第18話 モブの自由を満喫~飯テロ編~

「異世界と言えば、飯テロだろ!」


「……はぁ」


また始まった。今度は飯テロって何?


「そうだよ!この世界にまだ無い異世界の味を再現してみよう!先ずは定番の……マヨネーズだな!」


「え?マヨネーズですか?既にありますけど?」


「…………え?そうなの?」


拳を突き上げたポーズのまま、私の方をゆっくりと見たヴェスファード殿下に頷いて見せた。


「ええ、庶民の味なので殿下はお召し上がりになられたことがないかもですね」


そう、普通にマヨネーズという名前で市場に行けば売っているし、食べ方も普通のマヨネーズと同じ感じだと思う。


ヴェスファード殿下は首を捻って暫く考え込んだ後、そうかっ!と叫んで、再び拳を突き上げた。


「よしっこれならどうだ!これも異世界飯テロの定番っ醤油ラーメンだぁぁ!!」


「……ラーメンですか?それもありますけど?」


「嘘ぉぉぉ!?」


嘘と聞かれてもなぁ……あるものはあるんだし。


「はっ!!まさかリジューナが開発してしまったのかぁ!?俺の楽しみがぁぁ!」


今度は天を仰いでいるポーズをしている、ファンタジーオタのヴェスファード殿下。


「開発って私がラーメン作ったり出来る訳ないじゃないですか?」


ヴェスファード殿下が驚愕したような表情で私を見てきた。


「なっ何を言って……ラーメンとか小麦粉とかあれば出来るんだろ?」


「…………」


コイツはぁぁ……さては自分で料理をしたことがないんだね?


「あのですねぇ~麵に使う小麦粉は準小麦粉で、繋ぎにかん水が必要だったはずですよ?それと水と粉の配分は分かりますか?先程から簡単に醤油ラーメンとか言っちゃってますが、まさか醤油とお水で割っただけを醤油ラーメンの出汁だなんて思ってませんよね?勿論お出汁が必要ですよ。基本は鰹節、煮干し、昆布、醤油、味醂、砂糖と塩もいるんじゃないかな?最低でもこれくらいは必要ですし、材料の配分は分かりますか?」


「そ、それは……」


「自家製ラーメンを手作り、しかも頻繁にしていないとレシピなんてこの世界で数年も経てば覚えていられませんよ。因みにですが、自家製のマヨネーズですが卵と油だけで出来ると思ってません?お酢も必要ですよ?でも詳しい分量は知りませんよ。マヨネーズを作ったこと無いですし、今だって空でレシピを覚えてるのなんてパウンドケーキの作り方くらいです」


「ケーキ?!えっ?なんで……」


「ふ~ぅ、あのですねぇ~月に何度か作っていて何とかやり方を覚えてるくらいなのに、星の数ほどあるお料理レシピを覚えていられる人がいますかって!どんな記憶力の天才ですか!しかもレシピを暗記したまま何年も経ってから一から作れる訳ないじゃないですか?」


ヴェスファード殿下はガクガクと体を震わせながら、膝を突いた。


私は止めを打ち込んであげた。


「転生して直ぐに記憶していることを走り書きでもしていれば、レシピもそこそこ分かるかもしれません。でも完璧に再現出来るかと言われれば到底無理ですね。そんな天才なら、飯テロなんてせずに戦術や領地運営の能力を行かせそうですよ」


ヴェスファード殿下は床に蹲りながら、まだ叫んでいた。


「だって異世界の飯テロ系では女子高生がマヨネーズ作ったりぃ唐揚げ作ったりぃラーメンやカレーなんかパパっと作って異世界に広めてるんだよぉ!!」


私は思わず鼻で笑ってしまった。


「こちらの世界には〇ックパッドも〇くれぽもありませんからねぇ~そりゃ作者の方は見ながら小説や漫画は書けますけど、普通は検索すら出来ないから無理ですねぇ」


ヴェスファード殿下はハッとしたような顔で私を見上げた。


「お、俺達には『ウキウキペディ』があるじゃないかっ!!検索したらパパッと出て来るんだから今からでも飯テロ系は間に合う!」


あのねぇ~ヴェスファード殿下って地頭は良いと思うんだけど、肝心な何かが抜けてるんだよねぇ。


「殿下ってば忘れてません?今、私達が居る世界って小説の中ですよ?異世界の、日本で日常的に目にするものは当然、小説の中にも普通に存在してますよ?城の食堂で定食を食べたことないのですか?超唐揚げ定食メガ盛りとか、サバの煮込み定食、お刺身定食も食堂にありますよ。あ、城の食堂はセルフサービスで食券が必要ですよ」


そう……ヴェスファード殿下に会いに王城に来たついでにいつも社食(城食?)を頂いて帰っているのだ。普通に美味しくてヨーロッパ風の世界観に違和感のある和食三昧なのが笑えるとこだ。


「今日は日替わり定食でしたね。あ、そろそろ冷やし中華始めましたの時期かな~?」


ヴェスファード殿下は完全に床に突っ伏して、ブツブツと呪い?の言葉を呟いていた。近付いて聞き耳を立ててみると……


「カレンちゃんはカレーもハンバーグもグラタンもラーメンもプリンもシュークリームもパパッと作ってあげてたんだぁ。領地でブームになって異世界の叡智なんて言われちゃって皆に持て囃されてたんだよ……」


「殿下……小説の中の人って所詮ファンタジーな存在ですからね?」


カレンちゃんって誰だ?と、思いつつ……ファンタジーオタなくせに、現実のファンタジーを受け入れられないのかなぁと思ってしまった。


そうそう余談だけど、私が唯一覚えていたパウンドケーキのレシピでケーキを焼いてみたことがあるんだけど……案の定、ちょっとパサついている普通の味だった。


なんならオーデンビリア家の料理長や、王城で殿下とのお茶の時に頂くケーキの方が遥かに美味しいくらいだった。


そりゃ、料理人達はプロだもんね。それでお給料頂いている訳だし、素人の私が敵う訳ないんだよね。


それでもヴェスファード殿下はまだ開発されていないレシピがあるんじゃないかと、この世界のレシピ本を片っ端から読み漁っているらしい。


頼むから、異次元の取り合わせを思いついてメシマズ料理だけは作らないで欲しいと思わずにはいられなかった。


それは殿下に勧められても、絶対に食べないけどね。

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