第21話 推せる……っ!

メインヒーローのジルファード殿下はガチで可愛かった。


重要なことなのでもう一度言うと、ジルファード殿下は神がかった可愛さだった。


「リジューナ、これ美味しいね」


「まああああっそうですかっそうですかっ!こちらのシュークリームもどうぞっ」


私が差し出した苺味のシュークリームを満面の笑みを浮かべて受け取ってくれる、まだまだ子供のジルファード殿下。


可愛いねぇぇ~すっかり孫を見るような感覚でジルファード殿下を見てしまう。


「おいっ何だか俺に対する態度と違うな?」


ジルファード殿下が仔栗鼠のように頬袋にお菓子を詰め込んで、モグモグ食べている姿を愛でる私を見て、明らかに機嫌の悪いヴェスファード殿下。


「ヴェスファード殿下とは可愛さの方向性が違いますからねぇ」


「何だそれ?可愛いに方向なんかあ……」


「兄上も食べる?あ~ん」


無邪気なジルファード殿下が、無意識なのか?苺シュークリームを刺したフォークであ~ん攻撃をヴェスファード殿下にブチかましてきた。


「ぅお……?」


「兄上、クリームが垂れちゃうよ!あ~ん!」


暫く葛藤していたヴェスファード殿下だったけれど、ジルファード殿下の可愛い圧に負けて口を開けて、あ~ん攻撃を受け入れた。


「兄上、美味しいでしょ?ねっ?」


コテンと首を傾げてヴェスファード殿下を見詰める、もうすぐ9才の天使。


はぁぁ~ジルファード殿下、可愛すぎて推せるっっ!!


元々小説の中のメインヒーローだし、容姿は抜群に良いのよね~勿論、性格も温厚で優しいし。どこかのファンタジーオタとはえらい違いよね~


「将来のイケメンの片鱗を見せつけてくれるわね~」


「……」


ヴェスファード殿下がジト目で私を見ているけど、気にしない!気にしない!


「ねぇ兄上、ジュ・メリアンヌ学園での生活はどのような感じですか?」


ヴェスファード殿下は可愛い弟の問いかけに、ジト目を止めて答えてくれた。


「初等部の生徒会長が俺にウザ絡みしてくる以外は楽しいよ」


ん?初等部の生徒会長……って確か……?


「ラナニアス=オーデンビリア子息がウザイ」


うちの兄やんけーーー!!ラナ兄ぃ何やってんだよぉ!?


ヴェスファード殿下は大袈裟に溜め息をついて見せた。


「どうせ嫉妬乙だろ?俺が妹の婚約者だからだと思うよ。ラナニアスってシスコンかな?」


シスコン?いやぁ……どうだろ?


マクシミリアンパパンとラナニアス兄は二人してヴェスファード殿下を若干、あくまで若干だけど嫌っているような態度をしている時もあるけど、シスコンねえ?


まあ、だけどジュ・メリアンヌ学園での気になるところが、ラナニアス兄の粘着(と、言っていいのか分からないけど)だけなら、まあ概ね順調な学生生活じゃない?


「あ~でもそんな兄の煩わしさも後、半年くらいじゃないですか?」


私がそう言うと、ヴェスファード殿下は再びジト目で見てきた。


「何故、半年だって分かるんだよ?」


殿下さては、入学の手引をしっかりと読み込んでないね?


「え~?だって入学の手引きに書いてありましたが後、半年もすれば次期生徒会候補の推薦が決まりますよね?どうせ次期生徒会長はヴェスファード殿下で決まりですよね?」


ヴェスファード殿下はそれに気が付いたのか、途端に表情を曇らせた。


「あっ!……そうか……忖度」


「はい、そうですね~」


「リジューナ、そんたくって何?」


ジルファード殿下がまたコテンと首を傾げて私を見てきた。


くううぅぅぅ~~!可愛いっっ!!!


でも、忖度ね……なんて答えようかな?と、考えているとヴェスファード殿下が私より先に答えてしまった。


「王族や高位貴族のご機嫌取りの為に誇張して嘘をつかれること……かな?」


嘘ねぇ、まあ間違いはないけど実際はもっと大人の事情がたっぷり含まれた、忖度だろうけどね。


「嘘か……嘘はいけないことだよね、リジューナ」


「はい、そうですね」


キラキラした瞳で私を見て来る、ジルファード殿下。


くうぅぅぅぅっ……推せる!推せるわっ!


前世では「推し?そんなもんで飯が食えるかっ!」とか、推し活をしている友人を鼻で笑っていたけれど、半世紀をかけてやーーっとやーーっと分かったよ。


これが推し活!!


「ヴェスファード殿下、推し活って素晴らしいですね!」


主語もすっ飛ばして、推し活素晴らしい!を口にした私にヴェスファード殿下は首を捻った。


そして急に笑顔になった。


「推し活?……アーハハハッ!!」


「!?」


突然に高笑いを始めたヴェスファード殿下に驚いて、ジルファード殿下と二人で固まっていると、高笑いを終えたヴェスファード殿下はズビシッとご自分を親指で指し示した。


「リジューナがやっと俺の魅力に気が付いたと言う訳だな!!どうだっ!存分に推しを崇め奉れっ!」


「…………違います、推しはジルファード殿下です」


部屋の中にピュ~ッと冷風が吹いた気がした。ヴェスファード殿下は顔を歪ませて何かブツブツ言っている。


そんなこの世の終わりみたいな顔されても、正直困るわ。


だって、ホントのことだもの。王族だからって忖度はしないわよ?


だって嘘はいけないことだもんね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る