第19話 モブの自由を満喫~ダンジョン攻略編~

「異世界と言えばダンジョン攻略だろ?ラスボスと戦うぜ!」


「…………はぁ」


ヴェスファード殿下の例のアレがまた始まったみたいだ。


今度はダンジョン?ん……流石にこの単語は知っているつもりだけど、一応念の為に『ウキウキペディ』で検索してみた。


「ダンジョンとは、検索」


へえ~城の地下に造られた監獄や地下牢って意味のラテン語のことなんだ。 ん?RPGゲームなどではダンジョンは地下迷宮でラスボスがいると……ラスボスって強いモンスターのことよね。


「殿下……わざわざモンスターに会いにそんな所へ行かなくてもいいのでは?」


私の言葉が言い終わらないうちに言葉を被せながら、いつもながらの興奮状態でヴェスファード殿下が早口で捲し立ててきた。


「何を言うんだっダンジョン攻略はRPGでは基本中の基本だろ!?一つ階層を降りる度に高まる緊張感とそれに勝る高揚感!宝箱と壺と、へんじがないただのしかばねのようだも全て触ってみるのが正義!そして宝箱が〇ミックだとしてもご愛敬!ギラにやられてもそれもRPGの運命!セーブポイントを探して彷徨っている間にレベルが上がっちゃうのも仕方ないよな?ああ、そう言えば昔はこんなことがあったよな~おきのどくですがの文字を見ただけで発狂しそうになったり、復活の呪文のドット文字を書き写し間違えて絶望したり、掃除機をかけていて差し込んだままのゲームカセットに、ちょこーっと当たっただけでデータが消えたりなんてこともあったよなぁ……ボス戦の前にセーブ出来ないの辛かった。学校行ってる間にかーさんにカセット外されててデータ飛んでたのも辛かったなぁ」


何かをダダーッと一気に捲し立ててから気が済んだのか、ヴェスファード殿下は窓を開けて王城の中庭を見て黄昏ている。


要するに、またオタク心が騒いでダンジョンとやらに行ってみたいという訳ね。


でも、王子様がそんな所にお気軽に行けるのかなぁ~マグリアス叔父様とか宰相閣下とか陛下もめっちゃ反対してきそうだけど……


そうしたら案の定、ダンジョン攻略は近衛騎士団のマグリアス副団長から却下され、宰相閣下に怒られ、国王陛下に大笑いされてしまったようだ。


だが、それでへこたれるヴェスファード殿下ではなかったみたいだ。


ダンジョン攻略のアレコレが一応の収まりを見せて、落ち着き始めた数日後……自室でそろそろ寝ましょうか~とベッドに入った瞬間、テラスの窓がバーンと開いてヴェスファード殿下が真っ黒な衣装で立っていたのだ。


「〇ーチ姫助けに来たぞ!」


「…………」


〇ーチ姫?…………ん?


ヴェスファード殿下は踊るような足取りで近付いて来ると、ベッドに腰掛けた私の前に跪いた。


「さあ私の手を取って、共に迷宮の果てを目指そう!」


思わず差し出られたヴェスファード殿下の手を取りかけて、殿下の発した言葉の不穏さに気が付いて慌てて手を引っ込めた。


共に迷宮の果てをぉ~?


「さあっ!いざ行かん!世界樹の元へっ!」


ヴェスファード殿下は立ち上がって抜刀して剣を掲げた。


その瞬間……乳母のメメがノックと共に部屋に入って来た。


「お嬢様?何か騒がし…………きゃああああ!!!」


メメが屋敷中に響き渡る悲鳴を上げたので、使用人達とパパンもママンも駆け付けて来てしまった。あ、因みに姉のナミア(12才)と兄のラナニアス(11才)は国立ジュ・メリアンヌ学園の学生寮に入寮している。


そう、この小説のタイトルでもある『聖オトメ☆ジュシュメリ~愛♡も正義⚔も独り占め~』のジュシュメリとはジュ・メリアンヌ学園のシュメリ……希望という意味だ。


まあ今の状況に希望も夢も全く関係ないんだけどね……


「殿下!?」


「何故殿下がっ!?」


まあ、びっくりだよね?そりゃあそうだろうよ。


メメやパパン達にしてみれば、扉を開けて目に飛び込んで来たのは、真っ黒な出で立ちで私に向かって剣を振り下ろそうとして見える、怪しい怪しいぃぃ侵入者だものね。


それがまさかの第一王子殿下のヴェスファードだとは、思う訳ないじゃない?


私の部屋に駆け込んで来た屋敷の皆は、静かに慌てていた。


なんでヴェスファード殿下がリジューナの部屋に居るの?と言うような顔をして、私とヴェスファード殿下の様子を遠巻きに眺めている。


「なぁ!?えっ!?」


そんな状況下でようやく掲げていたらしき?剣を下げると、何かを叫びだしたヴェスファード殿下の方を見ると…………これでもかと挙動不審になってるっ!?


よく分からないダンジョンマスターの小芝居?をしていたのをメメに見られて、オタクのなけなしの羞恥心がここぞとばかりに暴れ出したのか?


今はその羞恥心は捨てなよ。


「今はどう足掻いても、殿下は只の不審者ですからね?」


私の言葉にヴェスファード殿下は膝を突いた。


「ダンジョンに潜って〇ングスライムをテイムしたかっただけなんだぁ!!」


「……」


この後、殿下の言っていたテイムって何だろう?と思いウキウキペディで検索すると、主にファンタジー作品でモンスターを手懐ける、所謂〇ケモンゲットだぜ!みたいなことが出来るスキルの名称みたいだった。


ダンジョンに連れて行かれなくて良かった。流石に従わせる系の加護は持ってないしね、それにドラゴンとか大きな生き物と遭遇してたら、無事に帰って来れなかったかもだしね。


だってヴェスファード殿下って決めポーズみたいなのしてばかりで、すぐにドラゴンみ踏みつけられてしまいそうなんだもの……あら?不敬でしたね、オホホ。

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