第31話 いやいや無理がある

召喚されてきた聖女はこの『聖☆ジュシュリア〜愛♡も正義⚔も独り占め〜』の主人公の真緒の……モデルになった女性だったはず?


モデル……そうあくまで小説だから実在の人間ではない。


「あっ!」


そうだ、ずっと何かが引っ掛かっていたんだけど、これだったんだ!


小説の真緒は16才の設定だ。じゃあモデルにしたA子さんって実際は何才なの?ってね。


現実世界に存在する架空の主人公じゃない方のモデルを、物語の中に引き込んでしまった、彼女は肉体を所持したままこちらの世界に召喚されたのです……て自称神様が言ってたよね。


つまりこの子供がモデルになったA子(仮名)さんってことだよね?


「リジューナ」


不意に背後から声をかけられて驚いて後ろを見れば、ヴェスファード殿下が厳しい表情をして立っていた。


「あれは真緒なのか?」


私はヴェスファード殿下を手を引いて、大広間の隅へ移動すると自称神様との会話を思い出しながら説明した。


「私が自称神様と会話した際に、小説の真緒のモデルとして実在している女性を肉体を所持したままこちらの世界に召喚してしまった……と聞いたように記憶しています」


ヴェスファード殿下は頷いた。


「俺もそのように聞いた」


「つまりは、あの少女は現実に存在していた真緒のモデルになった少女ということではないでしょうか?」


私が小声で話すとヴェスファード殿下も顔を寄せて来た。


「そうかあくまでモデル、だったな。俺は思い違いをしていた。小説の真緒が16才だから何の疑いもなく同じ年齢の女性が来ると思っていた」


コソコソと隅でそんな話をしている間、召喚陣で座り込んでいた小学生らしき年代の真緒(仮)は、近付いて行く魔術師団長と今年魔術師団に入団された、ネイサン=イコリーガ様を見て目を輝かせている。


あ、よく考えたらネイサン様は真緒の周りに登場する主要キャラだったよね。因みにネイサン様は数ヶ月後、姉のナミアとの婚姻を控えている。


「ようこそ異世界から来られた聖女よ」


魔術師団長が真緒(仮)に声をかけた途端、真緒(仮)が勢いよく立ち上がった。


「きゃああん!!やったーー!本物だぁ!!あ、私ね!この人がいい!この人と結婚しますぅ!!」


そう言ってネイサン様を指差して、ぴょんぴょんと飛び上がっていた。


ああ…………自称神様の『scenario kowasu』がなんとな~く分かった気がして、頭を抱えそうになった。


隣を見ると、ヴェスファード殿下は唸りながら既に頭を抱えていた。


「……結婚とな?」


なんとか立ち直ったらしい魔術師団長が恐る恐る真緒(仮)に尋ねると、真緒(仮)はぴょんぴょん跳ねながらネイサン様にガバッと抱き付いた。


「この人とっ!だってめっちゃカッコイイしぃ!私の好みだもん!」


バキッ……


私の左隣に座っているフレデリカママンの扇子が、へし折られる音がした。


右隣のナミアお姉様は少し腰を浮かせて、立ち上がろうとしている。


すると真緒(仮)に抱き付かれていたネイサン様が、真緒(仮)を強引に引き剥がすと叫んだ。


「私は妻のいる身です。愛妾など持つ気はありませんので!」


妻ぁ!!それってナミア姉様のことよね?やるじゃないっネイサン様!


真緒(仮)はキョトンとした顔でネイサン様を見上げている。


ナミア姉様が駆け出してネイサン様に駆け寄ると、ネイサン様はナミア姉様を抱き締めた。ネイサン様とナミア姉様の周りに薔薇が舞い散っている幻覚が見えた……気がした。


「ネイサン様」


「ナミア」


はいはいっ!これがリア充ねっ!分かったっ分かったっ!


私の心の中のリア充への合いの手とリンクして、ダンダンッと床が踏み鳴らされる音がした。


地団駄を踏んでいるのは真緒(仮)だ。まるで子供の癇癪だ。


地団駄を踏んでいる真緒(仮)の大きな音にやっと大人達は我に返ったみたいで、真緒(仮)の周りに集まり出した。


「聖女よ、名は何と言う?」


ここで宰相閣下が切り出した!


「あ、私?サクライマホ!」


小説の中の主人公の真緒とは名乗らずに、堂々と彼女の本名?を名乗ってしまったね。早々に原作クラッシャーが稼働し始めたようね。


「ぐぬぬ……」


ヴェスファード殿下の唸り声が更に激しくなった。


「して、サクライマホ殿はお年はいくつであるかな?」


何だか、宰相閣下の聞き方が幼女に対するソレになってきたわね……


サクライマホは暫く小首を傾げていたけど、何故だかネイサン様を上から下まで見詰めた後に元気よく答えた。


「17才よっ!」


いやいや~17才はナイナイ!それは流石に無理がある。


私は反射的に首を横に振ってしまったが、周りで私と同じ動きをしている人がちらほらと見えた。


とうとうヴェスファード殿下の歯ぎしりの音が聞こえて来た。


そしてやっぱり我慢出来なくなってしまったのか、ヴェスファード殿下はサクライマホの前に躍り出ると、ビシッとチビッコ聖女?を指さした。


「嘘をつくなっ!お前どう見ても8才か9才だろ!?」


ヴェスファード殿下に指を指されたサクライマホは、今度はヴェスファード殿下を上から下まで見詰めた後に大きく頷いた。


「あんたもカッコイイねっ!よしっ私、あんたと結婚することにした!それに~私っそんなチビッコじゃないもん!失礼しちゃうなぁ」


「なぁ!?」


…………もう誰か代わりにツッコんでやってくれ!

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