第32話 乙女発動

ここで改めて、この世界『聖☆ジュシュリア〜愛♡も正義⚔も独り占め〜』の主人公真緒のプロフィールをお伝えしておこう。


真緒、日本人の16才。恐らく高校生。イラストの絵では日本人離れしたスレンダーな超絶可愛い子が描かれている…………以上。


そして……自称17才のチビッコ聖女はあくまでも、原作者がキャラクター設定の参考にしただけの、実在する女の子だということをもう一度強調しておきたい。


つまり、イラストでは主人公は凄く可愛かった。しかし実在するサクライマホは、極々平均的な日本人女子という体型と顔立ちをしていたのだ。


よく言えばマシュマロボディ、悪く言えばややぽっちゃり……だったのだ。


原作者がサクライマホの何を参考にしたのかが、さっぱり分からないほど……小説の可愛い少女と本人との乖離が激しい。


まあはこの際、容姿は関係ない。問題は中身の方だ。


自称神様も警戒?しているらしい、サクライマホの原作クラッシャーの威力は絶大のようで、ヴェスファード殿下を結婚相手に名指しする暴挙を見た宰相閣下と大臣達は慌てふためいていた。荒ぶるサクライマホを諭して宥めて、やっと神官の皆様と神殿の方へと移動させることが出来たようだった。


そんなチビッコ聖女に名指し指名を受けてしまったヴェスファード殿下は、非常に不機嫌だった。


ヴェスファード殿下と私は王城の殿下の私室に戻った。殿下は私の対面のロイヤルソファーに座ってからもずっと怒っているようだ。


血圧上がるよ?……落ち着きなよ。


「なんだぁ!?あのチビはっ!!」


「一応、主人公ですけどね」


「そんなことは分かってるよっ!俺にだって選ぶ権利はある!ロリは駄目だっ!」


いやいや~忘れてるかもしれないけど、あなた13才じゃない?4、5才くらい年下ならまだセーフじゃないのかな?


どうやらヴェスファード殿下は興奮し過ぎてご自身の年齢と今の容姿をお忘れになっているようだ。こう言っちゃなんだが、身分的にも美貌という観点からも自分が相手を選べる立場に居る方なんだけどね。


「まあいいじゃないですか……私達って所詮モブですし、なんだかんだ言って主人公との恋愛の絡みはないはずですよ?このままヴェスファード殿下とあの子が結婚とか無いでしょう?」


ヴェスファード殿下はガバッと立ち上がると、大声で叫んだ。


「俺はリジューナと婚姻するんだぞっ!!」


「…………そうです、か」


吃驚した。


ヴェスファード殿下は私の気の抜けた様な返事が気に入らないのか、更に語気を強めた。


「リジューナ以外の嫁は断じて認めんからなっ!」


「……っ!?」


こ、これは……いくら何でも私だって分かるわ。


顏を真っ赤にして叫んだ後に自分がとんでもないことを叫んだ事に気が付いたのか、ヴェスファード殿下は顔を背けている。


私はロイヤルソファーの殿下の横に、わざと飛び込むようにして強引に座ってみた。


「!」


ヴェスファード殿下はまだ顔を背けている。


しかし耳が真っ赤だ。


暫くモジモジしていたヴェスファード殿下だったが、やっと私の方を顧みた。


だが振り向いてこちらを見ているが、目線は合わない。


「いっ……言っておくがっ!その……お前はっ、話してみて気楽というかっ……兎に角っだな!……一緒に居て心地が良いんだ!!嫁は絶対にお前だっ!」


「!?」


私は驚きと殿下のあまり迫力に仰け反ったまま、何とか返事をしようと口を開いた。


「ありがとうごじゃいましゅ……」


噛んだ。肝心なところで思いっきり噛んだ。


その時に視界の隅で何か動いたので、目を動かすと……壁に沿って立っている男女の姿が見えた。


ふあああっ!?メイドさんと侍従の方々が居たんだったぁ!?


流石、王宮勤めの使用人!この珍妙な言動ばかりな王子とオバサン令嬢の言動に動じず、まるで空気の如く存在を消してくれている。


ヴェスファード殿下もやっと侍従達の存在を思い出してくれたようで、顔を盛大に引き攣らせながらロボットみたいな動きでロイヤルソファーの端っこに座り直してくれた。


「…………そういうことなんで」


「…………了解しました」


何を持って了解しているのかは謎だけど、これ以上ヴェスファード殿下のライフを削ってあげるのも可哀相な気がしてやめておいた。


まあでもヴェスファード殿下に付き合って、殿下とオタ活しているのはこれはこれで結構楽しいし、殿下と一緒に居るのが居心地いいし?


別におかしなことじゃないよね?婚約者なんだし……


「…………」


色々考えていたら、顔の周りが火照ってきちゃった。


火照った顔を冷やそうと扇子で扇いでいたら、ヴェスファード殿下と目が合った。


ヴェスファード殿下はフニャと笑った顔を見せてきた。


なにそれっ!?……ちょっと可愛いんですけど?


更にヴェスファード殿下はソファ―の端からジリジリとこちらに近付いて来ると、私の指先にご自分の指先を絡めた。


そしてまた頬を染める殿下。


乙女かぁぁぁぁ!!!!


そんな乙女なヴェスファード殿下の姿を見て悶絶していた時、自称17才のチビッコ聖女が色々とやらかしていたらしいのだった。


荒ぶる聖女よ、鎮まれぃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る