第27話 ファンタジーオタのせぇんぱい

私、リジューナ=オーデンビリアは10才になりました。


秋にジュ・メリアンヌ学園が決まったので今は入学準備に追われています。



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さて先日、ファンタジーオタのヴェスファード殿下が心躍らせる事件?があったらしい。


何でも魔術の授業中にソレは起こったらしい。


「魔力暴走だな!」


学園から歩いて五分の実家(王城)に度々帰宅?しているヴェスファード殿下にまた王城に呼び出されてみれば、殿下はそんなことを意気揚々と語り始めた。


「授業中に暴走なんて、危険なことですよね?皆さんお怪我は?」


「ああ、暴走主のオルン=テランディが手に火傷の軽傷のみだ」


「オルン=テランディ様……あ、小説の主要キャラの?」


どこかで聞いたことのある名前ね?と一瞬思ったが、なんてことのない『聖☆ジュシュリア〜愛♡も正義⚔も独り占め〜』の登場人物だった。


「ああ、そのオルンだ。思春期には魔力量の多い若者は魔力暴走が起こりやすいそうだ。これが主人公なら『覚醒イベント』扱いなんだがなぁ~」


む?また殿下のオタクスイッチが入ったのかな?


「主人公が魔力暴走を起して、聖女や世界一の魔術師に覚醒っっ!物語のスパイスとして外せないイベントだな!女主人公ならまず間違いなく『聖女覚醒』からのぉ~王族と婚約アンドォ~悪役令嬢との対決!ってところだな。男主人公ならチート魔術師ですがぁ~なにか?みたいな飄々キャラからのぉ~悪いぃ宰相とか極悪商人が気持ちいいくらい主人公にブッ飛ばされてからのツンデレエルフや僕っこ娘を入れてのハーレム物語の始まりだな!」


「……ズズッ」


あ~お茶が美味しい。流石ね、王宮で使われてる茶葉は良い茶葉ね。


「オルン=テランディの場合は魔力暴走で何かが目覚めた気配は無いし、残念ながら魔王覚醒にもならなかったみたいだな。あの真面目な男が魔王になったら面白いなぁと思ったんだがな!」


「…………ズズッ」


聞き流しそうになったけど、魔王なんて不穏なワードをブツブツ呟いているわね。基本早口でブツブツ言っている独り言は丸ごとスルーしていても問題は無いことに最近気が付いたけど、不穏な芽は早めに摘んでおいた方がいいわね。


またジョ?なんとか立ち?をしている、ヴェスファード殿下に向って微笑んで見せた。


「あら?この世界で主要な登場人物である、オルン=テランディ様が魔王だなんてシナリオ破綻とやらが起こってしまいませんこと?ヴェスファード殿下のようななら魔王や海賊になっても一切っシナリオに影響はなさそうですけど、一応シナリオに沿わなければ、ホラあの~シラヴェル侯爵夫人のように背中に乗られてしまいますわよぉぉぉ」


「…………」


どうやら、このオタク……ヴェスファード殿下は心霊系(神様だけど)の怖いモノが苦手かもしれない。自分で煽ってみて気が付いたのだけどね。


殿下はあきらかに顔色を変えてビクッと体を強張らせると、秒でロイヤルなソファーに座り直した。


「まあ……そうだよねぇ、ハハッ!付喪神が強制力を使っていきなり背後にいたら…………いや、もしかして寝ている時に胸の上に乗ってきたら?」


殿下は自分でどんどんと怖い想像をして怖くなっているようだ。いやぁ~妄想力が高いって素晴らしいわね。


「ほ~んとですよねぇ?付喪神の御意向に逆らってばかりいたら、夜中にフト目が覚めて白い顔をしたモノが自分を覗き込んでいたらこわ……」


「きゃあぁぁ!!…………ぎゃっ!!」


女子みたいな悲鳴を上げてヴェスファード殿下は二メートルは飛び上がった。多分、無意識で風系の魔法を使ってしまったんだろう。その反動で天井から吊り下げられているシャンデリアに頭から突っ込んでしまった。


給仕の為に室内にいたメイドと侍従から悲鳴が上がった。


「!」


しかし、直撃はしたもののヴェスファード殿下は無傷だった。これまた防御系の魔法が発動したようだった。


しかし、殿下を煽って怖がらせてしまったのは流石にいけないことだったと思い、一応治療魔法をかけてあげた。


私の治療魔法が床でうずくまる殿下の体を包む。殿下は驚いたような顔をして私を見上げた。


「これは……治療魔法か、もう使えるのか?」


「ええ、今年の秋には学園に入学ですもの、家庭教師に習っております」


モブの悪役令嬢とはいえ、現在はオーデンビリア公爵家の令嬢だ。学園に入って無様な成績を残すなんて、元オバサンのプライドが許さない。


「学籍に身を置くからには中途半端にはしませんので」


ヴェスファード殿下は嬉しそうに笑った後に叫んだ。


「それでこそ俺の永遠の宿敵ライバルだぁぁぁぁ!!!」


「私がいつお前のライバルになったんだっ!!」


…………あら?ついうっかり激しいツッコミを入れちゃったわ。


メイドと侍従がドン引きしているので、オホホと愛想笑いを浮かべた。


「あら?口がおかしなことを口走りましたね。まあ嫌だ、魔物にでも取り憑かれちゃったのかしら~」


言い訳を呟いていると、更にドン引きされてしまった気もするが今更か。


「さあ、宿敵ともよっ!いざ目指さんっ魔術の高みへっ!」


「一人で行っておけっっ!!!…………はっ!?失礼……」


殿下の小芝居につられてまた荒ぶってしまったわ、おほほ。


私までこんなファンタジーオタクと一緒だと思われたくないから言動には気を付けないと。



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