第29話 土の中からコンニチハ

「よっしゃー獲ったどー!……あれ?」


ヴェスファード殿下が土の中から掘り起こしてきたのは、若干錆びついた銀色の四角い箱のようなものだった。


認めたくはないけれど、本当にタイムカプセルなどが入れられたよく見かけるお菓子の空き箱に見える。


「あれ?これ、ばーちゃんの家で見たことある、〇〇〇屋の薄味煎餅の詰め合わせ缶だ!」


煎餅!?確かにそれの入れ物に似ているけど……


「た、確かに煎餅の詰め合わせが入っている物に似ていますが……ちょっと見せて頂けます?え?やだ、本当に〇〇〇屋煎餅詰め合わせって書いてあるし」


殿下の掲げ持つ煎餅缶の底に、ラベルシールが貼ってあって本当に煎餅の空き箱みたいだった。


底面のシールには何か書いてある。


え~と原材料:うるち米、醤油……うわっ賞味期限まで書いてるけど、錆びついてて読み辛い、え~と2005年?2006年?どっちにしろ数十年前の箱なのには違いない。


殿下は煎餅の箱らしきものを両手に持って、大胆にも左右に振った。


「ひぇっ!?危ないですよっ!」


私が小さく悲鳴を上げたので、殿下の護衛とオーデンビリア公爵家の護衛が一斉に走り込んで来た。


「殿下っ!その怪しげな箱を地面に置いて下さいっ!リジューナも下がって!」


「叔父様!」


そう……殿下付きの護衛は私の叔父、マグリアスなのだ。オーデンビリア公爵家の護衛のお兄様二人もマグリアス叔父と一緒だと、自然と護衛の隊長が叔父様になっているようで叔父様の指示の元、連携の取れた動きをしている。


マグリアス叔父様が殿下から煎餅の箱を取り上げると同時に、私は公爵家の護衛のリガン卿とホーマ卿に周りを囲まれてしまった。


そんな素晴らしい連携に反して、ヴェスファード殿下の周りに護衛がいなくて、がら空きなのが気になるけど。


オタクが野放し……


「こんな錆びた汚い箱を土の中から掘り出すなんてっ!」


そう言ってマグリアス叔父様は、殿下から取り上げた煎餅の箱?を、ぽいっと林の向こうに投げ捨ててしまった。


「ああっ!!俺のタイムカプセルがぁ!?」


「あぁっ!?」


マグリアス叔父様ってば、あんな怪しげな箱を無造作に林に投げちゃうなんて!爆発でもしたらどうすんのさっ!


林の中に放り投げられた箱は、鉄製のものがガチャンと地面に落ちた音がした後は何の音もしない。


すると、突然ヴェスファード殿下が走り出した。殿下の周りには誰もいなかったので、殿下は一人で林の中に突っ込んで行ってしまった。


「タイムカプセルゥッ!!」


「待ってっ!」


「殿下っ!?」


殿下を追って林の中に駆け込むと、無残にもひしゃげてしまった煎餅の箱の前に蹲るヴェスファード殿下の姿があった。


煎餅の箱は落ちた反動から蓋が開いており、中が見える状態になっていた。殿下の肩越しに箱の中を覗き込むと、何か白い紙が入っているの見えた。


殿下がその紙を手に取って見ている。


「殿下?」


座り込んだまま殿下が全く動こうとしないので、恐る恐る声をかけた。


ゆっくりと振り向いたヴェスファード殿下は顔を引きつらせていた。


何?何なの?


殿下がその紙を差し出してきたので、受け取って見てみた。


『バーーーーカ!!何もねぇよ!』


……と、白い紙にデカデカとマジック殴り書きみたいな日本語で書かれてあった。


うわぁこれは……心抉る言葉だ。この箱を土から掘り出さなければコレを見ることはなかったはずだし、ヴェスファード殿下みたいにタイムカプセルだ♡と喜んでいるドリーマーに冷や水を浴びせるこの言葉……この箱を埋めた人の底意地の悪さを感じる。


「何?何か……外国語が書いてるね?」


マグリアス叔父様が私の持っている底意地の悪いメッセージの書かれた紙を見て、首を傾げている。


そうか、マグリアス叔父様は日本語が読めないよね。ん?日本語?


私は慌てて意地悪メッセージの紙を見た。


まさかこの紙……


真っ白な紙には、バーカと書いてある以外に他には何かないのか?


そして、メッセージの書いてある紙をひっくり返して発見してしまった。


普通の人は読んでも分からないだろう。


だが私は分かってしまった。かなり小さいローマ字で紙の端っこに書かれていた。


『mao ga scenario wo kowasu mao wo syoukan shita mao yoroshiku @GOD』


「…………そうですね。外国語で分かりませんね」


そう言って慌てて紙を畳むと、胸ポケットに入れた。


真緒を召喚させるって、数年くらい先の事じゃないの?もしかして物語の開始時期を早めるってこと?


どうやらこれは自称神様からのお手紙?みたいだ。ヴェスファード殿下と緊急作戦会議をしなくちゃね!


そうして王城に戻った後、ヴェスファード殿下に例の紙の裏側を見せてみた。


「…裏に!?ローマ字!うむ……」


「圧倒的に情報不足ですが、真緒をもう召喚するということなのでしょうか?」


「解せんな……」


「ですよね!」


「バーーーーカ!とは俺の事か?あの付喪神めっ!!」


「……」


……そっちじゃない。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る