第22話 悪役令嬢の姉、ヒロインの恋愛フラグをへし折る

姉、ナミア17才は美人だ。それはもう、うっとりするくらいの美人だ。見た目精霊、中身も精霊……のほほんとしているパパン似の美人だ。


そんな姉が、実家(公爵家)に男を連れて来た。


「ネイサン=イコリーガと申します」


私に向かってにっこりと微笑んだ男の人は、目の覚めるようなセミロングの銀髪に黒曜石のような瞳の口元に黒子のある、とても色気のある人だった。


いやちょっと待て?


この色っぽい男子は、ネイサン=イコリーガと名乗らなかったか?


聖オトメ☆ジュシュメリ~愛♡も正義⚔も独り占め~の、主要登場人物の未来の魔術師団長のネイサン本人なの!?


こ、こんな顔だったっけ?(ババには若い子の顔は全て同じに系統に見える)……後で、キャラクター紹介のページで本人かどうかを確認しておこう。


「いやぁお噂通り、可愛いご令嬢だね~」


「ええ、そうでしょう!リジューナはね~とても賢くて……」


ナミア姉は、上機嫌で私を褒め称えてくれている。そんなナミア姉を優しく見詰めるネイサン=イコリーガ。


そして、自然にナミア姉の腰に手を回しているネイサン。


あれ?もしかして……この二人、付き合ってるの?え?ネイサンは、小説に登場する主要イケメン様だよね?


そうだっこの状況の説明が出来る大人はっ?


私は慌てて周りを見回した。


……兄は寮生活の為、現在不在。


……ママンはお友達のご夫人とのお茶会に出席の為、これまた不在。


……パパンは、お仕事で外出中で恐らく不在。


未婚の男女が実家に来て、玄関先でただならぬお色気の気配を醸し出しているのに、ツッコんでくれる大人がいない為、幼女の私がツッコミの立ち位置に居る訳だが……


「ナミア姉様はそちらのお兄様とお付き合いしているの?」


えーい!仕方ない、幼女ならではのド直球で聞いてやるぜっ!


「ま、まあ……」


ナミア姉は顔を赤らめている。これは怪しい……


ネイサン=イコリーガは私の前に腰を落とすと、私と目線を合わせて微笑んだ。


「そうだな~リジューナ嬢は、もう少し大人になったら分かるかな~」


いやもう十分中身大人だからっ!もう隅から隅まで分かってるからっ!


まあ、ナミア姉とネイサンのこの反応から察するに、二人はお付き合いをしているんだと思われる。


それはそれとして……イコリーガ家、確か王家筋の辺境伯家だっけ?まあ、家格的にオーデンビリア公爵家と結婚しても問題はないだろうけど、現段階で付き合ってはいるけれど、10年後はどうなってるんだろう?


小説の中で、ネイサン=イコリーガ魔術師団長が既婚者だという匂わせ発言は無かった気がする。


ということは、将来的にはナミア姉とネイサンは別れるのかな?


なんだか辛いな、若い頃の恋愛は刹那的というしね……


「ふぅ……」


私が二人を見詰めながら溜め息をついていると、ナミア姉が声をかけてきた。


「あら?リジュどうしたの?」


「お腹空いたんじゃないの?」


ネイサンよっ空腹ではないっ!断じてないっ!


そうこうして、イチャイチャカップル(死語)が帰って行った後、入れ替わりにママンが帰って来たので急いでママンに報告を入れた。


「あら?二人で来ていたの、あらら?そうなの?」


ママンは驚いてはいるようだけど、どうやらあの二人の仲に関しては知っているような雰囲気だった。


「お母様、知ってた?」


「ん~そうねぇ、ナミアが14才の時にイコリーガ家から王家を介してネイサン様との婚約の打診を受けたのよ」


おおっ王家経由の婚約打診だったんだ!


「ナミアとネイサン様の顔合わせも済ませてはいるけど、ずっとお友達の延長みたいなお付き合いだと思っていたけど、リジューナの前で二人でくっついてたの?」


ママンの言い方っ!


「仲は良さそうだった」


「そう……じゃあ何も心配いらないわねぇ~うふ、このままいけば卒業と同時に婚姻でもいいわね♡」


あ……そうか!あれ?ということは、このままいけば小説の中で主人公の周りにいるイケメンズの二人(マグリアス叔父、ネイサン)は既婚者になってしまうのでは?


なんと悪役令嬢の姉がヒロインの恋愛フラグを折ろうとしているようです。


そうだ、小説の中ではジルファード殿下とくっつく設定みたいだし、ネイサンとナミア姉の場合は略奪じゃないよね?


しかし既婚者に囲まれる、主人公の聖女かぁ。小説の傾向としては不倫ものはマズい気がするけど、まさかジルファード殿下の方は大丈夫なのかな?


これも後日、ヴェスファード殿下に要確認だね。


そうして、直ぐにヴェスファード殿下に手紙を出して事の次第を報告をしておいた。


小説のストーリーが始まるのが約10年後……それまでに自由に過ごすつもりだけど、気が付けば自分達以外の周りの登場人物達も予想外の動きを見せてきている。


このまま何事も無く小説の物語が始まるのだろうか?



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