第23話 聞いてませんよ?

ナミア姉とネイサンの件をヴェスファード殿下に報告してから2日後、ヴェスファード殿下から呼び出しを受けて登城した。


ヴェスファード殿下は私と会うなり


「リジューナの言っていたネイサンは小説の中にどれくらい登場しているのかな?」


と言って『ぽいっとボックス』から小説を取り出して、読み始めた。


私も同じく小説を取り出して登場人物紹介ページを見た。


ネイサンのイラストをもう一度確認した。


うん、口元に黒子のある色っぽいお兄さんだ、先日の高校生のネイサンの数年後の姿で間違いない。


え~と、今の段階でフリーだと思われるキャラクターは……推しのジルファード=キールドラド第二王子殿下。そしてオルン=テランディ侯爵子息。リック=ソノバ伯爵子息の3人だ。


そして婚約者が居るネイサン=イコリーガ辺境伯子息と、既に既婚者のマグリアス叔父が残りの2人ね。


「う~んこれと言って、既婚者だと分かるような文章は無いな」


ヴェスファード殿下の声に、ハッとして本を閉じて殿下の方を見た。殿下は本を閉じて、『ぽいっとボックス』に戻している。


「しかし、ネイサンの登場からの前後を読んでみても、この主人公の真緒?の言動が怖いなぁ」


ん?怖いってどういうこと?


ヴェスファード殿下は暫く唸っていたが、何て言うか~と言いながら説明してくれた。


「こうなんだと思うな!とか、こうあるべきよね!みたいな文章の表現が多いと言うか……」


「ああ~なるほど、殿下の言いたいこと分かりますよ。それって多分、この小説の作者の癖というか表現方法みたいなものだと思います。これ、前作の聖☆ジュシュリアですが、これでも『マグリアスが私を庇ってくれた。きっと私の為よね』とか、主人公目線の愛されてる私!みたいな文章が多いですよ」


ヴェスファード殿下は頷きながらお茶を一口飲むと、私が差し出した前作の小説を受け取って読み始めた。


そして数分後パタンと本を閉じると、一言言い放った。


「夢小説だな」


「はい?」


「読み手が主人公と同一化して物語を自身の体験に置き換えて進める手法だ。つまり読み手が主人公になったつもりになれる小説という訳だ」


ヴェスファード殿下の言葉を頭の中で整理していく。


「私から見たら癖の強い性格の主人公に見えるのですが、それでも読み手は感情移入出来るのでしょうか?」


「この主人公を良しとする読み手には嵌れば嵌るだろうな~小説だが女性向けの恋愛ゲームのような内容だな、そう言えばゲーム化してないのかな?『ウキウキペディ、聖☆ジュシュリア ゲーム化』検索」


ヴェスファード殿下はウキウキペディの画面を開いて、ゲーム化について調べている。


それにしても世代の感覚の違いなんだろうか、小説の中の主人公達のポジティブと言っていいのか分からないけど、前向きな性格がどうにも理解出来ない。


「私の年のせいかしら……ついて行けない」


「よせよ~今の見た目でそんなこと言ってたら、周りの大人達が困惑するだろ?」


「分かってますけど……」


ヴェスファード殿下はウキウキペディを閉じたようだ。


「ゲーム化はまだみたいだなぁ~」


そう言えば、私が前に調べた時もゲーム化計画中みたいな検索がひっかかったよね?


「そのゲームになったら内容も小説と一緒なんですかね~恋愛ゲームだと誰かと結婚とかの結末なのですかね?」


私がヴェスファード殿下に尋ねた瞬間、ヴェスファード殿下が、あっ!と声を上げた。


「あ~結婚で思い出した、実はなジルファードにも婚約話が持ち上がっているんだ。相手は……」


推しの婚約っ!?


「ジルファード殿下がですかっ?めっちゃ早くないっ!?てかっ相手は誰っ!?えっ?侯爵家のエラウリーナ=シラヴェルゥ!?どんな子っ?ジルファード殿下のお相手なのよっ私が認めた女じゃなきゃダメだよっ!はあっ!?よく知らないぃ?何を吞気なこと言ってんのよっ!!今すぐちゃちゃっと調べなさいよ!!」


「…………………………はい」


私が扇子を振り回してヴェスファード殿下をビシビシと指し示すと、差されたヴェスファード殿下は渋い表情を浮かべながらも部屋を出て行った。


そして数分後……


「きゃあ!!推……違っ、ジルファード殿下!!」


ヴェスファード殿下と共に現れたジルファード殿下のお姿に、歓喜の声を上げながら思わず扇子を開いて、振り回した。


違う……コレジャナイ。これでは某〇ュリアナ〇ウキョウのお立ち台のお姉様ではないか……団扇が欲しい。ハート型の推し団扇っっ!!


私が団扇を欲して身悶えしている間に、ヴェスファード殿下に促されて私の対面に座られた推し。


本日の推しも大変に可愛らしゅう御座いますね。


「私の婚姻相手が知りたいって聞いて……リジューナは会ったことないの?」


ジルファード殿下に聞かれて、思い浮かぶご令嬢の顔と名前を一致させていったが、やはり姿形が記憶に無い感じだ。


「直接ご挨拶させて頂いたことは、無いかもです」


ジルファード殿下はコテンと小首を傾げた。


「そうだね、一言で言うと派手な子だよ」


「は……派手?」


思わず繰り返してしまったが、ヴェスファード殿下が分厚い冊子を私に差し出してきた。


「姿絵だ。写真があれば便利なんだがな~こういう絵は誇張されて描かれているものが多いしな」


姿絵……肖像画ね!


どれどれ、どんなご尊顔なのかなぁ~私の推しの隣に立つからには当然っ絶世の美女じゃなきゃ許しませんよぅ!勿論、顔だけなんてのは駄目よぉ~性格も穏やかで楚々としていてぇ……


冊子を開いた私は見た瞬間、固まった。


「お〇夫人……」


その肖像画に描かれていたのは、ものすごく攻撃的な縦巻きロールの髪型に、ファンデーション塗りたくっている真っ白の顔に真っ赤な口紅を塗って、どこの女王様やねん!みたいなド派手なドレスを着た…………幼い女の子がいた。


嘘でしょ?こんなへんてこな女児が私の推し、ジルファード殿下の婚約者ですって……


眩暈がした。


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