第20話 寮生活のお約束
ジュ・メリアンヌ学園とは『聖オトメ☆ジュシュメリ~愛♡も正義⚔も独り占め~』に登場するヒルジアビデンス王国が誇る、10才から18才まで貴賤問わず才覚ある若者が入学出来る名門校だ。
ヴェスファード殿下も10才になったので、今年の秋の入学が決定している。
「入学試験とかあるんですか?」
私と殿下の定例会議、もといお茶会の席でヴェスファード殿下に詳細を聞いてみると『ぽいっとボックス』から本を取り出して、差し出して来た。
「入学の手引だ、読んでみてくれ」
ヴェスファード殿下から手引きを受け取り、読んでみた。
ジュ・メリアンヌ学園の入園式は9月1日、入寮は入学年の8月から可能。学園に在籍中は全学園生は必ず寮で生活すること、その際使用人を3人までなら連れて来ることが許可されている。
初等部(10才~14才)と高等部(14才~18才)の二部に分かれており、初等部は魔術と剣術、体術、基礎学力マナーなど基礎を学ぶ。高等部から専門学部ごとにクラス分けがされており剣術課、魔術課、国専課(文官とか官僚目指す課ね)と三コースから選択して進学することが可能。
「え~とつまり、入学試験はあったのですか?」
ヴェスファード殿下は、ちょっと眉を上げた。
「王族は免除……だそうだ」
なんだか……殿下ってば不服そう?
「免除ですか……」
私が返事にちょっと詰まってしまったのを見て、殿下は苦笑している。
「所謂、特権というやつかな?自分の力で入学出来たのではないので……非常に遺憾だ。おまけに新入生代表の挨拶も俺だそうだ。こういう時って入学試験の最高得点の学生が挨拶するもんじゃないのか?ホント、嫌になる」
「そうですね、嫌ですね」
ヴェスファード殿下の表情は非常に硬い。
特権で入学出来て代表の挨拶も任された……つまりは王族への忖度だね。それを当たり前だとして受け入れることが普通なのかもしれないが、ヴェスファード殿下は真っ当な試験を受けて実力で最高得点で入学してみたかったに違いない。
私もそういう性分だし、こんな所でも意外と気が合いますね、殿下?
「リジューナの時も忖度発動だと思うよ?」
「え?私は普通に試験を受けられるのでは?ホラ、何と言っても私と同級生のメインヒーローのジルファード殿下がいらっしゃるし~」
「あっそうだった!次の忖度対象はジルかぁ~」
異世界でも理不尽なことって多いよね、切なくなるわ……
そうして、切なくなりながら入学の手引を読んでいて、気になった所があったので殿下に聞いてみた。
「この全寮制というのは、王族の方々も対象なのですか?」
「うん、そうだよ」
「でも、面倒ではないですか?だってジュ・メリアンヌ学園って王城の隣の敷地に建っているじゃないですか?歩いて5分の場所ですよね?変な制度ですよね」
そう私が首を捻っていると、ヴェスファード殿下はビシーッと私を指差してきた。
「分かってないなぁぁぁ?これはお約束だよ、お・や・く・そ・く!」
「はぁ……」
また始まったかな?と思ってヴェスファード殿下の動きを観察することにした。
ヴェスファード殿下はご自身の『ぽいっとボックス』から聖ジュの小説を取り出すと、両手で掲げ持った。
剣の代わりに今度は小説ですか?まあ、今度は人から見られたって動きは不審ですが、見た目は安全なものですしね。
「ファンタジー恋愛モノのお約束だろう?寮暮らしじゃなきゃ恋愛シナリオが進まないじゃないかっ!?女子寮にコッソリ忍び込んで寮監に見つかるかもイベントッ!お風呂に入ってて全裸遭遇でキャッ★のドッキリイベントッ!男子寮と女子寮の分かれ道でまだ離したくないの木陰にぃ~のイチャイチャイベントッ!それらの遭遇系イベントが実家暮らしじゃ発生しないし、色気も面白みもないだろうぉ!?」
面白みって言われてもなぁ……だってね。
「この入学の手引に書いてありますけど、男子寮、女子寮共に寮生以外の立ち入りを禁ずる。例:男子生徒が女子寮に侵入等は見付け次第、即刻退学ですって。そんなイベントより見つかって退学になる方が悲劇のドッキリですよね?」
「っうぐぅ……」
「歩いて5分の立地なのに寮住まいしなきゃいけないのは納得いきませんが、殿下の仰るお約束?の為に必要なことなのは理解しましたが、くれぐれも私が入学した際には殿下が女子寮に押し掛けるなどの迷惑行為を慎んで頂ければ幸いで御座います」
「ぅぅ……」
私が入学の手引きを殿下に返すと、唸りながらも手引を『ぽいっとボックス』に入れる殿下。
ものすご~く悔しそうだね。
「そもそもですが、殿下?小説ちゃんと読まれました?」
「どういう意味だよ?」
そろそろ真実を教えてあげようかしらね?
「殿下の仰るドッキリイベントの描写なんて小説の中に一切ありませんでしたけど?描写が無いということはメインヒーローの周りでは起こらないということですよね?恐らくですが、退学騒ぎになるようなイベントなら小説の中に盛り込まれてそうですし、起ったとしても話題にも上らないモブ達がしでかすのでしょうしね。ああでも唯一、やらかしそうな心当たりがあるとすれば……ヴェスファード殿下とか、ヴェスファード殿下とか、ヴェスファード殿下とか?」
「わ、分かったから三回も連呼するなよっ!」
「まあ宜しいのではありませんか?どうせ私達モブですし、忍び込みなどの破廉恥なことをされても話題にもならずに、王族ということで忖度対象で無いことにされておしまいですよね、流石モブ殿下!」
「そ……忖度は……それではイベントが……」
モゴモゴ言っている殿下にニッコリと微笑んで見せた。
「モブですしね!注目されないっていいですね!」
「……そうだな」
上手い具合に、忖度嫌いな殿下の破廉恥行為の抑止力になったかな?と、少し安堵したのだった。
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