第28話 出かけませんって!
「もうそろそろ二人で出かけてもいいかもな~」
「……」
はい、リジューナはジュ・メリアンヌ学園に入学して一年が過ぎました。身長も伸びて体つきも若干の凹凸が生まれ始めています。
このまま無事に美ボディに育ってくれればよいのだけどね。
そして会うなり二人でお出掛け宣言している、私の婚約者でこの国の第一王子殿下で在らせられる、ヴェスファード殿下とのお付き合いも相変わらずです。
このオタクの暴走にも徐々に慣れてきた昨今……また発作が起こったようです、はい。
私は自分より随分と背が高くなってしまったヴェスファード殿下を見上げた。
殿下も私と同じモブなんだけど、益々美貌に磨きがかかってるわね~
「行くぞ、未知なる遺跡へ!」
「……またですか?え~と、遺跡とか討伐とかはマグリアス叔父様に反対されてませんでした?」
ヴェスファード殿下は、腰に手を当てると突然、高笑いをした。
また何か始まるのかな?
殿下は鼻息荒く、何かを『ぽいっとボックス』から取り出した。
私の目の前にズイィと差し出されたものは……クレジットカード?みたいだった。
「冒険者登録証?ランクB、ヴェスファード=キールドラド。あらっ?もしかして……」
「そうだっ!我、資格を得たりぃ!既に冒険者登録を済ませているのだ!」
何だか某ライダーの変身ポーズみたいなのをしながら、また高笑いを繰り出すヴェスファード殿下。これは褒めてあげる所よね?
「素晴らしいですわっ流石、殿下っ!」
わざとらしく声を張り上げて拍手してあげると、大きく頷きながらピースサインを向けて来る殿下。
王子がピースはやめろっ!
「これで遺跡も行き放題だし、ドラゴンも狩れるぞっ!一緒に狩ろうぜ!!」
いやさ……それってテレビCMで聞いたことあるわ。私でも知っている狩りのゲームのキャッチコピーでしょ?
「殿下ってば忘れてません?私は思いっ切り非戦闘員ですけど?」
ここでこの表現はおかしいかな?と思ったけど、私が戦えないことは事実だし。
「何を言っている、付喪神からスキルを貰っているだろう。聖女と同格の魔法が使えるはずだ!ホーリーを呼べっ!〇〇テマ〇〇ポンも一撃だっ!」
「そんなもの呼べるかっ!!!」
……いけない、また脊髄反射でツッコミを入れてしまったわ。
殿下のくだらない妄想に乗っかって同じ土俵に立っちゃ駄目よね。
殿下と睨み合いをしている私の傍に、ヴェスファード殿下付きの侍従のウォーレンさんが静かに近付いて来た。
因みにウォーレンさんは眼鏡男子だ。
そんな眼鏡な彼が私に何かを差し出して来た。
「『冒険者の手引』ん?」
ウォーレンさんが手引を開いて中の文章を指で指し示している。
その文章を読めって?
「え~と、『ギルド未登録者を危険を伴う依頼に帯同する際は同伴者はギルド資格、Sクラス以上の資格者で尚且つ、年齢が14才以上の者が同伴する事。これに違反すれば降格処分等の処罰が与えられる』あらあ?これはこれは……Sクラス以上で14才以上じゃなければ遺跡に入れないじゃありませんこと~ランクBで13才のヴェスファード殿下ではまだまだまだまぁだ、駄目ですわねぇ~」
「えっ!?嘘だろっ?」
ヴェスファード殿下はウォーレンさんから冒険者の手引をひったくると、冊子を必死で読んでいる。
あれ?冒険者になったのに今まで読んでなかったの?そう言えば聖ジュの小説も内容うろ覚えっぽい発言をいつもしていたよね?
これは、前世でも買ってきた電化製品の取説は読まずに、勘と経験側に基づいて家電を適当に使って最後は壊してしまうタイプなのでは?
「ちゃんと手引に書いてますでしょう?無理なものは無理ですよ」
ヴェスファード殿下は、悔しそうに手引と私の顔を交互に見ている。
「そうだっ!リジューナも冒険者資格を取ればいいんだ!」
「なんでそーなるっ!!……失礼」
また素早くツッコミを入れてしまって、眼鏡ウォーレンさんの鋭い眼差しを受けて慌てて謝罪した。
「冒険者も二人でなれば怖くない!」
「標語っぽく言うなっ!……再び失礼しました」
また眼鏡ウォーレンさんに睨まれてしまったので、素早く謝罪した。
このぅ次から次へと、ツッコミが間に合わないボケをかましてきてぇ!!
「取り敢えずさ~危険じゃない依頼について来る?本当は地味でやりたくないけど、薬草採取の依頼とかあるけど~?」
ヴェスファード殿下は心底嫌そうな顔をしながら、聞いてきたけど絶対行かない!!
「私、絶対っ行きませんからねっ!」
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絶対行きたくないって言ったのにぃ!!
「……はぁ」
数日後……私の隣には薬草に関する薀蓄をブツブツ語っているヴェスファード殿下がいた。殿下に半ば強引に連れ出されて、薬草採取の依頼の為に山に入っているのだ。
「異世界あるあるだが、薬草採取といえばポーションの素材を集める事だな!ポーションの他にはメガポーション、治療薬、万能薬、聖水などがド定番だな。万能薬の精製には、龍の目玉や妖精の羽など希少価値の高い素材が必要で、素材集めの為の冒険に出るのもファンタジーあるあるだよなぁ~……ん?」
先程からブツブツ言いながら地面をスコップで掘り返していた殿下が、手を止めて地面を見詰めている。
「どうしましたか?」
「何か土の中で硬いものに当たったな……分かったぞ!タイムカプセルだな!」
「……」
そう言ってせっせと地面を掘り起こしているのだけど、そんなものはこの世界にはねぇよ!!もしかしたら硬い系の魔物が埋まってるのかもしれないじゃない。
ガリッ!
私にも分かるくらいに地面の中でスコップとソレが当たった音がした。
「長き眠りから目覚めよっ!いでよタイムカプセルゥ!!」
「ちっげーーーぇよっ!!」
……ツッコミが追い付かない。
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