第34話 壁に耳あり障子に付喪神

取り敢えず?というか、チビッコ聖女のサクライマホ(主人公仮)は初等科への編入試験に無事合格したらしい。


もしかしたら主人公が学園に入学しないと物語が進まないので、自称神様が不正介入?をしてチビッコの試験の点数を改ざんしたのかもしれないけれど。


実は、改ざんかも……などを言い出したのはヴェスファード殿下だ。


それはサクライマホと同じ初等科2年生のA組になった、生徒会役員の男子生徒からの報告があったからだそうだ。


何でもサクライマホは授業中は常にボーッとしていて、先生に質問されたら黙って答えない。剣術や魔術などの野外授業の時は謎の体調不良で欠席する。


おまけに休み時間になるとどこかに消えていなくなり、始業時間ギリギリに戻って来ることを繰り返しているので、クラスで友達が1人も出来ないでいるようだ。


つまり、本当に試験に合格したのかぁ~ああん?な、怪しい状態らしい。


「フフ……無駄な足掻きをっ、我は見破ったり!」


今日は生徒会室の休憩室の中で、ジョ?何とか立ちをお披露目しているヴェスファード殿下の前に座ってお菓子を食べている、私。


同じく休憩を取られている生徒会役員のオルン=テランディ侯爵子息や、リック=ソノバ様はすでにこんな殿下に慣れっこなのかフル無視で、昼食後のデザートを食べていた。


因みに生徒会役員のみ入室可能な生徒会室は、各自の使用人も入室可なので王族の使用人と公爵家うちの使用人、他の方々の使用人が入り乱れて、給仕してくれている。


そんな中でジョ何とか立ちで高笑いしている王族を見ても、眉一つ動かさない使用人達は使用人の鑑だね!


「あの~何を見破られたのでしょうか?」


そんな中、ヴェスファード殿下に声をかける猛者が現れた。


勇気があるのか、ないのか例のチビッコ聖女と同クラスの生徒会役員のキリス=ザカライト子爵子息だ。


このキリス様は将来は近衛騎士になるのが目標らしく、近衛副団長のマグリアス叔父様を崇拝しているらしい。


あの年甲斐もなくキャッキャと騒ぐアラサーを崇拝?とは疑わしい限りだけど、私の風貌がマグリアス叔父様に似ているらしいので、キリス様は私のことも眩しい者を見るような目で見ている時がある。


私なんて見てたって護衛騎士にはなれないけどね~


さて……そんなキリス様が問い掛けると、ヴェスファード殿下は顔半分を手で覆って見せてから、ズビシッとキリス様を指差した。


「あの聖女に追跡魔法をかけてある!あの子女がどこへ移動しようとも、のらりくらりかわすことが可能だ!」


「追跡魔法!」


何故だか男子達の歓声が上がった。


「またそんな魔法使っちゃって……」


男の子達の歓声の意味も分かるけど、確かに私達の年齢で高位魔法の追跡魔法をさらっと使っちゃう殿下、カッコイイ!も分かるけどさ~のらりくらりって何だよ!


「追跡魔法って対象の動きを監視する目的の魔法ですよねぇ?それで聖女様を追跡されてどうされたのでしょう?」


キリス様が、殿下カッコイイ!ハートマーク状態になってしまったので、私が代わりに話の続きを聞いてあげることにした。


「うむっ!聖女は休み時間ごとに俺に凸して来たり、ジルやオルン達の後を追いかけて回しているとの被害報告を受けていてな!」


「まあ……」


思わずオルン様を見ると、苦々しい顔をしながら頷き返してくれた。リック様も大きく頷いている所を見ると、追いかけられたことがあるのかな?


「兎に角、見目の良い男子生徒に片っ端から声をかけている。学園の風紀を乱す要因を早めに処理しておかなくてはな」


聖女の扱いを処理だなんて……今日もサクライマホ下げに余念の無いオタク殿下。


「あ~そういえば、聖女の後見人はどなたが?」


前回の聖女の後見人にマクシミリアンパパンがご指名を受けたけど、今回は断固拒否したそうだし。


「イコリーガ辺境伯が身元保証人だそうだ」


「あ……そうですか」


確か辺境伯閣下って現陛下の従兄弟とかだったっけ、断れなかったんだろうなぁ。お気の毒ぅ。


それにナミア姉様からのお手紙じゃ、チビッコ聖女はネイサン様のお勤め先の魔術師団まで押し掛けて騒いだりしていて怒ったネイサン様が、ATフィールド?(ヴェスファード殿下がそう呼んでいた)を魔術師団の詰所全域に展開して、聖女が入れないようにしたとかなんとか……魔術結界でも張ったのかな?


色々と考え込んでいた時にそれまで黙っていた、リック=ソノバ様が素敵なバリトンボイスで語り出した。


「あの聖女は見境なく子息方に近付こうとして見える。正直、婚約者がおられる方も多いから、学園の雰囲気も悪くなる一方だ」


サクライマホ下げの賛同者を得て、ヴェスファード殿下も更に声を大きくした。


「さっさとスタンビートの群れの浄化に向わせればいいんだ!そうすれば少しは大人しくなるだろ!」


「……」


あの子だって聖女の勉強も始めたばかりだろうし、いきなりスタンビートの群れはマズいでしょ?まだ大浄化魔法は使えないじゃない?


とか、何とか思っていたら次の日……


そんな悪態をついたのが自称神様にバレたのか、なんとヴェスファード殿下がスタンビートが発生した南のブラウ領に派遣されることになった。


まあ妥当な人選だとは思う。


普段から高位魔法をバンバン使っているのを周りに見られているし、転生で大浄化魔法を使えるはずだし?


「まあ、ガンバッテ!」


学園の正門前でマグリアス叔父様に連れて行かれそうになっている、ヴェスファード殿下にそう声をかけて手を振っていると、ヴェスファード殿下が私を指差して叫んだ。


「ちょっと待てマグリアスッ!怪我人が出ているんだろ!?リジューナは治療魔法が使えるぞっ!一緒に連れて行け!」


「っおいこらっ!?……失礼」


それは私の転生の加護魔法じゃない!!こんな所でバラす必要ないよねっ!?


驚きの表情で私の方を見たマグリアス叔父様の顔で嫌な予感がする!!


「リジューナも行ってくれるかい?」


叔父様ぁぁぁ!!!嘘ぉぉぉ!?

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