉ。
昆虫類はそれほど苦手ではないけど、なにせ大きいから怖いのもあるけど、私の周りにいる幼虫?は数が多い!
ここはブラウ領の端の奥の森……只今スタンビート発生中で魔物と交戦中なのだけど、そこに紛れ込んだオタクが一匹いた。
「〇蟲かっ!!
「でっ殿下っ!!おかしな口笛なんて吹いてないで、降りて来て下さい!」
森に到着して、幼虫っぽい魔物の群れを見たヴェスファード殿下がこんな時に例の発作に襲われたみたいで、先程から小芝居を始めてしまって使い物にならない。
魔物に向かって、鎮まれ!コールをしていたかと思ったら、今度は連れて来ていたワイバーンに飛び乗って立ち乗りしながら魔物の群れの上空で旋回しつつ、口笛を吹いたり何か叫んでいたり兎に角、奇行が激しい……
「殿下ぁ~さっきから何やってるんですかぁ、遊んでないで手伝って下さいよ~」
一緒に来ているマグリアス叔父様が剣と魔法で魔物を切りつけながら、ヴェスファード殿下を呼んでいるけど、殿下はワイバーンの上で立ち乗りしたまま降りて来ない。
「あっ!」
そんな時、ヴェスファード殿下がワイバーンの手綱を離して両手を広げるという暴挙に出た。
「あぶねっ!」
「何やってるんですかっ殿下っ!?」
そんな殿下を地上から見ていた、軍人のお兄様達が一斉に空を見上げた。
皆が見守る中、ヴェスファード殿下はフワリと飛び降りると何故かワイバーンの足首にぶら下がったまま、そのまま低空飛行で魔獣の群れに突っ込んで雄叫びを上げた。
「その者ぉぉ青き衣を纏いてぇぇ金色のぉ野に降り立つぅぅ……」
「こっのぉ馬鹿もんがっ!」
「!!」
何かを叫んでいた殿下に向って、腹の底から響くような怒号と共に乗せられた魔力が、空中に放たれた。
まだ魔力が肌にピリピリと刺激を与えている中、私は怒号を発した主を恐る恐る見た。
ひえぇぇ!!小さな山程あるものすごい大きくて、ごつい体躯のオジサマから湯気?熱気が立ち昇っている!?
「ヴェスファードォォ!!今すぐこちらに来いっ!!」
ヴェスファード殿下は周りに居る魔物の体を踏みつけながら、猛ダッシュでこちらに戻って来た。こんなすぐに来れるなら最初から来いや……
今、ヴェスファード殿下を怒鳴りつけた方は、現国王陛下の叔父様……つまりヴェスファード殿下の大叔父に当たる、ヴァラミアス=レヴァクーダ公爵閣下だ。
そして国軍で一番偉い大元帥で在らせられる……閣下は国防に心血を注いておられて、魔物討伐や隣国との小競り合いがあると聞けばすっ飛んで行って、常に前線で戦う好々爺なのだ。
いや……おじいちゃんと言う年ではないね~前国王陛下の末の弟君でまだ40代後半のお年なんだものね。現役バリバリの軍人さんだ。
閣下は王族ではあるが、若い頃から政治には無頓着で常に戦っていたい戦闘馬鹿。ヴェスファード殿下はこのレヴァクーダ閣下をそう評していた。
しかしヴェスファード殿下も馬鹿だなぁ、よりにもよって閣下が居る所で発作を起こさなくてよかったのに……
「おじいさまっ!今、オババの口上を詠みあげていて乗ってきて良い所だっ……いぃぃぃ!?」
ゴチンッ!!
言い訳?を叫ぼうとしたヴェスファード殿下の頭に、レヴァクーダ閣下が拳骨を落とした。
「王族たるもの、常に民の手本となる行動をせんかっ!!真っ先に遊んでおるなど愚の骨頂だっ!」
「っ…………ズビバゼン…………」
流石空気読まない
ヴェスファード殿下はレヴァクーダ閣下に小突かれながら、魔物を火炎魔法で攻撃し始めた。
「初めから真面目にやってりゃいいのに……」
そう……私とヴェスファード殿下は魔力量は国一番か、世界一だと思われる。神様からの加護で無限大の魔力量にしてもらっているので、こんな掃討戦にはもってこいだ。
「ガハハッ!お前を連れて来て正解だったわ!ホレホレもっと焼き尽くせ」
ヴェスファード殿下はガハガハ笑うレヴァクーダ閣下に更に小突かれながら、先程から火炎魔法を放ち続けている。
半永久的に動く火炎放射器扱いだなぁ……まあ、仕方ないけどね。
聖女の大浄化魔法の代わりにはピッタリだよね。
そう……チビッコ聖女のサクライマホは、まだ聖女特有の大浄化魔法が使えるようになっていない。
おかしいなぁ~サクライマホは神殿で聖女の特別授業を受けているはずなんだけどなぁ~あ、もしかしてシナリオ通りに16才まで使えない設定なのかな?
となると、うえぇ……後4年は私と殿下が聖女の代わりしないといけないのぉ?
「リジューナ様!怪我人が出ました!」
「……っ!?はい、参ります!」
魔物に手や足を齧られて、皮膚が抉れてしまった怪我人が多数いるようだ。
この治療も本来はサクライマホがやるはずなんだよね?
「いててっ!リジューナ様っ傷口広がって……えっ!?もう治ってる!?」
「……」
つい、傷口にねじ込むようにして治療魔法をかけすぎてしまったみたいだ。秒で皮膚が再生していてやり過ぎた……と内心焦った。
聖女じゃないのに、悪目立ちしたらマズイもんね。どこぞのオタクは考えなしに火炎魔法の中に大浄化魔法を入れちゃってるけど。
皆、気が付かないのかなぁ。殿下が放った火炎魔法で燃えている魔物が、跡形もなく浄化されて消えちゃってるのに……
「ガハハ!ヴェスファードの火炎の威力は桁違いだな!魔物が綺麗さっぱり燃え尽きておるわ!」
良かった……レヴァクーダ閣下が盛大な間違いで大浄化魔法を全否定してくれている。周りにいる魔術師や軍人さんも頭を捻りつつも、同意してくれている。
じーさんそれ、違いまっせ?と言いにくいよね。何て言っても元王弟殿下で大元帥閣下だもの。
皆の心情はこんな感じだと思われる。
→アレ、魔物って炎系の魔法であんなに綺麗に焼き尽くせたっけ?何か違う魔法が混じってね?(疑)
→うん?へぇ~ヴェスファード殿下って魔法の威力が凄いのか!
→跡形も無く綺麗に燃え尽きたのって火炎の威力のせいなんだ!(←イマココNew★)
どうぞこれからも盛大に勘違いして誤魔化して下さいっ!と、ガハガハ笑っている小山に向かって手を合わせておいた。
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