第38話 隔世遺伝ってあるよね~

「何か出ちゃった……」


自分の手を何度も視るが、魔力の痕跡は薄い。確かめようとジーッと見ていると、急に手元に影が出来て暗くなった。


恐る恐る顏を上げると、小山……もとい、レヴァクーダ公爵閣下が私を見下ろしていた。


リアル金剛力士像みたいだ……


「リジューナ嬢……今、何をしたのかな?」


「……」


怖い魔力を放ちながら金剛力士様が聞いてきた。


怖すぎて目が泳いてしまう。


すると、ヴェスファード殿下が傍まですっ飛んで来てくれた。


わあ、流石ヴェスファード殿下だね。私を助けてくれるのね?


「おじい様!先程のリジューナの術は、えっと~私の……私の…………私の妙技の一つですっ!」


お前っ来るだけ来ておいて何も考えてなかったんかいっっ!!


金剛力士とオタクとおばさんの……まさに三竦み状態!


どうしようと冷や汗が背中を流れ出したその時、救世主が現れた。


「閣下、リジューナは亜空間を連結……え~と『マジックバッグ』を掌の上で作り出したと言えば分かりますか?そこへ魔物を収納したように思えます」


「ネイサン義兄様!」


そう……ナミア姉様の旦那様、私の義兄で未来の魔術師団長のネイサン義兄様が、今回の討伐に同行していたのだった。


因みに、先程の説明の中にあった『マジックバッグ』というのは私とヴェスファード殿下が所持?している加護の『ぽいっとボックス』の縮小版のようなもので、この世界で開発された鞄型の収納量制限付きの魔道具鞄の名称だ。


え?それはもしかして私って無意識に『ぽいっとボックス』を発動しちゃったの?それなら収納されちゃったのにも納得だけど……でも何か忘れてる気がする。


「うむ……マジックバッグか?それを掌の上に展開しただと?そんなことは可能なのか?」


おおっ!金剛力士様がネイサン義兄様の言葉で納得してくれたみたいだ。


ネイサン義兄様は私に向かって柔らかな笑みを見せてくれた。


「はい、理論上は可能です。リジューナは幼少の頃より治癒魔法が扱える才能がありました。魔力量も潤沢で術式の構築さえ出来れば亜空間形成魔法も扱えるはずです」


未来の魔術師団、団長様っ!ネイサン義兄様っ流石っ!


レヴァクーダ閣下は、見事に義兄に丸め込まれたようだった。


「そ、そうか……では魔物はリジューナが亜空間に閉じ込めたのかな、うん」


レヴァクーダ閣下は納得したのか、何度も頷いている。


よしっ!


ネイサン義兄様を見ると私に向かってサムズアップしている。サムズアップ?……小説の世界は何でもアリだな。


そしてゴタゴタはあったけれど、仕切り直してサクライマホと神官達は軍人のお兄様が生け捕りにした魔物を持って来たので、その魔物(ウリ坊みたい)に浄化魔法をかけてみることにしたようだ。


それにしてもウリ坊を入れているあの網は考えたわね、あの方法ならサクライマホでも怖くないわね。


「なんだよ~あんな洗濯ネットに入ってる魔物で練習するのか?ドラゴンの討伐に来てるのに意味ねぇよ~」


私は木陰に置かれた簡易椅子に座って、だらけているヴェスファード殿下の膝をぴしゃりと叩いた。


「殿下っ!なんて口の利き方ですか!それに何度も言ってますが聖女様は争いとは無縁な生活をしていたのですよ?それをいきなりあんな生き物を殺せと言われて、怖がらない人がいますかっ!それと念の為に申し上げますと、あの網は洗濯ネットではありません!魔物の爪でも破れない、八手蜘蛛の糸で編んだ捕獲用の魔道具です!」


「……リジューナ、オカンみたい」


私はカッとなって、同じく座っていた簡易椅子から勢いよく立ち上がった。


「オカンで構いませんよっ文句がありますか!?」


ヴェスファード殿下はジト目で私を睨んでいる。


ふんっオタクに睨まれたって一ミリも怖くは無いわよ?元アラフィフお局だ、元役職付きのやり手ババアだよ。怖いのはシミとシワと老後の孤独死くらいなもんだよ!


そんな不毛な言い争いを続けている間に、サクライマホが洗濯ネット……ではない魔物捕獲ネットに向かって浄化魔法をかけようとしていた。


私とヴェスファード殿下は睨み合うのを止めて、サクライマホを見詰めた。


気が付けば、周りの討伐関係者が大勢、固唾をのんで見守っていた。


サクライマホは両手を前に突き出すと、足を開いて踏ん張った。


よしっポーズは中々決まってるね。そのまま手に魔力を集めて……


「えいっ!!」


見ている私達の方も手に力が入った。


思わずサクライマホの掛け声と同時に前のめりになった。周りで見ている何人かは、私と同じようにガッツポーズのまま前のめりになっている人がチラホラいる。


そうして踏ん張ったサクライマホの手から放たれた浄化魔法は、白い塊になってヘロヘロ~ッと飛んでいくと、ウリ坊もどきの魔物にフワリと当たった。


「プギャァ!!」


ウリ坊が叫んだ。


「やったか?」


皆がウリ坊を近くから覗き込もうとしていた。私も堪え切れずに捕獲ネットに近付いた。


ウリ坊は……ウリ坊は…………比較的元気に?捕獲ネットの中で暴れていた。


「浄化……されてない?」


「いやでも、当たって痛みは感じてるみたいだよな?」


周りのお兄様方の仰る通りフワリとゆる~く飛んで行った浄化魔法は、確かにウリ坊に当たった。


しかし当たってはいたが、どうやら致命傷にはなっていないみたいだった。


先程、リズムを蹴散らせていたヴェスファード殿下の火炎魔法に見せかけた浄化魔法ではリズムの体に触れた途端、一瞬でリズムが消えていたと思うけど……どういうこと?


「浄化魔法が効いていないのかしら……」


呟いた私の後ろでヴェスファード殿下がまた、嫌トメを攻撃をして来た。


「あんな、へなちょこ魔法で魔物一匹も倒せないなんてさぁ~あいつやる気あるのか?」


「こらっ殿下!!…………失礼」


マグリアス叔父様にジロリと見られたので、王族に対して不敬だと言われる前に素早く謝罪しておいた。


サクライマホは姑殿下を睨みつけると、こちらは不敬を物ともせずに指差して来た。


「うるっさいわ!!お前なんて〇ゲちまえっ!!」


よくある子供が囃し立てる言葉の一つだと思う。しかしヴェスファード殿下にはシャレにならない事実がある。


何と言ってもヴェスファード殿下とジルファード殿下のお爺様である、前国王陛下は一本だけチョロ毛が残ってる、某波〇ヘアーなのだからぁぁ!!


隔世遺伝ってあるかもね☆なんて口が裂けても言えないこの状況で、ヴェスファード殿下は顔を真っ赤にして若干、泡を吹いていた。


「§※……っ!おまっ△◇っ!!」


ヴェスファード殿下が何かを叫びながら怒って、怒りの魔力を放出していると……山の向こう側から激しい咆哮が聞こえた。


ほら見なさいよ……煩く騒ぐからお目当てのドラゴン来ちゃったんじゃないの?

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