第33話 もう帰って欲しい(切実)

聖女召喚の儀で召喚されてきた一応主人公の彼女、本当は真緒と名乗らねばいけないところで、本名らしいサクライマホを堂々と名乗り自称17才と言い張る、例のチビッコ聖女はやらかした。


なんでも自称17才なのでジュ・メリアンヌ学園の高等部の編入試験を受けることになったらしい。そしてものの見事に編入試験全科目オール0点という学園創設初の快挙を叩き出し、入学不可になったそうだ。


「はぁ……入学不可ですか」


私がジュ・メリアンヌ学園に入学してからは、ヴェスファード殿下とご一緒にカフェテリアでヴェスファード殿下とランチを食べることが日課だ。


え?イチャコラしてんじゃねぇ!ですって?婚約者なんでね、オーホホッ!


まあ……それはおいておいて、そのランチの時間にチビッコ聖女の近況の話になって、オール0点祭の話になったのだ。


「あのチビッコも馬鹿だよなぁ~17才ですぅとか言っちゃうから、異世界にきて恥を晒すことになっちゃうんだよ~」


ヴェスファード殿下はチビッコ聖女に容赦ない。結婚相手の名指し攻撃を食らわせてきたことを余程、根に持っているのだろう。


「それで焦ったのか、手の平を返して『あれ~ここの世界とは年齢の数え方が違ったかもぉ?え~とここの世界じゃ私ってば12才みたいだねっ』とか抜かしやがったんだ」


「嘘つけっ!!」


「だろぉ?どちらでも年の数え方は一緒だってのにな!」


思わずヴェスファード殿下の話に素早くツッコミを入れてしまった。


「でも……12才だなんて、自らハードルを下げて来ましたね」


ヴェスファード殿下はランチの締めのデザートの杏仁豆腐を口に運びながら、更なる暴言を吐いた。


「そんなもの魂胆は分かってるよ~12才ぐらいと言っておけば、今度は初等部への編入試験が受けれるし、まあなんとか入学出来る点数は取れるんじゃないかと判断したんだろ?それに12才と言っておけばリジューナより年上、俺より年下でマウントがとりやすからだろ?」


「何のマウントですか?」


「そんなの決まってるじゃないか~リジューナに対するマウントだよ!リジューナより年上になりたかったんだろ?」


私はそ~っと挙手した。


「あの~ちょっと宜しいですか?先程からやけに断定的にサクライマホのことを話されてますが、何か根拠がおありなのですか?」


ヴェスファード殿下は勢いよく立ち上がると、またジョ?なんとか立ちをしている。


カフェテラスにいる生徒達が何事だ?と、こちらを見てくる。


どうしたどうした?でもいつものパターンで嫌な予感がするっ!


「俺様に死角無しぃぃぃ!!チビッ子の会話は全て俺様の高位魔法で傍受させてもらっているぅぅ!」


「っおいぃ!それって盗聴じゃねーーかっ!!堂々とストーカーを暴露してんじゃねぇ!!……失礼」


我が国の麗しの第一王子様(13才)は、なんとストーカーだったのです。


「キモイキモイキモイ!!!」


私がキモイを連発すると、ヴェスファード殿下は何故か周りを見回してから秒で椅子に座り直した。


「チビッコの動向を探るのも、神の代行者の使命だろ?」


アンタいつの間に使命になってんのさ。神の代行者にならないよ~とか言ってなかった?


私がジト目で見詰めていると、一つ咳払いをしてヴェスファード殿下は優雅に紅茶を飲んでいる。


「真面目な話、サクライマホが好き放題してジルファードやオルン、リック=ソノバ先輩に被害が及ぶのを避けたい。アレがおかしな行動に出る前に阻止しておくのが目的だ。断じてロリをストーカーとかではないぞっ!」


「……あ」


そうか、私はメインキャラクターの男性達とはそんなに接したことないけれど、オルン=テランディ侯爵子息やリック=ソノバ先輩はヴェスファード殿下と一緒に生徒会の役員をしているもんね。


「ふぅ~兎に角だ、初等部の編入試験を受けたのが昨日で、今日にも結果が出ているはずだから……」


その時、カフェテラスの入口付近で騒いでいるような声が響いた。


「何だ?」


ヴェスファード殿下と声のした方を見ると……例の自称17才から12才に変更した聖女が出入口付近で叫んでいた。


「あぁ~!!ここが食堂なのぉ?めっちゃカッコイイ!あっ!王子様だぁ!一緒にゴハン食べて良い?良いよね!」


チビッコ聖女はそう叫んで、ジルファード殿下とお友達が座っている席に走り寄ってしまった。


ひええっチビッコ!?早速来たの?


ヴェスファード殿下が舌打ちしながら立ち上がったので、私も後に続いた。


「何食べてるのぉ?わあっ大きい苺だぁ!いただきっ!」


そんな言葉と共に、な~なぁんとジルファード殿下のランチプレートに乗っていた苺に手を伸ばして、パクリとやっちゃったチビッコ。


「ああっ!?それっあかんやつぅ~~」


ヴェスファード殿下は関西弁?でツッコミを入れている。殿下はまだ余裕がありそう……


余裕のありそうな殿下と二人でジルファード殿下の傍に駆け寄ると、パクリと苺を食べられちゃったジルファード殿下とお友達の男子達はあまりの衝撃に固まっていた。


そりゃそうだ、高貴なお生まれの皆様は自分用の皿に乗ったデザートを、横取りされるなんて珍現象に生まれて初めて遭遇したに違いない。


お労しい……私の推し。でも呆けた顔も可愛いから、心のシャッターを連写しておりますこと、お許し下さい。


「おいっ!!何やってるんだ!」


ヴェスファード殿下がチビッコ聖女に怒鳴りつけると、チビッコ聖女はキョトンとした後にニカッと大口を開けて笑った。


「あ~もしかしてヤキモチィ?もうぅ大丈夫だよ!心配しなくてもヴィー君のお嫁さんになってあげるから!」


「〇*△‘◇@!!」


ヴェスファード殿下は何かを叫びながら頭を抱えてふらついていた。慌てて支えてあげるとブツブツと呟いているヴェスファード殿下の声が聞こえて来た。


「…………もう帰れ、あっちへ帰れ、素早く帰れ、付喪神ぃ、責任を持ってコレを早く回収しろぉぉぉ」


はぁ……ヴィー君って誰だよとか、帰れってどこに?と、ツッコんでみたいけど、ヴェスファード殿下の気持ちは痛いほど分かる。


この聖女にここじゃない何処かに帰って欲しいよね、分かる分かる。


しかし、まさかこんなやり取りがずっと続くのかな?

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