第24話 推しの顔合わせ
縦巻きロール女がジルファード殿下の婚約者だぁ!?認めんっそんなのは認めんぞっ!三百歩譲って、性格が良ければ縦巻きロールだけは許してやらんこともないけど……
「こんな派手派手なんてどういうこと?そ……そうだ、『トッチャ』でこの子の真実の姿を映してもらいましょう。HEY!暗部!」
私が扇子で部屋の四隅をビシリと差すと、ユラリと魔力の揺らぎが起こり壁の中から若い男の子がユラリと現れた。
透過魔法を解いて現れたのは、これと言って特徴の無い不細工でもなければ美男子でもない、普通という印象を受ける男の子……これがヴェスファード殿下付の影の護衛……暗部の副隊長なのだ。
木を隠すには森の中、暗部に所属するにはどこにでも馴染める凡庸な容姿が必須なのかもしれない。
「リジューナ様……あえてツッコミませんけど、私はヴェスファード殿下付なんですが」
「エアル、トッチャでエラウリーナ=シラヴェル様のお姿を撮って来て」
「いや、あのですね……」
私がエアルと呼んだ彼、暗部の副隊長はチラチラとヴェスファード殿下の方を見ている。そんなエアルに向かってジルファード殿下が声をかけた。
「そんなことしなくても、来週に顔合わせのお茶会があるよ。よかったらリジューナも来て直接……」
「絶対参りますわっっ!!」
鼻息も荒く、ジルファード殿下に元気よく答えた
私を見るヴェスファード殿下の白けた様な眼差しが気になるけど、気付いていないフリをした。
ジルファード殿下が退席した後に、ヴェスファード殿下に愚痴られた。
「顔合わせにわざわざ行かなくてもいいんじゃないの?確かに個性的な髪型と子供なのに厚化粧なのが気になるけど」
私はお茶のおかわりを一口頂いてから、ヴェスファード殿下を見据えた。
「殿下、私は何も厚化粧が気になるだけではないのですよ?エラウリーナ=シラヴェル様がご自身の意志で派手な装いが好みなら、それはそれで構わないのです」
「と、言うと?」
ヴェスファード殿下は表情を変えると、私を見た。
「侯爵家のご両親も付き添いで登城されるはず……そこで家族関係を見てみたいと思います」
ヴェスファード殿下が少し目を閉じてから、カッと目を見開いた。
「ジルファードの嫁になる女子だ、侯爵家とも親戚になるのだからよく見極めねばな」
そうそう、子を見ること親に如かず!ヴェスファード殿下分かってらっしゃる!
あのド派手なドレスとメイクを小さな女の子が自発的にしているのか、どうか……見極めてやろうじゃないか!
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そうして翌週、エラウリーナ=シラヴェル侯爵令嬢が母親に付き添われて来た。
あぁ、あの肖像画は誇張してかかれてたんだねぇ~と言わざるを得ない、大人しめなお嬢さんがそこには居た。
勿論、攻撃的な縦巻きロールと厚化粧はそのままなんだけど、エラウリーナ様は年相応な女児だった。カーテシーも上手く出来ず、声が小さい。まあまだ8才だし、普通はこんなものでしょうね。
うちの推し(ジルファード殿下)は、根気よく優しくエラウリーナ様に話かけてくれてはいるが、彼女からの返事は一言で終わってしまい、中々会話は続かない。おまけにジルファード殿下が何か一言話す度に、合いの手を入れてくる人がいる。
「そうなのですわ!殿下の仰る通り!ほらエラウリーナもそうでしょう!?流石殿下ですわぁぁ!」
いやいや?オカンには聞いてないし?
こうやってシラヴェル侯爵夫人が最初からずっーと合いの手をいれてくる、正直鬱陶しい。そんなオカンの独り舞台の間、エラウリーナ様は俯いて頷いているだけだ。
シラヴェル侯爵家のオカンは、前へ前へ出て来るタイプなんだね~
さて、困ったぞ?こんな状態の令嬢が将来のジルファード殿下の嫁だって?これから先もジルファード殿下がオカンに気を使って気を使って、神経すり減らして……
将来、禿げ散らかしてしまったらどうしてくれんのよぉ!?
しかしこれは問題だなぁ。これから先はジルファード殿下に、この出しゃばりババアが(まだ20代だけど)引っ付いてくるってことよね?
横目でヴェスファード殿下を見ると、殿下も眉間に皺を寄せてジルファード殿下とエラウリーナ様を見詰めている。
私という物語の悪役令嬢が、ヴェスファード殿下の婚約者になってしまった為に、この煩い姑がくっ付いて来る侯爵令嬢が新たに選ばれてしまったのかな?
責任感じちゃうな……
「でも、この子じゃ……」
思わず呟いてしまったら、ヴェスファード殿下はその声を拾ってくれていたようだ。
「そうだな。ジルに破棄された後、この母親がかなり煩そうだな」
そう、流石ヴェスファード殿下はよく分かってらっしゃる。
私は侯爵夫人を改めて見た。
私の目には、生き物から発せられる魔力のオーラのようなものが見えている。人間も体から魔力のオーラを出しているのだけど、健康な人と不健康な人では色とか輝きが違うんだよね。
侯爵夫人は魔力の色が暗い色だし、おまけに体中から魔力が触手みたいにうねり出ていて、くねくねと周りで動いている。
母親の体のどこかが悪いのか、それとも精神的に不安定な人なのか……ここでは判断できないけど、エラウリーナ様に視線を向けた時に発せられる魔力が、黒くとぐろ撒いて蛇のようにエラウリーナ様に流れて行くのが見えている。
エラウリーナ様を縛り付けているみたいで、気持ち悪い。
エラウリーナ様も絡みつく魔力を感じているのか、表情を硬くしてひたすら俯いている。
もしかするとこの母親は、エラウリーナ様を怯えさせていることをしているのかもしれない。そんな魔力の動きを見せている。益々、こんな母親が付いて来る令嬢を推しに近付けるのは避けたいところだ。
「排除するか……」
私の心の内を読んだかのように、ヴェスファード殿下が小さく呟いた瞬間だった。
何か、空気が重くなった気がした。
「え?何?」
思わず口に出した時に気が付いた。
ジルファード殿下もエラウリーナ様も、そして煩い侯爵夫人も……
皆が一時停止しているみたいにその場で止まっていたのだった。
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