第26話 年取ると疑り深くなるんです


シラヴェル侯爵夫人がぶっ倒れてしまった為に、お茶会は中止になった。何でも夫人の体に余剰魔力が溢れてしまい、魔力過多症候群という重篤な病になり長期療養が必要になってしまったそうだ。


このままいくと、エラウリーナ=シラヴェル令嬢とジルファード殿下の婚約は白紙になるだろう、と私室で二人きりなった時にヴェスファード殿下に告げられた。


「白紙ですか?」


「シラヴェル侯爵が療養する夫人に付き添って自領に戻られるそうだ。エラウリーナ嬢だけ王都に残って王子妃候補として生活するのは王家としては好ましくないという事だ」


好ましくない、やんわりとした言い方だけど……


「つまり、両親が揃ってないと問題があるということですね」


「まあどこの世界でもあることだな。両親共々田舎に隠居してしまい、子供だけで社交は難しいと判断された訳だな。腹黒狐と性悪狸ばかりの貴族の中で、あの大人しい令嬢が上手く立ち回れると思えないしな」


腹黒狐と性悪狸……言い得て妙なんだけど、貴族のおじさま達もこんなファンタジーオタに言われたくないよねぇ?


ヴェスファード殿下は『ぽいっとボックス』から小説を取り出して、中ほどのページを読んでから溜め息をついている。


「しかし、あの時間停止の魔術のようなアレは何だったのかなぁ。魔術かな~と思ったけど、違う気配を感じるんだよな。おまけに夫人は自分の出した魔力を吸い込んで倒れちゃうし、謎だな」


そのヴェスファード殿下の言葉で思いっ切り忘れていたことを思い出した。


「あっそういえば!時間停止中に、あの胡散臭い神様がいたんでした!」


「……え?胡散臭いってあの、付喪神のこと?」


キョトンとした顔をした後に、訝し気な表情を浮かべるヴェスファード殿下。


「俺は見なかったけど?」


「私は見ましたよ?」


「あんな所に?」


「いましたよ!」


「……」


とんでもない不信感ありありの目で私を見ている殿下。年取っちゃうと疑り深くなっちゃうのかなぁ、おじいちゃん!


「絶対いましたよ!」


「そんな馬鹿なっ付喪神はこの世界に干渉出来ないはずだ!だからこそ異世界からチートを貰って転生者が世界の改革を行うんだっファンタジーの常識だ!」


…………いやそれ、あんたが勝手に言ってるだけだし?オタクの常識が世の常識と合ってると思わないでよ。


「はぁ……私が見たのは、自称神様がシラヴェル侯爵夫人の背中に乗ってニタニタ笑っていた姿で、え~ともしかすると自称神様が夫人に何かしちゃったので夫人が倒れちゃったのかな?と思うのですが……」


ヴェスファード殿下は唸りながら考え込んでいる。そしてポンと膝を叩いた。


「分かったっ!シナリオの強制力だなっ」


んん?シナリオの強制力……どういう意味だろうか?そうだ、ウキウキペディで検索をしてみよう。ん~?強制力はつまり……


「力あるものからの強権ということですか?」


ヴェスファード殿下に尋ねると、殿下は前のめりになった。


あ……これは何かスイッチ押しちゃったみたい?


「そうだっ!力あるもの、この場合はシナリオつまりはあの付喪神の介入という訳だな!シラヴェル侯爵夫人が倒れたのも、そのシナリオを正そうとしての神の強制力が発動したせいとみて間違いない!」


……いやさっき、自称神様は干渉出来ないとか言ってたじゃない?


「恐らくシラヴェル侯爵家がジルの婚約者になると『シナリオ破綻』が起こると付喪神が判断して修復したのだろう!神の世界への介入っ!ファンタジーものの、あるあるイベントだな!」


……いやだからさ、あんた最初は介入出来ないとか断言してなかった?


まあいいか。ここで下手に否定したら、ネチネチ絡まれるのが目に見えているし。


実際、自称神様がシラヴェル侯爵夫人の背中に乗っかってたのは事実だし。


「……」


あれ?本当にアレが背中に乗ってたよね?こっち見て笑ってたよね?う~ん、時間が経つにつれて自分の記憶が怪しくなってきた気がする。


本当にあそこにいたよね?え?もしかして見間違い?それとも……


「……老眼かしら」


「なぁに?俺が老眼だってぇ!?」


「違います」


一人の世界に入ってブツブツ言ってたと思ったのに、耳敏く聞き漏らさないなんて、どこかの粘着質な姑みたいじゃない。


変な方向性のオタクな分、一般的な姑さんより質が悪いのかもしれないね。



°˖✧ ✧˖° °˖✧°˖✧ ✧˖° °˖✧°˖✧ ✧˖° °˖✧°˖✧ ✧˖° °˖✧



後日、ジルファード殿下とエラウリーナ=シラヴェル令嬢の婚約は白紙になった。


どこかの某王子は、神の介入だ!これが物語の修正力だ!とか騒いでいたけど、最初の頃はそんなこと言ってました?


若干自称神様のこと、小馬鹿にしたような発言をしていた気がするけど?


「俺達は神の修正力を目の前で体験出来た訳だ!流石この世界の神だなっ!」


調子いいこと言っちゃってるよ。


もし自称神様がこの世界に介入出来るなら、どこかの某王子に天罰与えてやって下さいな。あまりむごいのは流石に可哀相なので、頭に盥を落っことす程度で大丈夫ですので。

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