第30話 思ったより、小粒ですな

聖女の召喚の間……という大広間が王城の中にある。


あの自称神様からの怪文書らしきものを受け取ってから、ヴェスファード殿下は聖女が召喚されていないか確認してくれた。


因みに聖女召喚は、準備期間が三ヵ月ほどかかるらしいので一ヶ月後のジュ・メリアンヌ学園の今年度の入学式には間に合わない。


小説では高等部に途中編入で、真緒が16才から物語がスタートするはずだ。


あの怪文書が本当に自称神様からのメッセージだとすると、召喚時期を早くするという意味かと思ったのだが……


ところが、煎餅缶からコンニチハ事件(怪文書)から三日後……お城から帰って来たマクシミリアンパパンから驚きの情報がもたらされた。


「10日後に聖女召喚を行うんだって」


「えぇ!?」


マクシミリアンパパンは珍しく不機嫌だった。


10日後に召喚っ!?無理くりねじ込んできた感満載だよ!


「また急なことねぇ~」


ママンが首を傾げている。


前回の聖女で色々やられたパパンが『聖女』と聞いただけで拒否反応を示しているのは見て分かる。ママンと目を合わせて頷き合った。ママンがさり気なく話の続きを促した。


「急に行うには理由があるの?」


パパンは美しいママンの顔を見て落ち着きを取り戻したのか、いつものような精霊スマイルを見せてくれた。


「南のブラウ領で魔獣のスタンビートが発生したそうだ。その後も隣のゴドバ山脈からも多数の魔獣の目撃報告が上がっている。それに噂レベルだが、ヘルベェル領でドラゴンが目撃されたそうだ」


うはぁ~ドラゴン!とうとう来ましたねぇ~どこかのオタクが小躍りして喜びそうな出現情報ですな。


「魔獣の増加が著しくなってきたので、聖女召喚となったみたいだね。今度の聖女はどうなんだろうね……はあぁぁぁ」


パパンが特大の溜め息をついて、窓の外を憂い顔で見詰めている。


パパンは先代の聖女、菜花を心の中で盛大に罵っているとみた!!


そしてフレデリカママンはまた般若顔をしている……怖えぇぇぇ。


「あんな馬鹿みたいな聖女しか呼べないなら、召喚も必要無いと思うけど」


ママンはもっと暴言と本音を心の中に仕舞って!仕舞ってっ!?


でもママンのご指摘通り今回の聖女、奈緒もあまり良い感じではないのだけどね……



°˖✧ ✧˖° °˖✧ ˖✧ ✧˖° °˖✧ ˖✧ ✧˖° °˖✧ ✧ ✧˖° °˖✧ ✧°˖✧ ✧˖° °˖✧



という訳で、ドラゴンを見たい!と騒ぐヴェスファード殿下を宥めつつ……聖女召喚の儀に立ち会うことになった。


高位貴族(公爵、侯爵、伯爵位)で時間が合えば召喚の儀にご参加を~という感じの緩い招集だったらしいが、結構な数の人数が大広間に集まっている。


大広間に入室すると、座る場所を指定されていたので長椅子に腰掛けて待っていると後ろから声を掛けられた。


「リジューナ様、お久しぶり」


「ルミエラ様、パメラ様、御機嫌よう」


声をかけてきたのは、友人のルミエラ様とパメラ様だった。二人もご家族と参加したようだ。


そう……初お茶会に参加した後も色々なお茶会に参加したお陰で、私にもやっと仲の良いご令嬢が出来たのだ。


後もう一人、高位貴族で遠方にお住まいの令嬢で仲良くなった、ベルフェリア=クシアラ伯爵令嬢は例のドラゴン生息地のヘルベェル領にお住まいで、ドラゴン出現情報のせいで忙しくて不参加になっていた。


「ヴェスファード殿下は?」


ルミエラ様が聞いてきたので、目線を大広間の上座へと向けた。


「王族方はあちらに」


「リジューナ様もあちらにいらっしゃるかと思ったわ!」


「いえいえ~まだ婚約者という立場ですので」


パメラ様は、恋愛話が特にお好きみたいで私とヴェスファード殿下のアレコレをやたらと聞きたがる。


そうそう余談ではあるけど、私と仲良くなったルミエラ=ファーモル公爵令嬢が現段階でジルファード殿下の最有力婚約候補になっているらしい。


何でも他国の王族に嫁ぐ予定だったのが、そのお相手が平民の女性と駆け落ちしてしまったとかで突然の婚約解消にあったそうだ。


婚約破棄の公爵令嬢のポジションを確保する為に、シナリオの強制力が働いた……かもしれない、とヴェスファード殿下が言っていた。


あの自称神様の嫌がらせとも取れる所業のせいで、ルミエラ様が二度も婚約破棄の憂き目に合うなんて断じて私が許さない!そう思って今はヴェスファード殿下に圧をかけて、ルミエラ様はあくまで候補の段階で止めてもらっている。


「そろそろ始まるわよ」


物思いに耽っていた所にルミエラ様の声が聞こえて、意識を大広間に戻した。ルミエラ様とパメラ様はご自分の席へと急いで戻って行った。


さて……そうこうしている間に、魔術師団の術師達が床に召喚陣を描き終えたみたいだ。


陣を囲んだ魔術師達から静かに、ゆったりとした詠唱の声が大広間に響き渡る。讃美歌とも違う、お経でもない独特な旋律で詠うような節の声が妙に眠気を誘う。


詠唱の声が心地よくて、少しうつらうつらとしかけてユラユラと揺れていた頭がガクンと落ちたことに驚いて目が覚めて、慌てて周りを見た。


ぐはぁ!ヴェスファード殿下がニヤニヤしながらこっちを見ている。


お~電車で寝ちゃってビクついて目が覚めるのねぇ~みたいな目付きをしている気がして……ヴェスファード殿下を睨み付けてた。


もうっ眠いんだからいいでしょ!!


「……来るわ」


隣に座るナミア姉の言葉に殿下を睨むのを止めて、召喚陣の方を見た。


召喚陣が光ってる!!


そうして光が収まりかけた時に、陣の中に女の子が座り込んでいるのが見えた。


女の子だ……ん?女の子だけど……なんか小さい子だね?小学生?


ん?あれ、主人公の真緒よね?何だか思っていたのより……全然、子供なんですけどぉぉ!?



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